きょうのコラム「時鐘」 2010年1月12日

 先日掲載された小紙「新年文芸」に、ほほ笑ましい短歌があった。1位に選ばれた「父老いて『お前が男だったなら』の正反対を我に言うなり」

老境に入った父はかつての口癖を翻し、頼りになる娘のありがたさをしみじみ思う。子どものころに同じことを言われたという女性は、周囲にもいる。逆に、愛くるしい少年に「女だったなら」と嘆く親の話はついぞ聞かない

そのはずなのだが、最近は随分怪しくなってきた。性別の分からぬ人物がテレビで騒ぎ、人気を集めているそうな。揚げ句、草食男子と肉食女子とが大手を振って歩く時代である

学校に適応できない「小1問題」なる言葉を紙面で知った。しつけが足りない新1年生が増えているという。いろんな原因があるのだろうが、子は時代を映す鏡である。男女の領分があやふやな奇妙な風が吹き荒れ、それが子どもたちを巻き込んではいないかと、気に掛かる。優しい父と怖い母は、逆である

鉄は熱いうちに打たねばならない。よもやとは思うが、成長した子に、「父親が男だったらよかったのに」と嘆かせる将来など、想像したくもない。