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年末年始の失業者など生活困窮者への支援対策が28日、東京都の受け入れ施設のオープンで本格的に始まった。今年は政府の「貧困・困窮者支援チーム」(事務局長・湯浅誠内閣府参与)が「派遣村を繰り返さない」とリーダーシップをとって進める。だが、実施機関の地方自治体との温度差もあり、具体的な支援策の内容はぎりぎりまで明らかにならなかった。11月の完全失業率が5・2%(前月比0・1ポイント増)と再び悪化した年の瀬、生活に困窮する人々に支援策は届くのか。【東海林智】
「東京はどうするんですか。ちゃんとやるんでしょうね」
12月中旬、首都圏のある自治体の年末対策の責任者は、取材の電話に切迫した声で尋ねた。この自治体では、国から指示のあった年末対策の実施を首長が指示。職と住居を失った困窮者のために宿泊施設を確保、食事も提供する体制がほぼ整い、10人以上の受け入れが可能だった。
ところが、東京都の動向がいつまでたっても明らかにならない。自治体幹部は、担当者に「東京がやらないのに、うちがやったら大変なことになる」と準備のストップを指示。担当者は慌てて都の動向を探ることになったが、確たる情報は得られずにいた。22日にようやく都の実施が報道され、胸をなで下ろした。担当者は「一緒にやらないと、やっている所に集中する。まじめに対策をやろうとしても一つの自治体だけではダメなんです」と明かした。
実際、東京都の年末対策はぎりぎりまで詳細が公表されなかった。政府の緊急雇用対策本部に設置された「貧困・困窮者支援チーム」は、住宅施設の借り上げを全額国費負担にするなど力を入れていたにもかかわらずだ。背景には、手厚い対策を実施すると利用者が集中する「呼び寄せ効果」への懸念がある。都の福祉関係者は「対策はやらなければならない。でも、できればこっそりとやりたかった。やはり、みんなが東京を目指すようでは困る」と打ち明けた。
さらに、受け入れ後の問題もある。いったん宿泊施設に入れた人を、年末年始の期間が終わったからと再び路上に戻すことは許されない。それらの人には、住宅入居費用の貸し付けや住宅手当の支給など「第2のセーフティーネット」の利用や生活保護の受給などが考えられる。ただ、第2のセーフティーネットは失業期間が1~2年と比較的短い人などが対象となるため、生活保護申請が増えることも予想される。
生活保護の費用は、4分の3が国費、4分の1が自治体負担になる。財政難の中、負担増を嫌った自治体が多く、対策への動きが鈍かった要因の一つだ。生活保護に詳しい尾藤廣喜弁護士は「生活保護を含め貧困層への対応を前向きにやる自治体は負担が増え、後ろ向きの対応をする自治体は負担が減るという矛盾がある。貧困問題の解決は国の責任で行うという国民的合意が必要だ」と話す。
支援チームが準備を進めてきた年末年始の生活総合相談は、都道府県庁の所在地の自治体を中心に、政令市や中核市など全国136自治体が実施する。29、30日を中心に自治体の建物やハローワークなどで開く。ただ、内容は自治体ごとに異なり、全国で東京都のような宿泊、食事の提供があるわけではない。
厚生労働省は、年末対策用のアパートやビジネスホテルなど借り上げを約2700室と見込み約16億円の予算を計上したが、今のところ500室を超える数にとどまっている。都の他には、愛知、京都、福岡、北海道などが借り上げを進めている。
都が28日から1月4日朝まで住居、食事を提供する支援策は、都内に生活実態があり、住居がなく、ハローワークに求人登録し、生活総合相談を受ける意思を示した人が利用できる。当初は、28日までの求人登録などを条件としたが、都内5カ所のハローワークが29、30日に開くことやハローワーク新宿が年末年始を通して開庁することから、当日でも登録して利用できるようになった。また、フリーダイヤル(0120・874・505)で利用の相談、予約ができる。生活総合相談は、住宅から就労、生活、健康、心の相談などに対応する。一方、昨年、年越し派遣村を開設して住居のない失職者を支援した労組やNPOは、「年越し派遣村が必要ないワンストップ・サービスを作る会」を発足させ、側面から年末対策を支援する。会では「支援策の詳細判明が遅れた」として、支援を必要とする人への支援策の周知に力を入れる。
毎日新聞 2009年12月29日 東京朝刊