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きょうの社説 2010年1月12日
◎文化的景観の保護 精神風土も継承してこそ
金沢市が文化的景観の保護に関する施策の一環として、茶の湯の聞き取り調査を行って
いるのは、当を得た取り組みである。近世城下町の都市構造と藩政期からの伝統工芸や生活様式を伝える金沢市の中心区域などは昨年、国の「重要文化的景観」に選定された。歴史・文化都市金沢の価値をさらに高めるものであるが、文化的景観が人々の日常生活の中で形成され、金沢の精神風土や固有の文化を反映するものであれば、それらを継承、発展させてこそ重要文化的景観に選定された意義がある。自然景観と異なり、人間の営為によって生み出された文化的景観はそれだけ変わりやす く、また失われやすくもある。人が住まなくなると、家が急に傷むのと似ている。金沢市内に数多くある茶室は金沢の文化的景観の構成要素の一つであるが、そこに茶の湯をたしなむ市民がいなければ、景観のいわば形骸化であり、茶道人口を増やしていくことの方がより重要な文化施策といえる。 茶の湯が金沢市民の生活にどれほど根付いているかを把握する調査は昨年、尾張町大通 りや里見町などのまちなか区域で実施され、今年は引き続き新興住宅地で行われることになった。 昨年の調査によると、対象住民の8割は「金沢は茶の湯が盛ん」と答えたが、実際に茶 会に参加した経験のある人や茶室、茶道具を持つ家庭は2割程度という。新興住宅地では、その割合はさらに低いとみられる。この調査を具体的な施策に生かして茶の湯文化の浸透に努めてもらいたい。 茶道に限らず、能楽や華道、伝統的な生業など文化的景観を形づくってきたものの振興 を図ることがなお重要なのであり、金沢の精神的・文化的風土が息づいていることで、文化的景観も生き生きとしてくる。文化的景観の保全と文化・文化産業の振興は表裏一体といってもよい。 文化的景観とは「人々の生活や生業、地域の風土により形成された景観地」と定義され る。分かりにくい概念だけに、保全の意義を市民に理解してもらう努力もこれまで以上に必要である。
◎同盟深化の協議 不振のもとを断ちたい
昨年の日米首脳会談で合意した「日米同盟深化のための新たな協議」が、13日にハワ
イで開かれる日米外相会談で事実上スタートすることになった。オバマ政権が普天間飛行場移設問題の決着を待たずに外相会談に応じたのは、米国の「アジア外交の礎石」である日米同盟を、普天間問題に縛られてこれ以上悪化させたくないという判断からとみられる。しかし、米政府内には、普天間問題をめぐる言動で鳩山由紀夫首相に対する不信や失望感がくすぶっており、政権同士の信頼の立て直しが必要である。今年は日米安保条約の改定から50年の節目である。日米同盟を安全保障だけでなく核 軍縮や温暖化防止、貧困などグローバルな問題について幅広く協調できる関係に「重層的に深化」させようという鳩山首相の主張はよい。冷戦の終結から20年を経て、国際秩序の在り方を協議する主要国の顔ぶれは変わり、米国一極支配から多極化へと世界は動いている。また、現実の核やテロの脅威がいっこうに減らない国際情勢に応じて、日米同盟をより堅固で高次、広角の関係にしていきたい。 問題は、同盟の核心である安全保障政策について、鳩山首相の基本的な考え方が示され ていないことであり、そのことが米側の不信感のもとになっている。普天間問題の速やかな決着はもとより、米軍の抑止力をどう認識し、日本の防衛政策をどう展開するのかを具体的に語ってもらいたい。 日米安保条約の節目を機に、同盟の在り方を包括的にレビュー(再検討)したいという 鳩山首相の意気込みはよしとしても、同盟深化の協議はまず、日本の安全の要であり、アジア太平洋地域の安定装置でもある日米安保の価値を率直に認めることから始めなければなるまい。今は前政権の対米政策を従属的と批判、否定することにばかり熱心にみえる。 さらに「緊密かつ対等な同盟」をめざすのであれば、そのために日本としてできること 、なすべきことを語る必要がある。そうでなければ、同盟の深化といってもうわべだけになりかねない。
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