参議院議員 中曽根弘文
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毎日新聞
元文部大臣
参議院議員 中曽根弘文

 「ゆとり教育」への批判が昨年来、教育界だけでなく各界からも寄せられている。「学力低下」を懸念し、「新学習指導要領の実施」、「完全学校週5日制」への反対論等である。
 学力が重要なのは当然だが、教育は知識の修得ばかりではないはずだ。知・徳・体のバランスの取れた人間を育成していくことに重きを置くべきだ。「ゆとり教育」批判の多くは学力の面にのみに焦点を当て、それ以上に重要な「心の教育」を同時にどう行ったらよいか、ということにほとんど言及していない。この点は残念でならない。
 昨今の青少年の規範意識や社会性の欠如は危機的状況と言ってもよい。有害情報が氾濫し凶悪犯罪も後を絶たない。こうした現実を注視するなら、将来を担う青少年の健全育成は国家の最重要課題でなくてはならず、家庭や学校でも今こそ「心の教育」に全力で取り組むべきだ。どんなに勉強ができても、ナイフで平気で人を刺すような子供を育ててはいけない。
 「学習内容が3割削減された」との批判があるが、誤解もある。実際は、教育内容を精選・厳選し、その分新たに「総合的学習の時間」を設け、また「選択教科」の時間を増やしている。従来の7割しか勉強しないということではない。
 体験活動や奉仕活動を通じて、子供の道徳心や倫理観を高め、またIT(情報技術)や語学、環境問題など、国際化時代に求められる様々な分野を学ぶ。さらに「選択教科」で、生徒一人一人の固有の能力を引き伸ばし、人生の選択へと繋げていく。
 つまり、「授業のゆとり」を生むためではなく、子供に「心のゆとり」を持たせながら、意欲や能力を高めようとするもので、限られた授業時間を遣り繰りした結果であり、高校卒業段階では、これまでと同程度のことは学び終えることになっている。
 先進国では完全学校週5日制は当たり前だ。導入が遅れていたのは、日本、韓国、イタリアぐらいだった。土曜日には、子供たちは体験活動や奉仕活動、文化、スポーツ、趣味などに積極的に取り組んで欲しい。このために国や地域や団体等が、体験プログラムなど、土曜日の子供の多様な受け入れ体制を何年も前から時間をかけて整備している。
 出来ることなら家族と一緒が良い。仕事などの事情で子供と共に過ごすことのできない親も多いが、電話やインターネットでプログラムを調べ、子供を参加させることもできる。要は、親や社会がどれだけ子供のために努力し行動するかであり、何よりも熱意が肝心だ。土曜日は我が子を学校から取り戻し、自分で教育を行える絶好のチャンスと考えて欲しい。子供を決してお荷物扱いしてはならない。
 現在進めている数々の教育改革の狙いは大きく二点ある。少人数授業等で基礎・基本を徹底し、達成感や充実感を味わうことにより「自ら学ぶ意欲」を高め、学力を向上させること。もう一点は、各種体験活動などを通じて道徳心や倫理観を身に付け、心豊かな人間を育成することだ。
 人材が資源である我が国では、学力の向上を図らなくてはならないが、同時に子供たちの心の荒廃を何としてもここで食い止め、道徳心や倫理観を高めていくことが最大の課題だ。
 我が国は国際社会をリードし、世界の平和と繁栄を築く一翼を担う大きな責任がある。日本の伝統文化や社会規範を大切にし、深い教養と品格を有し、そして日本人としての自覚と誇りをしっかりと持った、心豊かな尊敬される逞しい国際人を育成する教育を社会全体で進めていかなくてはならない。

平成15年9月7日への寄稿文

 


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