ニュースネット時代の新潮流――CGMとは(6)なぜ起こる? 「炎上」の力学 (1/2)「炎上」はなぜ起きるのか。炎上しないブログの書き方とは――最近炎上したブログなどを実例に解説する。2006年09月04日 09時41分 更新
前回の連載で説明したように、CGM(Consumer Generated Media:消費者が生成するメディア)には2つの立場が存在します。1つは「CGMプラットフォーム運営者」、もう1つは「CGMプラットフォームを利用して情報発信する個人や企業」です。今回は、後者が向き合う“CGMの力学”について説明します。 「炎上」という言葉は、ネット業界では以前から使われていましたが、最近「ブログが炎上」などと一般的なニュースにおいても聞くようになりました。 ネットの世界での炎上とは、主にブログやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の日記に批判的なコメントが殺到する状況を指します。私もライブドア事件の影響で、1つの発信について、批判や、それに対する議論のコメントが1000以上付いた経験があります。 私は炎上を、度合いに応じて3つに分けて名づけています。(1)炎上した結果、再び元の状況に戻る「小火(ぼや)」、(2)コメントやトラックバックを閉じ、一方的に情報配信するだけの「1.0型メディア」となってしまう「半焼」、(3)管理人が耐えられなくなり閉鎖してしまう「全焼(または焼け落ちる)」です。 炎上と混同されやすい現象として「荒らし」があります。これはサイトの運営を妨害するだけの目的のもので、私の定義では、炎上により発生する反対意見や批判的な意見とは異なるものです。 反対意見や批判的な意見は、あくまでも貴重な意見であり、妨害ではありません。それを勘違いして荒らしと決め付け、切り捨ててしまうことは、ブログやSNSの目的である情報発信を放棄するに等しいことであり、さらなる炎上を生むか、受信者から見放され、誰も見ない個人的な秘密の日記のようなものになり果てるでしょう。 ブログやSNSで情報発信をしたいと考える人は、なぜ炎上が起こるのかという「炎上の力学」を理解することで、ネットの向こう側にいる人たちと良好な関係を築き、より安全に快適に利用することが出来るでしょう。 炎上するブログやSNSの例いじめや反社会的な行為などを自慢するような書き込み今年8月中旬、岩手県内にある大学の学生が、アルバイト先の書店に来店した皮膚病患者を隠し撮りし、中傷した文章を付けてSNSの日記に掲載しました。このことが「2ちゃんねる」などで話題となり、学生の日記のコメント欄や、所属していた部のホームページ(HP)の掲示板が炎上。HPは閉鎖に追い込まれ、学生は学校から厳重注意を受けることになりました。 この炎上は、学生が「ネットに掲載すること=公に発表すること」だと認識していなかったのか、忘れていたために起きたことだと思われますが、そもそもこのような行為は現実の世界でも非難されることであり、ネットであってもまったく例外はないどころか、より責任をもって発言すべきであることを認識すべきです。 意見が割れている微妙な問題に関して、知識があまりないにも関わらず、よく知っている風に書いてしまう最近ですと、首相の靖国参拝にまつわるエントリーで炎上したブログや、ボクシングの亀田興毅さんのWBA世界ライトフライ級王座決定戦で微妙な判定があったことについて発言し、炎上したブログがありました。 このような微妙な問題に対して、あいまいな知識とノリで意見することは、その問題を真剣に考えている人たちに不快感を与えるため、炎上につながるのだと思われます。 しかし、確固とした考えがあっての意見であれば、発言し、議論し、間違いがあれば正し、それでも正しいと思えば貫くという態度を取れば、炎上することはないと思われます。 根拠もないことで非難・侮辱したり、断言するあまり他人事のように言えた立場ではありませんが、民主党の永田寿康議員のガセメール事件で前原代表が強気な発言に終始していた時期に、民主党の長島昭久議員がブログで「この勝負絶対勝てる。今日初めてそう確信した。代表や野田国対委員長があくまでも強気である意味が良くわかった」と書き込みました。 しかしこの事件は、永田議員が誤りを認めた形で終わりました。つまり、長島議員が上記のエントリーを書き込んだ時点では勝てるという根拠があいまいだったと考えられます。にも関わらず「絶対勝てる」と断言してしまったため、先のエントリーは炎上してしまいました。その翌日に長島議員が「ブログが炎上した」と追記をしたことで、より炎上が激しくなりました。 しかし長島議員は、ブログに寄せられるコメントの意味を理解し、誤りがあると気が付いた時点で、率直に謝罪をしました。その結果批判的な意見は減少し、その後は炎上する以前よりもコメントやトラックバックの数が増え、むしろ支持者が増えたように見えます。これは炎上をプラスの方向に変えた良い例だと思います。 身分を偽ってブログを書く(素人のふりをした企業のやらせブログ)某電気製品メーカーが、新製品の使用感についてブログを書いていた4人の一般消費者を紹介したのですが、それを見た人達から、「素人のふりをした企業のやらせブログではないか」との疑いを持たれ、ブログのコメントにやらせである根拠や批判的な意見の書き込みが寄せられ、オープン3日で閉鎖に追い込まれたことがありました。 企業が宣伝のためにブログを利用する際、批判的なことが書かれることを恐れるがあまりに、その企業が用意したプロのライターに、何の関係もない素人が書いたように見せかけて書かせることがあるのですが、そのようなものは、やらせであると見破られてしまうとことが多いと思います。 その理由は、ブログの中に、商品やサービスに対する批判の記載がないことが多いためです。どんなことにも長所と短所があるはずなのに、長所だけしか書いていないようではかえってリアリティーがなく、嘘くさく見えてしまいます。 また、企業がSNSを宣伝に使おうとして反感を買った例として、SNSという双方向メディアを使っているのに、オールドメディア的な手法で一方的に情報を配信し、双方向性を拒むような対応したものがあります。これは、コミュニティーの名をかたった「1.0型」モデルの広告に過ぎず、口コミ的な広告効果を期待できるものではありません。 例えば、仲良しのグループの中に突然、自分の意見しか言わず、人の話は一切聞かないという人が入ってきたらどでしょう? おそらく相手にされず、はじき出されるのが落ちでしょう。 ネットの世界の空気を読むこのように炎上の原因は現実の世界と同じで、人に向かって不謹慎な発言をしたり、嘘をついたことが判明すれば、誰かが傷ついたり、怒ったりするということです。ネットの世界でも、目の前に人がいるのと同じ結果が起きる可能性が高いことを理解していなかったことが原因で、特に有名な人ほど炎上のパワーが増大します。 [伊地知晋一,ITmedia] Copyright© 2010 ITmedia, Inc. All Rights Reserved. |