日刊スポーツのニュースサイト、ニッカンスポーツ・コムの社会ページです。

  • 日刊スポーツIDについて


ここからこのサイトのナビゲーションです

共通メニュー

企画特集


2009年12月28日

アイドルグループ“甲”を襲った卑劣な犯行

 今回は12月25日にさいたま地裁で行われた渋谷耕太被告人(追送検時25)の第2回公判の話。罪名は、窃盗。

 女性アイドルグループ“AKB48”のメンバーの転居届を勝手に郵便局へ提出し、郵便物を自宅へ転送させたとして窃盗罪で起訴されていた渋谷が追起訴されたという事件ですね。報道によると自宅からはメンバー宛の携帯電話料金の請求書やレッスンの日程表など、約200点が見つかったと伝えられた。

 追送検の容疑は08年9~10月、メンバーの1人が自宅に転居してきたとする虚偽の届けを自宅近くの郵便局に出し、このメンバー宛の郵便物2通を自宅に届けさせたとしたもの。09年5月、メンバーの1人が県警に「郵便物が届かない」と相談。捜査で11人の住所が勝手に渋谷宅へ変更されていることがわかったことから事件が明るみになった。
 渋谷は同様の手口で08年10月~09年6月にメンバー2人宛の郵便物22通を盗んだとして起訴されていた。渋谷はメンバーの住所を「ファン同士の交流を通じて知った」と供述。郵便物への届け出の際、「メンバーの身分証明書は提示を求められなかった」と話しているという。

asozan091228.jpg

 芸能人に対するストーカー的犯罪って、昔からあったんだけど、勝手に転居届を出して郵便物を盗むとは、前代未聞。それが、逮捕時じゃなく、追起訴で報道されてることにも驚き。
 で、初公判(メンバー2人の郵便物の盗みと思われる)は傍聴していないので、第2回公判の起訴内容から。

 裁判官 「本件は、被害者特定事項秘匿の決定をしてますので」

 と、いうわけで匿名での朗読です。

 検察官 「被告人は、平成20年9月8日、上落合郵便局に、アイドルグループ“甲”のC子が被告人宅に引っ越したと伝え、同年9月9日から10月中旬の間、C子宛の郵便物2点を被告人宅に転送させて盗んだものである」

 とのこと。アイドルグループの名前が“甲”って、人気出なさそうだけど。
 取り調べに対して被告人は「甲のメンバーの情報を得たかった。(起訴された)3人以外のも手に入れていた。直接郵便受けから手紙を盗ったこともありますし、C子に至っては、部屋に侵入してレッスン表を持ち帰ったこともあります」と述べているらしい。
 被告人の父親が情状証人として出廷し、今後の監督を約束していました。
 そして、被告人質問。まずは弁護人から、

 弁護人 「今、お父さんが証言してるのを見て、どう思いました?」
 被告人 「申し訳ないのと、感謝に尽きます」
 弁護人 「あなたの最終学歴を教えてください」
 被告人 「20歳のとき、大学中退です」
 弁護人 「取り調べでは、その後の職歴をチケットの転売、競馬、派遣アルバイトと答えているようですが、定職に就かなかったのは?」
 被告人 「まず1つに、危機感がなかったのと、就職活動の仕方がわからなかったというのがあります」

 と、初公判の冒陳では明かされていただろう事実の確認がありました。そして、事件の質問。

 弁護人 「やってる時、抵抗ありませんでした?」
 被告人 「興味本位が勝ってしまいました」
 弁護人 「何に対して興味?」
 被告人 「やったらどうなるんだろう…という興味です。自分の知らない世界と言いますか、得体のしれないものを知りたいという欲がありまして…」
 弁護人 「満足度はあったんですか?」
 被告人 「やってみたら、しょうもないことばっかりで、捕まる前からくだらないことしたなぁと」

 “しょうもないこと”というのが、自分の行為を意味してるのか郵便物を指しているのかはわからないだけど、満足度は得られずに後悔していたようです。

 弁護人 「ファンなら私生活より普通に応援すべきじゃないの?」
 被告人 「応援と言われましたが、最近は興味がなくなっていたところでしたので」
 弁護人 「あと、余罪に関してはすべて自分から話したんですよね?」
 被告人 「はい。こういうことを言うと自分のことしか考えていないように思われてしまうかもしれませんが、隠さずすべて、今後の人生を設計していくために話しました」

 と、反省してすべてを告白し、今は興味がないので再犯しないことをアピールして質問終了。
 次は、検察官から。

 検察官 「アイドル以外の転居届を出したことは?」
 被告人 「ないです」
 検察官 「それはアイドルの情報が欲しかったから?」
 被告人 「それはちょっと違いまして、さっき言ったように得体の知れないものを知りたいと言う欲…」
 検察官 「アイドルが得体が知れないってこと?」
 被告人 「普通の人にしてみればそうだと思います」

 アイドルグループ“甲”じゃなくても、得体の知れないものであれば何でもよかったのかも知れませんね。甲のメンバーは住所の知ってるし、都合がよかったと。

 検察官 「今後、再犯しないためには?」
 被告人 「メリハリのある生活をすることが、大事だと思います」
 検察官 「暇だったのが原因である、と?」
 被告人 「はい、そうです」
 検察官 「暇な人なんてたくさんいると思いますけど、自分の何が原因だと思いますか?」
 被告人 「自分の暇の対処の仕方に幼稚さがあると思います」
 検察官 「先ほど、満足感はなかったと言ってましたが、自首しようとは思わなかったんですか?」
 被告人 「こんなに大ごとになることとは思っていなかったので」
 検察官 「勝手に迷惑かけてるのはわかってましたよね?」
 被告人 「はい。でも、(郵便物が)届いている事実が面倒で、見るのもうっとうしくなって、タンスに突っ込んでたもので」

 と、タンスに押し込んで現実から目をそらしていたようです。被告人としては最初は興味本位だったんだろうけど、1度転居届を出したら被害者の郵便物は届きっぱなしですからね。うんざりしていたんでしょう。
 この後、裁判官から事件の確認をする質問が2つ程あって、質問終了。
 検察官が、懲役2年を求刑し、最終陳述で、

 被告人 「自分の幼稚さが引き起こした事件だと思います。被害者、郵便局員、両親には迷惑をかけて大変申し訳ないことをしたと思っています」

 と、述べたところで、閉廷…と思いきや、裁判官が間を空けずに、

 裁判官 「では、判決を言い渡します」

 と、即決です。
 判決は懲役2年執行猶予5年でした。郵便物のドロボーとしては執行猶予5年は重い気もするんだけど、前代未聞の手口ですからね。
 もう郵便局としては対策してるんだろうけど、もっととんでもない悪用をされかねない、制度の盲点をついたでしたね。そう考えると、被告人の興味本位という欲を満たすだけだったというのは不幸中の幸いといったところか。

 さて、来年は1月11日から隔週の更新になります。大きな裁判を傍聴できた時はここで紹介します。それでは、皆さんよいお年を~。

※写真は卑劣な犯行に大迷惑のAKB48

注目の裁判

1月12日(火)被告人・和田達夫、嘉藤悦男:背任(判決)
<理化学研究所をめぐる汚職事件> 09年9月、独立行政法人「理化学研究所」(理研、埼玉県和光市)の主任研究員、和田達夫(当時53)は、取引先の理化学器具開発販売会社「秋葉産業」の社長、嘉藤悦男(当時76)から旅行や飲食費などの代金付け回しを受け、その穴埋めに架空発注を行ったとして逮捕された。

1月13日(水)被告人・国見東一:準強姦
<睡眠薬を飲ませて女性を暴行した事件> 09年1月、会社員、国見東一(当時48)は、07年3月に就職セミナーで知り合った女性に風邪薬と偽って睡眠薬を飲ませ、暴行するなどしたとして逮捕された。

1月13日(水)被告人・富樫修:威力業務妨害(初公判)
<日本航空に脅迫メールを送った事件> 09年11月、西東京市の無職、富樫修(当時36)は、威力業務妨害容疑で逮捕された。同年9月に日本航空に「ソウル発成田行き航空機をジャックする犯行予告をした」などとメールを送り業務を妨害したというもの。

1月13日(月)被告人・大久保隆規:政治資金規正法違反
<西松建設の献金事件> 09年3月、民主党の小沢一郎代表の公設第1秘書で資金管理団体「陸山会」の会計責任者、大久保隆規(当時47)は、準大手ゼネコン西松建設が政治団体をダミーにして政界にトンネル献金をしていたとされる事件で政治資金規正法違反容疑で逮捕された。

1月14日(木)被告人・小口良:鳥獣保護法違反(初公判)
<無許可で野生の鳥を捕獲した事件> 09年11月、川崎市川崎区の「ペットショップコグチ」代表、小口良(当時73)は、無許可で野生のホオジロなどを捕獲、販売したとして逮捕された。


この記事には全0件の日記があります。


ソーシャルブックマークへ投稿

  • Yahoo!ブックマークに登録
  • はてなブックマークに追加
  • Buzzurlにブックマーク
  • livedoorクリップに投稿

ソーシャルブックマークとは

阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

最近のエントリー


社会ニュース

記事バックナンバー


政治ニュース

記事バックナンバー


経済ニュース

記事バックナンバー


国際ニュース

記事バックナンバー



社会ニュースランキング



日刊スポーツの購読申し込みはこちら

  1. ニッカンスポーツ・コムホーム
  2. 社会
  3. コラム
  4. 阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」

データ提供

日本プロ野球(NPB):
日刊編集センター(編集著作)/NPB BIS(公式記録)
国内サッカー:
(株)日刊編集センター
欧州サッカー:
(株)日刊編集センター/InfostradaSports
MLB:
(株)日刊編集センター/(株)共同通信/PA SportsTicker Inc

ここからフッターナビゲーションです