呟き日記 1月
また一年
有働雄哉
花園が終わった。
翌日、また苦しい練習の日々に戻る。
すべては一年後の花園のために。
雑煮
有働雄哉
正月は花園で合宿なんやけど、合宿先でもちゃんと正月料理は出る。
宿のおばちゃんが張り切って豪華な雑煮を作ってくれるんやけど、オレらが欲しいのは、ひたすら餅やった。
豪華さはどうでもいい。とにかく餅や!餅をたらふく食わしてくれ!ていう感じ。
食に関しては先輩後輩関係ない。そこはもう弱肉強食や。
男子高校生数十人が餅を奪い合い、皆で何百個も食べつくして、
唖然とする宿の人に、高橋はひたすら謝ってた。
男子厨房に入るべからず
稲嶺智晴
「男子厨房に入るべからず!」
幼い頃、兄貴らに叩き込まれた男論のひとつ・・・・・・。
今から冷静に考えたら時代遅れも甚だしいんやけど、
男は台所に入ったらアカンのやと、本気で信じ込んでたオレは、
18で一人暮らしをはじめたとき、兄貴らを恨んだ。
飯を炊くどころか、お湯も沸かせへんかったからや。
火のつけ方から、まずコンロの説明書を読んだぐらいやった。
そんな感じやから、はじめ袋のインスタントラーメンを作るのに30分もかかった。
包丁も怖ァて使えへんから、文具用のはさみでネギを切ったぐらいで・・・・・あほか。
はじめて米を炊こうとした時、ようかわらんから、とりあえず30分以上、米を洗い続けた。
しかも炊くのに水を入れるということを知らずにスイッチを押したら、どえらいことになった。
こんな感じで台所に立つと駄目人間っぷりを叩きつかられるから
一人暮らしして8年間、コンビニ弁当か外食で過ごしてきたオレ。
その話を有働にしたら、育ちのヨロシイ彼はさすがに呆れて
「ほな、オレが来たときは、出来るだけつくったるから!」
と、寮母さんからたくさんのレシピをもらって来た。
有働も料理はたいしてしたことがないと言うてたけど、
キャンプや先輩への夜食、なにより実家で台所に立つ姉たちを見てきたんは大きい。
レシピを見ながらではあるけど普通にうまい料理をつくる。
16歳の少年、しかも教え子に飯をつくってもらって
「うん、うまい」
ともそもそ食う26歳高校教師の図ってどうなんやろ・・・・・・なおのこと落ち込んできた。
幼い頃
有働雄哉
姉ちゃんらに絶対聞いたらアカン話がある。
オレの幼い頃の話や。
オレがいかに可愛かったか、何時間でも延々と話されるから。
「ゆうちゃん二歳の頃はじめて見た雪をおいしそうやから食べたい思て、
一生懸命つかもうとするんやけど、口に入れる前にすぐとけてしもぉて、
大泣きしたことあってなぁ」
「そうそう、あんまり可哀想やから、綿菓子を必死になって探しに行ったんやっけ」
「それからあのお漏らし事件・・・・」
「ああ、お漏らし事件!!あれ傑作!」
話す前から大笑いする。
こんな状態で姉ちゃん四人に囲まれて、ひたすら屈辱に耐えなアカンのや。
いまや幼い頃の面影がないぐらい成長しても、姉ちゃんらには
雪の上に仰向けに倒れ手足ジタバタさせて大泣きした二歳の弟のままや。
正月
稲嶺智晴
正月、有働は花園で合宿中やから、やることがないんで、久し振りに実家に帰ってみた。
集まってきた兄弟や親戚と適当に話を合わせつつ、おせちや酒をちびちびと。
それに飽きてきたら、上の兄貴(既婚)の息子とプロレスゴッコで構ってやる。
その時、
「おッ!花園でハルちゃんトコの学校やってっど」
テレビを見ながら下の兄貴(独身)が言うた。
振り向いたら、ちょうど画面が有働のアップで、口から心臓が出そうになった。
「・・・・・・・かッ・・・・・勝ってる?(声が裏返ってる)」
「おお、ボロ勝ちやな。この8番がアホほど点入れてるみたいや。ここまで点数広がるとおもろないな」
兄貴はビールをグビリと飲んだ。
「そ、そっか」
・・・・・良かった・・・・実は怖くてテレビ見れんかったんや。
年末は合宿でずっと会ってへんから、本当は毎試合でも観戦に行きたい。
でも、これはオレなりの願懸けなんや。
決勝には絶対行くからな、有働。それまできばれ。
「この8番、最近テレビや雑誌でよう見るな。有名な子やろ」
「う〜・・・・・うん?そうかな・・・・オレのクラスの子」
「ほんまけ?まぁ確かにラグビーは抜群にうまいけど、女の子にキャーキャーいわれて、ちょっとチャライ感じちゃうけ?」
「・・・・・・いや、そんな子やないよ。どっちかというと素朴なタイプ」
オレはどんどん赤面していく。
「ほ〜ん」
兄貴が画面を見てくれてて良かった・・・・・・。
「あッ!智晴!顔真っ赤や!」
上の兄貴の息子がオレを指差して叫んだ。
「てめっこのっ」
誤魔化すために慌てて技をかける。
「痛い〜ッ!智晴オレ子供やどぉ!手加減せぇや〜!」
五歳児と真剣にギャーギャードタバタしてるオレを見て
「そんなんでホンマにちゃんとガッコのセンセーやってんのけ?ハルちゃんは」
兄貴が呆れて言うた。
(稲嶺家三兄弟は全員名前に「智」が入っているため、「智」以外で呼ばれる)