2009年04月21日
大豆イソフラボンと肝がん
大豆イソフラボンは女性が肝がんになるリスクを高めるかもしれない、という報告が日本からありました(原論文はこちら)。
国立がんセンターの研究者らは、国内の6つの地域に住む40〜69歳の男女約7万人に、健康状態や喫煙・飲酒などの生活習慣についてアンケートを送りました。約3万人から回答を得て、がんの患者さんを除外しました。うち約2万人から血液サンプルを得ることができて、B型およびC型肝炎の感染をチェックし、さらにこの人々に、食生活についてアンケート調査を行いました。極端な大食と小食の人を除外して、残った19,998人(男性7,215人、女性12,783人)について長期観察しました。
平均11.8年にわたって追跡観察するうちに、101人(男性69人、女性32人)が肝がんと診断されました。そして肝がんの発症と、最初に行ったアンケート結果や肝炎感染の有無との関係を分析しました。
男性の肝がん発症率は女性の3.82倍でした。しかしイソフラボン摂取量によって高・中・低の3群に分けると、低摂取群に比べて中・高摂取群の肝がんリスクは、女性の場合だけ2.36〜3.46倍高いことがわかりました。一方男性では、イソフラボンの摂取量が高くても肝がんのリスクは高まりませんでした。
慢性B型およびC型肝炎の感染者は、非感染者に比べて肝がんのリスクが高いことが知られています。これらの感染の有無や、喫煙・飲酒の習慣が影響しないように調整しても、イソフラボン高摂取群の女性は低摂取群の女性に比べ、肝がんリスクが3.19〜3.90倍高いという結果が得られました。
研究者らは男女で異なる結果が出た理由を次のように考察しています。
肝がんの発生はもともと女性の方が男性より少なく、女性ホルモン(エストロゲン)は肝がんを防ぎ、逆に男性ホルモンは肝がんリスクを高めていると考えられている。
イソフラボンは構造がエストロゲンによく似ており、エストロゲンが結合するのと同じ場所(エストロゲン・レセプター)に結合し、弱いエストロゲン作用を示す。(イソフラボンが「植物エストロゲン」と呼ばれることがあるのはそのためです。)
エストロゲンがたくさんある環境では、イソフラボンはエストロゲンと同じレセプターを奪い合うことになり、エストロゲンの作用を阻害する。逆にエストロゲンが不足した環境では、イソフラボンは弱いエストロゲンとして働く。
女性に対するエストロゲンの肝がん予防効果が、イソフラボンのために阻害されたのではないか。一方、男性において弱エストロゲン効果が現れなかったのは、それ以上に男性ホルモンの働きが強かったためではないか。
以上が研究者らの解釈です。
イソフラボンは弱エストロゲンとしての作用のおかげで、女性の更年期障害に効果があり、骨粗しょう症を防ぐ可能性があります。また男性では前立腺がんのリスクを減らします。しかしこの報告によれば、まさにその作用のため、女性の肝がんについてはリスクを高めるかも知れない、というのです。
では肝がんのリスクを高めない摂取量はどの程度でしょうか。この研究で低摂取群の人たちの答えた1日摂取量を大豆製品に換算すると、豆腐で40g・納豆で1/3パック未満でした。豆腐一丁は300〜400gですから意外に少量で、豆腐好き・納豆好きの人ならすぐに越えてしまいそうな量です。
でも直ちに心配する必要はありません。研究者らも、アンケートの答は小さく見積もり過ぎていることを認め、「摂取量はあくまで参考値にすぎません」と自信なさそうに述べています。また逆に大豆製品は肝がんのリスクを減らすという報告もいくつもあります。そもそも、12年も前に1度答えただけのアンケートが、その前後何年もにわたるほんとうの食生活をどれほど反映しているか、という根本的な疑問もあります。
しかし極端なことにはリスクがつきものです。大豆製品は女性が更年期や美容などの目的で摂ることが多いように思いますが、あまり大量に続けて摂るのだけはやめておきましょう。更年期障害にはブラックコホシュや桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などの漢方という選択肢もあります。
(今日のまとめ)
女性で気になるのは乳がんですが、イソフラボンは乳がんリスクを減らすのか、増やすのか。両方の説があり議論が続いていましたが、どちらかといえば減らすのではないか、少なくとも心配するほどではない、ということに落ち着きつつあるようです(こちらとこちら)。微量栄養素の研究は発展途上なので、常に最新情報の収集を怠らないことが大切です。
(last updated 4/22/2009 H)