2007年06月
2007年06月03日
■重箱の隅をつっついた話『モンブラン149』1回目<尻軸のリング>
些細なことを気にしてちゃ大物にはなれないぞ、と祖父にも、母にも、担任の先生方にも、釘を刺されてきたから、と他人のせいにしちゃ、いけないけれど、わたくしの日々の生活は、まったくもって、いいかげん、そのもの。何から何まで、ほんと、だらしがない。
ただ1点。万年筆の細部については、うるさくて、Aという万年筆とBという万年筆の違いについて、その些細な違いをちゃんと見極めないと、どうもすっきりしないところがある。
ここのところ、万年筆愛好家との出会いラッシュである。
万年筆がご縁で親しくさせていただくことになった方がとても多い。みなさん、勉強熱心な方々で、わたくしが書いた記事やだらしなく継続しているブログの掲載文をしっかりとお読みになってくださっている。
そういった方々から「モンブラン149の新旧の見分け方を教えてください」というのが結構少なくない。
最近、こんなケースがあった。
ブログを読んで私も<モンブラン149 開高健モデル>を買いました、と目を輝かせながら見せてくださったのだが、残念ながら、<開高モデル>ではなかったのだ。たしかに<14c>表記の中白ニブ、それも太目のFがついているのだが、首軸の形状が違っていたのである。
書き味は気に入っているとおっしゃっていたが、表情は哀しそうだった。
そこで。
すでに御存知の方々からすれば、今更なんだ、そんなこと! と冷笑されてしまうかもしれないが、ここでもう一度、モンブラン149の重箱の隅をつっついてみようかと思ったのである。
比較検討するモンブラン149は、1960年代以降のモデルである。50年代の149は、同じ「モンブラン149」でも似て非なるものだとわたくしは思っているので、あくまでも60年代から現行の149までを比較検討してみようかと思う。
1回目は<尻軸のリング>。
尻軸。ここをひねって、インクを出し入れする。胴軸の一番尻の部分である。
この尻軸と胴軸との境界部分に1本の金リングがある。そこに注目だ。
大まかに分けると2種類の金リングがあるのだ。<平らなリング>と<丸みのあるリング>だ。
<丸みのあるリング>の場合、その149は、1960年代製と考えてよいかと思う。70年代以降の149には<平らなリング>が採用されている。(写真下が60年代モデル)
60年代の<丸みのあるリング>は職人が手間を惜しまずにまだ磨いていたようなイメージがあって、実によい。たった一本の、金色の輪っかだけれど、妙なあたたかみがあって、気になってしかたない。(微妙な丸み、わかるかなぁ)
次回は、<クリップ>。なで肩といかり肩。おにぎりとおいなり。
■『男の隠れ家ONLINE』の第15回目の記事が明日アップされます
テーマは、<モンブランNo.22>。ヤマケン先生、再登場です。
ぜひぜひアクセスしてください。
『男の隠れ家ONLINE』http://otokonokakurega.net/blog/standard/20/
2007年06月02日
■思い込みで好きになったモンブラン149…。石立鉄男さんを偲んで
大学時代。
岩波書店にお願いして、岩波書店のセミナールームを貸してもらい、「現代文化ゼミナール」という講演と対話の会を毎月やっていた。
お招きした講師には、山田太一さんや、椎名誠さん、立松和平さん、吉田ルイ子さん、増田れい子さん、落合恵子さん、宮崎駿さんらがいる。
1時間の講演のあと、1時間の質疑応答の時間があり、ここでいったん会はお開きとなり、すずらん通りの居酒屋での2次会が待っていた。
ある回の2次会で、生意気だったわたくしは相手が誰かも知らずに、テレビ論やテレビドラマ論をぶちまけた。こんなふうに。
「日本テレビは、なんで70年代のホーム・コメディーを継承しないんだ!」
「サスペンスドラマやトレンディードラマばかりじゃつまらない」
「あぁ、もう一度、石立鉄男主演のホーム・コメディーが復活しないかなぁ」
『放送レポート』の太田編集長の横で話をじっと聞いていた人物が、千野晧司監督だった。石立鉄男主演のホーム・コメディーのほとんどを演出してきた憧れの監督。『密約』という外務省機密漏洩事件を扱ったドラマを製作して干されてしまった伝説の名監督だった。
「君みたいな若いヤツが、70年代を懐かしんでちゃ、ダメなんだ!」
「温故知新のどこが悪いんだ!」
酒も入っていたので、ガンガンやりあった。気がつくと終電の時間。その頃、わたくしは狛江に住んでいて、千野監督は玉川学園にお住まいだったので、小田急線にさっさと乗り込むと、また車内でテレビドラマ論を戦わせた…。
小学生、中学生の頃、テレビが命だった。日本テレビが大好きだった。
水曜日の夜8時からは石立鉄男のホーム・コメディーを見る。9時からは水野晴郎の「水曜ロードショー」(オープニングのニニ・ロッソのトランペット、よかったなぁ)。木曜日は、「木曜スペシャル」。矢追純一のUFOものにはゾクゾクしたものだ。金曜日は、なにがあっても「太陽にほえろ!」。土曜日は、ジャイアント馬場やファンク兄弟、ブッチャー、ビル・ロビンソン、ミル・マスカラスが登場するプロレス中継と「土曜グランド劇場」。日曜日は、「バイオニック・ジェミー」。親の目を盗んで「11PM」も見ていた。勉強の「べ」の字もしなかった。
なかでも石立鉄男主演のホーム・コメディーには心惹かれた。
「気になる嫁さん」、「パパと呼ばないで」、「雑居時代」、「水もれ甲介」、「気まぐれ天使」、「気まぐれ本格派」、「天まであがれ」、どれも、どれも、なつかしい。
昭和30年代後半生まれの人々にとっては今でも鮮やかによみがえるシーンがあるのではないだろうか。
佃島を舞台に「チー坊!」と杉田かおるを呼ぶのが耳に残った「パパと呼ばないで」や大原麗子の大ファンになった「雑居時代」も大好きだけれど、万年筆につながる思い出があるのは「気まぐれ天使」というドラマだ。
このドラマで石立鉄男が演じたのが童話作家を目指す加茂忍という役。出演者には、樹木希林と改名する前の悠木千帆や、東京キッドブラザースの坪田直子、酒井和歌子、森田健作がいた。
古本屋の2階に下宿していた加茂忍が童話を書くときに使っていたのが万年筆。巨大な黒い万年筆を取り出して、ペン先を舌先でなめながら、原稿用紙の升目を埋めていた。今思えば、あの万年筆は、インク止め式の、エボナイト軸の、手作り万年筆で、それは先日観てきた舞台『魔法の万年筆』で稲垣吾郎クンが使っていた万年筆とおなじものだと思われるのだが、中学生になったばかりのわたくしは、勝手に、あれは、モンブランというメーカーの一番大きな万年筆だ、と思い込んでしまったのだった。
半纏を身にまとい、大きな万年筆で、すらすらと書く姿にぐっときてしまったわたくしは、いつか、あの大きなモンブランを手に入れてやるゾと心に決めた。
高校に合格して、お祝い金を全部集めて、親に内緒で、勝手に買ってしまったのが、モンブラン149。「14C」中白ニブのM。いわゆる開高健モデルだ。計算が間違っていなければ、1979年3月に買った、ということになる。千葉駅ビルの中に入っていたキディランドの文具売り場で買った。
その後、わたくしは念願かなって、テレビマンの端くれになったけれど、ドキュメンタリーや紀行番組の制作にたずさわってしまい、ドラマの製作にはまったくタッチしなかった。
思い出のつまった149。28年使っているけれど、まったくの故障知らず。最近、やっと、149の素晴らしさがわかり始めてきた。
あの頃の、ホーム・コメディーを復活させたくて、実は、ずっとあたためていた企画を、脚本に書き始めた矢先だった…。石立鉄男さんが急逝された。石立鉄男さんに演じてもらいたかった校長先生の役は、まぼろしのものとなった…。