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中国経済はバブルか?バブルへ向かっているのか?

2010年01月08日

経済統計の修正という迷惑なクリスマスプレゼント
 去年(2009年)の12月25日に中国の国家統計局から迷惑なクリスマスプレゼントが届けられた。「2008年の経済成長率(推定値)を9.6%とし、従来発表の9.0%から引き上げる」というものだ。

 それによると、2008年の国内総生産(GDP)推定値は31兆4050億元(4兆5950億ドル、427兆円)であり、従来発表の30兆670億元(4兆4000億ドル、409兆円)から引き上げるということになった。過去において中国は2008年4月にも2007年の成長率を11.4%から11.9%に上方修正し、その後2009年1月には再度引き上げて13.0%としている。

 もはや中国の「GDP暫定数値の上方修正」はお家芸と言えそうだ。「上方修正でよかったですね」などと言うかもしれないが、これは「ちょっと待て」である。2008年のGDPの修正差額は日本円で18兆円になる。これは北海道や福岡県やマレーシアの年間GDPにも相当する巨大な金額なのだ。

 統計の数値発表は正しいなのか? その統計数値を信用してよいものなのか? 正直言って不安が残るところである。いったい中国とはどういう国であり、現状においてこの国で何が起こっているのか、国際金融の観点から総合的に検証をしてみたい。

空売り王、ジム・チェイノス氏の最近の発言
 ヘッジファンド・マネジャーであるジム・チェイノス(Jim Chanos)氏による最近の発言がマーケットで話題を呼んでいる。

 チェイノス氏は投資ターゲットの本質的な内容を徹底的に調べ上げ、そこから出てきた矛盾を元に「空売り」を仕掛ける投資家として有名である。

 氏の投資実績としては、2000年から2001年当時の“優良企業”エンロンの株を対象にした空売りがある。エネルギー大手エンロンの破たん前、米国フォーチュン誌に「エンロン株は過大評価か」という記事を書く材料を提供したのがチェイノス氏。エンロンが粉飾決算の塊のような企業であることを見抜き、エンロン株を80ドルで空売りを行って、後に2ドルで買い戻したことは、氏の投資手腕を語る上で有名な話だ。

 そのチェイノス氏が現在空売りのターゲットに置いているものの一つが中国経済全般だ。氏は中国経済に巨大なバブルが形成されていると信じている。中国の国家統計局が伝えるGDP数値はまったく正しくなく、信じるに値しないし、また「中国ほど過剰なまでの融資をしている国は他にない」との見解から、香港上場のH株や、世界規模で銅、セメント、鉄鋼石の生産業者を空売りしているようである。

 もしチェイノス氏の言う通りなら、中国の発表するGDP数値は著しく水増しされており、中国の商品需要は現在予想されるよりもずいぶん少ないものになるはずである。

 さらにチェイノス氏を始めとする「中国経済に対する弱気派」は、その根拠として以下のことを挙げている。

・中国は大きな崩壊に向かっており、危険性を増やして経済を過熱させている。

・中国の経済刺激策については、財政支出分に見合う成果は出ていない。公的資金による財政支出で、ほとんど需要のないショッピングモールや贅沢品の店舗を作り、不要な社会資本整備を行っている。

・中国の公的な統計では自動車販売は伸びていっているが、ガソリンの消費量は実際には伸びていない。

・生産設備余剰の問題もある。例えば、中国でここ数年間にセメントの生産施設を増強してきたことにより、必要な量を上回る余分な生産を行う設備を持っている。これと同じようなことは中国のあらゆるところで起こっている。中国は、買い手が不在のまま、大量の商品や製品を過剰生産する危険性の中にある。

 これらがどこまで本当のことなのか、実態を探ってみる必要がある。

中国GDP数値の考察
 中国の統計を調べてみると、名目GDPに対する名目輸出の割合は40%に相当し、輸出にかなり依存した経済構造であることが見て取れる。日本も輸出依存型経済であると言われるが、名目GDPに占める輸出の割合はせいぜい15%程度であり、中国に比べるとかなり低い。これからすると、中国は輸出依存度の高さゆえに輸出相手先である先進国の経済の影響をストレートに受ける状況にあると言える。

 2007年までは全世界的に好景気であり、それに追随する形で中国経済も飛躍的な経済成長を成し遂げた。しかし、2008年秋に起こった世界金融恐慌の波は新興国経済にまで影響を及ぼした。中国の2008年半ばまでのGDP成長率(実質年率換算)は四半期ごとに見て9%から10%台(前年同期比、以下同様)で推移していたが、2008年10~12月期には6%台にまで落ち込んだ。そこで8%台の高成長を維持するために打ち出されたのが2008年11月5日~9日の国務院常務会議決定による、総投資額4兆元(57兆円)の景気刺激策である。これは2010年末まで行われ、経済成長を年率1%引き上げる効果があるとされている。

 中国はこの4兆元に上る景気刺激策で順調に成長していると言われているが、「実際に2009年に起こったことは、銀行の新規融資が2008年の2.5倍の規模で増加し、そのうちの50%ぐらいが土地や株式等の投機に流れ、そのお金が中国国内をグルグル回りながらバブルを形成していることである」という見方ができる。残りの50%は国営企業の設備投資に回っているとされるが、いまや生産供給の過剰ぶりが顕著になってきており、設備が余剰な中で、さらに設備投資を行っているという「過剰投資の上塗り」の状態にあると言われている。これらのことからすると、景気刺激策の財政支出は経済を振興させる上では効果が薄いということになってしまう。

 中国の諸指標については分かりにくいところがあり、例えば実質GDPと発電量の伸びを見ると、実質GDPの伸びほどには発電量は伸びていない。電力使用の90%が工業用と言われる中で、電力の消費量(=発電量)の伸びがGDP以下の数値であるということは、GDP数値を信用するにはどうにも心許ないということになる。

 また、中国を輸出の側面から見てみると、中国経済は、米国経済が回復もしくは成長する中で伸びていくという「連れ合い」の関係にある。つまり、現下のように米国経済の回復が本格化しない中で、中国の米国向け輸出が伸長するはずはないのである。となると、GDP数値にも何らかの影響を与えても不思議はなさそうである。

 これとは別に、GDP数値の不確実性については、「輸出戻し税」という中国から輸出した製品の付加価値税を還付する制度の存在を指摘する事情筋もいる。「中国の国営企業が還付金を請求する際、より多額の還付金をもらうために、輸出額を増やして申告しているのではないか。そして、その数字を積算して作成されたGDP数値そのものに疑義がある」という説である。このような説まで出て来ると、どこまでが正しい話でどこからが正しくない話か分からなくなり、混乱してしまう。

中国でバブル形成か
 また、チェイノス氏を始めとする「中国弱気派」は、中国で現在、史上最大のバブルが発生していることを指摘している。

 中国国内で銀行貸出による過剰流動性や公共投資によって溢れだしたお金は、国内で行きどころをなくして彷徨い歩き、結局は中国株や不動産投資に行きつく。こうすることで経済のバブルは着々と醸成されていく。

 実際に上海の分譲建物の販売価格の上昇率は2009年1~10月の累計で前年比50%近い上昇率になったとも言われ、日本の80年代後半から90年代にかけてのバブルと同じ匂いを感じる方も多いことであろうと思われる。

 今後、中国国内のインフレ加速で個人の預金から中国株や不動産市場にお金が流れると、より一段のバブルを形成することになってしまうのではなかろうか。そしてバブル状態となった経済は長続きするとは考えられない一方で、バブル崩壊後の経済は数年から十年以上の期間に渡ってデフレ状態となり、経済実態を著しく悪化させ、マクロ経済政策の運営を困難にさせる。しかし現時点の中国で起こっていることのどこまでがバブル状態なのかは判然としないところである。

今後の中国経済の見通し
 中国国内の社会情勢を考察してみると、もし中国が今後高い経済成長率を維持できない場合、貧困な農村部から沿海工業地域へ出稼ぎ目的で出て来た労働者の雇用を確保できなくなり、労働者層は中央政府への不満を高め、社会不安が起きてしまう。このようなリスクを伴う社会構造の中で経済運営を行っている状況なのである。

 社会不安を起こさないためには、高い経済成長率を達成し続けないといけない。その達成のために行った公共投資や新規貸出によってお金は、中国国内の株式市場や不動産市場に集中する形で流れ込み、局所的なバブル経済を生み出しつつある一方で、個人消費等の内需の拡大に直結していない、という状況は皮肉なものだと言わざるを得ない。

 それもこれもすべては、米国の景気に頼った経済運営を行っていることへの歪みがこれまでとは違った形で現れているということではないだろうか。今後、米国経済が順調に回復すれば、米国の個人消費が伸びて中国製品を購入することによって中国経済の伸長も期待できる。

 しかし、仮にもし米国の景気が二番底の状態に陥って回復がままならないとなれば、中国は今後も「売るあてのない製商品の生産」を続けることになり、その場合は再度、財政支出による景気刺激策に頼る形の経済運営を取らざるを得なくなるであろう。その時に中国では「国内の過剰生産+内国バブル」の狭間で経済運営は困難を極めるであろうし、もし経済政策が失敗した場合には、社会不安が大きくなるリスクがあると見られる。

当面の為替市場への影響について
 今後、半年から1年を見据えてみたうえでの為替市場への影響を考察してみた。

 中国経済が高い成長率を保っている間は、日本企業の業績もその好影響を受ける形で良くなると見られ、リスクマネーの伸長で円キャリートレードが行われやすい地合いになると見られる。

 ただし、中国経済のバブルが崩壊して中国の社会不安が増大するという事態に陥った場合には、日本から中国及び新興国に投資したリスクマネーが日本に回帰するものと考えられ、円は買いになると考えられる。

おまけ「中国から来た珍獣『熊猫』事件」
 ここからは本論とまったく関係のない話。
 中国を代表する動物と言えば、白と黒のツートンカラーの愛らしい、あの「熊」が思い浮かぶ。

 自分の話で恐縮だが、私があの「熊」の現物を初めて見たのは、ドイツ・ベルリンの動物園においてであった。当時、ドイツにいた日本人グループの面々でベルリン観光に行った際に、「中国から来た珍獣『熊猫』というのがベルリン動物園にいるらしい。これを見に行こう」と声をかけ、皆を誘って見に行った。

 その「熊猫」はガラスの檻の中にいた。いるのはいたが、見事なまでに仰向けに寝っ転がり、手に持った笹の葉を口に運んでクッチャクッチャ噛んでいた。かねてから「熊猫」は怠け者との噂はあったが、その噂に寸分たがわぬ、やる気のなさであった。こちとらはせっかくわざわざ見に来たのだから、何か芸でもやらないものかと思い、何人かでガラス越しに「熊猫」に近寄り、凝視した。すると「熊猫」君は、その気配を察してか、くるりと四つん這いになり、反対側のガラス面に向かって猛スピードで突っ走っていき、そこで再度仰向けになって笹の葉を噛み始めた。よっぽど人間に注目されるのが嫌なようだ。

 結局、彼がやった芸らしい芸はその程度という情けなさであった。唯一の収穫は「『熊猫』がその気になれば、速く走ることができると分かったこと」であった。

 そんなこんなで、動物園ツアーが終了し、我々は宿に帰りついたのだが、同行した日本人女性の斉藤さん(仮名・K音大卒)が「ところで岡田さん、中国から来た珍獣『熊猫』ってどれだったんですか?」と聞いてきた。な、なんとこの斉藤さん(仮名・福島県出身)はこれまでパンダを見たことがなく、「熊猫」というのはコアラか何かのことだと勘違いしていたらしい。

 そんな「熊猫」、いや、このように書くと斉藤さん(仮名・フルート奏者)のように分からない人が出てきて困るから止め。そんなパンダであるが、上野動物園からその姿が消えて久しい。

 2008年4月に「リンリン」が死去して後、人気者パンダ不在の穴を埋める4番バッター的な動物が上野動物園にいなかったことから、動物園の入場者数が激減するという事態を招いてしまった。さすがにこれではイカン、ということで、今年2010年にはパンダが上野動物園に復活・お目見えするらしい。これはいいことである。世の中の大人や子供たちが愛らしいパンダを見て、明るい気分になってほしいものである。

※今回の原稿は執筆時点である1月8日の時点で判明した各種情報を元に記載しています。

株式会社外為どっとコム総合研究所 常務取締役 岡田剛志
提供:株式会社外為どっとコム総合研究所


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