最終更新日 2007年5月25日
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「食卓の記憶」84 ツルネン・マルティ氏
(「週刊文春」2005年9月22日号)

『素晴らしき日本料理』

 私の母国・フィンランドは、昨年発表されたOECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査で、世界トップレベルの成績を収めたことから、教育政策について日本からの関心が高まっていますが、逆にフィンランドでは日本の食生活への関心が高くなっています。
 フィンランド料理というのは、いわゆる西洋料理に近いもので、どちらかというと肉を食することが多かったのです。それが、肥満や、健康を損ねる原因の一つとなっていたことから、人々の健康への関心とともに、日本食が注目されるようになりました。かつては、(首都)ヘルシンキにもニ、三軒しかなかった日本食レストランは、今では何軒も、しかも驚いたことに回転寿司まであるそうです。
 この七月まで五年間、日本に駐在していたエーロ・サロヴァーラ前フィンランド大使も、日本料理が好きだと聞いていたので、離日されるにあたり、私と妻で大使ご夫妻を日本料理店にご招待しました。もちろん私も日本食は大好き。特に好きなところは、“組み合わせ”ですね。これが実によくできている。
 例えば、大豆を使った一品には、豆腐や豆乳、納豆などがあるし、日本各地の野菜を使って様々な調理法で作った野菜料理や、素材・バリエーションが豊富な海の幸。メニュー全体を通して、味はもちろんのこと、食材や調理法の豊富さと一品一品の、また全体の組み合わせはまさに芸術だと思います。私は特に、この大豆、野菜、海の幸の料理が好きなんです。
 サロヴァーラ前大使夫妻をご招待したこの日のメニューも、大豆は豆乳豆腐、野菜は京白菜、とうもろこし、加茂茄子、谷中生姜など、海の幸は鮪、平政、烏賊などのお造り、甘鯛雲丹焼、蛸の五目釜焚きご飯など、季節の素材をふんだんに使った料理が並びました。フィンランド料理では、これだけの品数はありえません。せいぜい三、四品にデザートといった具合です。でも、日本料理はこれだけ食べても、苦しいほどお腹がいっぱいにならないところが、また魅力的だと思います。私は肉を食べない主義なので、この日も肉料理以外は、嫌いなものもなく全部食べました。前大使にも日本料理は大変参考になると、ご満足頂けたようでした。
 食事の供は、冷の日本酒とフィンランド語での会話。これがまたとてもよかった。フィンランドと日本の料理の比較や、私が現在力を入れている有機農業の話、またフィンランドでは約十年前に行っている郵政民営化の話など日本の政局の話を含め、フィンランド語で意見交換したあっという間の三時間でした。
 こんな美味しい日本料理は、毎日でも食べたいですが、なかなかお金が続かないので、我慢、我慢です。
 (取材・構成  細川珠生)


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