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社説:心病む先生 校務負担の軽減も急げ

 精神疾患で休職する先生が増えている。文部科学省の集計では、全国の公立小中高校、特別支援学校などの教員約92万人のうち、08年度で5400人に上り、16年連続の増加で初めて5000人台になった。

 文科省は、精神疾患と診断される抵抗感が比較的弱まってきた時代背景もあるとみるが、それにしても、このとどまらぬ増加は深刻だ。

 精神的に追い込まれるのは、経験不足で未熟な教員と思われがちだが、そうではない。休職者の世代別割合は全体の年齢構成比率とほぼ一致し、どの世代も増えている。

 では、どんな原因や背景があるか。文科省は「教育の内容の変化に対応できない」「教員同士のコミュニケーションが足らず、孤立する」「保護者らの要求が多様になって、応じきれない」ことなどを挙げる。

 この20年の間、学校教育は、知育偏重の見直しと学校5日制導入による「ゆとり教育」、かと思えば学力低下論議と「ゆとり」転換と揺れ動き、指導内容も変転した。さらに日本の教員は授業以外にも事務的な作業を多く抱え、同僚と意思疎通を十分にし、相談やアドバイスを受けたりする余裕にも乏しい。

 「学級王国」という言葉があるように、小学校は担任教員が子供たちのすべてを指導し、他の教員はあまり口出ししない、あるいはしにくい風土もあった。90年代「学級崩壊」で教員のサポート体制が重視され、一部で複数担任制や少人数指導、教員が連携するチームティーチングなどの試みも行われ始めた。これは学力充実・向上にも効果が期待されるが、教員の雑多な校務負担を軽減しなければ、なかなか難しい。

 各種の報告書類づくり、学級便り、記録整理、経費精算などから見回りまで、子供たちを直接教え、指導する以外の校務は重荷で、文科省によると、教員は日に平均2時間程度の残業をしている。報告類などには無駄なものも少なくないという。

 中央教育審議会もこの負担減を提起しているが、歩みは遅い。全国の市区町村教育委員会で、校務の大きな負担になっていた学校への調査・照会を見直した所は40%。また、教員のメンタルヘルスのため相談窓口を設けて面接相談している教委も、わずかに36%しかない。

 こうした「きつい」イメージもあってか、公立学校教員採用試験の全体倍率は下がり続け、09年度は6.1倍で00年度の半分以下になった。

 民主党政権は教員養成改革を掲げている。「養成6年制」化案が焦点になっているが、教育に専念できる職場環境整備が後手に回っては、学生の「教員志望離れ」にも歯止めがきかなくなるおそれがある。

毎日新聞 2010年1月11日 2時35分

 

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