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続・児童虐待

柳美里

毎月〈ランヤニュース〉という新聞が発行されて、壁にべたべた貼られるし、この前やんわりと、「もう、そろそろ、ランヤは閉店したほうがいいんじゃないかな」と提案したら、学校で「ランヤは永久に不滅です」というタイトルの作文を書いて提出したんですよ、学校に。でも、なんていうんでしょう、自宅を「ランヤ」だと考え、「ランヤ本部長」として息子に接すると、非常にうまく行くんです。摩擦も衝突も起きない。買い物に行くときも「ランヤ調理部の仕入れです」とかなんとか言って、お互いデスマス口調でしゃべるから、傍から見たら奇妙かもしれないけど、怒鳴ったり殴ったりというような虐待はしなくて済みますよね。一月で息子は十歳になるんですけど、このまま「ランヤ」をつづけるのは、良くないんでしょうか?

長谷川 う〜ん、いや、良い、悪いっていうのはあんまり言いたくはないですが、うん、衝突を回避しているんだろうな、というのはよく解ります。だって「ごっこ」と言われたけど、それはロールプレイで、母と息子との関係は、そこで展開されていないからね。うん、良い面、悪い面、両面あるんでしょうね。「ランヤ」の本部長と従業員という関係に回避しているという風に見ることもできるし、我が子と真正面から向きあって、どういう母子関係を築いていこうか模索しながら生きている母親ではない、という見方もできますものね。「ランヤ本部長」でいる限り、息子さんは疵つく体験をしなくて済むし、母親である柳さんもあとから自己嫌悪に苛まれるような体験はしなくて済むわけだから、アリかなと思う一方で、それが真の解決に?がるのかどうかな、と。

 「ランヤ」のメッキが剥げて、母親と息子という関係が露出すると、かならず衝突してしまうんですよ。でも、最近、「ランヤ」が家の中の「ごっこ」に留まらないで、例えば先ほどお話しした作文もそうなんですけど、玄関の小さな黒板に「ランヤ十周年記念セールのお知らせ」なんて書くもんだから、訪ねてくる客に、「ここ、なんかのお店屋さんなんですか?」と訊ねられたり、私の友だちなんかにも去り際に「毎度ありがとうございます!」なんて営業スマイルで頭を下げたりしてるのを目にすると、現実の母子関係を回避するための「ランヤ」という空想の店が、現実に進出しはじめたんじゃないかと……。

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COURRiER Japon
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    柳美里柳美里
    (ゆう・みり)
    1968年生まれ、神奈川県出身。劇作家、小説家。1993年に『魚の祭』で岸田戯曲賞を、1997年には『家族シネマ』(講談社)で芥川賞をそれぞれ受賞。『ゴールドラッシュ』(新潮社)、『命』(小学館)、『柳美里不幸全記録』(新潮社)など、小説、エッセイ、戯曲の作品多数。

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