きょうの社説 2010年1月11日

◎成人の日 「坂の上の雲」を探してみよう
 エンゼルスに入団した松井秀喜選手が本紙インタビューで、今季の目標を「走攻守」と 語った。昨季はメジャーの頂点に立ち、ワールドシリーズMVPという、これ以上ない活躍をした松井選手にとっても、野球の原点である「走攻守」へのこだわりは捨てがたいのだろう。むしろ、けがを乗り越え、一段と深まった思いなのかもしれない。

 NHKドラマで司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」に再び関心が集まっている。維新を経た 激動の明治期を生きた青年群像を描く、この歴史小説のあとがきで、司馬氏は題名に込めた意味を語っている。

 「楽天家たちは、そのような時代人としての体質で、前をのみ見つめながらあるく。の ぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶(いちだ)の白い雲がかがいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう」。物語の底流をなすこの言葉は、困難に直面しても決して目標を見失わず、その局面をチャンスに変えていこうとする松井選手のプラス思考にも通じる。

 きょうは成人の日である。不況の出口が見えず、空には厚い雲が垂れ込めているように 映るかもしれないが、未来を担う若者までが悲観的な気分に覆われてほしくない。新成人もそれぞれの「坂の上の雲」を探してみてはどうだろう。仕事でも勉学でも趣味でもいい。自分なりの明るい可能性を一つでも見い出せれば、人生を新たに踏み出す大きな一歩になるはずである。

 松井選手はメジャーで順調な滑り出しをみせながらも、近年は手首骨折、ひざの故障と 続き、限界説もささやかれた。それでも立ち止まることなく険しい坂道を上ってきたのは、メジャー挑戦以来、一貫して言い続けてきた「世界一」の目標があったからである。松井選手の真骨頂は転機が訪れた時の「楽天性」にある。「走攻守」という今季の目標の先に、新天地での世界一という新たな「坂の上の雲」を見据えているに違いない。

 どの道であれ、夢や理想、目標を持てば向上心が生まれ、坂道を上るつらさも生き甲斐 に変わる。若さの特権はやり直しがきくことでもある。失敗を恐れず、チャレンジする心を持ち続けたい。

◎離島の保全 「国富」守る意識と備えを
 国土交通省は、太平洋上にある南鳥島と沖ノ鳥島に港湾を整備するため、新年度予算案 に事業費を計上した。政府が昨年末に決定した「離島の保全・管理に関する基本方針」に基づき、両島を周辺海域の資源調査・開発の拠点にする狙いである。政府は離島の保全を進めるための新しい法案を今度の通常国会に提出する予定であるが、離島は海洋権益確保の要であり、日本の「国富」を守るという意識で、備えをしっかりしてもらいたい。

 日本には6800余の島々がある。そのうち離島振興法の対象になる約400の有人の 島はまだしも、大部分を占める無人島は現状把握も十分なされていない状況という。これらの島々は日本の排他的経済水域(EEZ)、さらにEEZ(200カイリ)を越えて海底資源の権益を主張できる大陸棚を設定する際の基点となる。

 政府は一昨年、南鳥島や沖ノ鳥島などを基点にした大陸棚を国連の大陸棚限界委員会に 認めてもらうために申請を行った。一方、中国と韓国は日本の海洋権益とぶつかる東シナ海の大陸棚の延長を申請するなど、国連の委員会には70件以上の大陸棚申請がなされており、大陸棚の海底資源確保を目指す動きが活発化している。

 無人島の保全でまず重要なのは沖ノ鳥島である。東京から約1700キロ離れた日本最 南端の島で、周囲約10キロのサンゴ礁からなり、これを基点にしたEEZは約40万平方キロにも及ぶ。満潮時には最頂部だけが海面に現れる状態で、既に保護壁が設けられているが、将来、温暖化による海面上昇で水没の恐れも指摘されている。

 沖ノ鳥島に基づく日本の大陸棚申請に対して、中国は「沖ノ鳥島は『岩』であり、大陸 棚やEEZの根拠にはならない」と反対し、日本の海洋権益区域の拡大を阻もうとしている。中国のこうした主張を許してはならない。

 離島の保全は海洋資源確保のためだけでなく、渡り鳥など動植物の保護という「国際公 益」に寄与するという新しい考え方も出されており、離島の総合的な保全策を考えてもらいたい。