南極海で反捕鯨団体「シー・シェパード」の船と日本の調査捕鯨船団の監視船が衝突した。シー・シェパードの船は前部を大破し、乗組員6人のうち1人がけがをしたという。
原因についての双方の主張は食い違っているが、映像から判断すると、シー・シェパードの船が針路をふさぎ、衝突するように仕向けたとしか見えない。
これまでも悪臭のする薬品を投げつけたり、捕鯨船に乗り込んだり、過激な妨害を繰り返してきたが、ついに人命を危険にさらす行動に出た。日本の調査捕鯨は、国際条約の規定に沿った公海上の合法的な活動である。それを暴力的に阻止しようとするのは、捕鯨に対する賛否以前の、国際的な法秩序無視だ。
シー・シェパードは環境保護団体「グリーンピース」に所属していた人物が1977年に設立した。クジラ、アザラシなど海洋生物の保護を掲げ、ノルウェーやカナダ沿岸などでも過激な行動をとってきた。
しかし、動物愛護や環境保護を訴えながら、薬品を投げつけロープを投棄して海を汚している。人命が失われ、大規模な油流出が起きかねない船の衝突もいとわない。言動はまったく矛盾しており、その主張に耳を傾ける気にもなれない。
今回の衝突を受けて、日本政府が、寄港地・オーストラリアや、船籍のあるニュージーランドに再発防止のための取り締まり強化などを申し入れたのは当然の対応だ。ところが、オーストラリアでは反捕鯨の世論が根強いこともあって、総選挙を秋に控えているラッド首相の労働党政権は、対応に及び腰のようだ。
しかし、捕鯨に対する賛否とシー・シェパードの暴力的な行動を許すかどうかは、別次元の問題である。自国民に冷静に説明し、法秩序の無視には毅然(きぜん)と対応すべきではないだろうか。
もし日本の調査捕鯨をやめさせたいならば、国際捕鯨委員会(IWC)で問題提起し、加盟国の賛同を得ればいい。そうした民主的な手続きをせずにシー・シェパードの行動を黙認するなら、「主張の実現のためには手段は問わない」と表明したことになる。それはテロリストの論理と変わらない。
シー・シェパードの年間の活動資金は約350万ドル(約3億2000万円)で、支持者、企業からの寄付だという。オーストラリアのビール会社や日本にも出店している米アウトドア用品メーカー、英国の化粧品会社などがスポンサーに名を連ねている。
暴力的な団体に資金提供することは企業倫理からみて問題はないのか。支援企業も早急に対応を改めるべきだ。
毎日新聞 2010年1月11日 2時30分