2010年は、日本の宇宙開発に注目が集まる出来事が盛りだくさんだ。野口聡一・宇宙飛行士が長期滞在中の国際宇宙ステーション(ISS)に、山崎直子飛行士が向かう。日本人2人が初めて宇宙で顔を合わせ、日本人が宇宙にいることが当たり前の時代が始まる。小惑星探査機「はやぶさ」が地球への帰還を目指し、金星探査機「あかつき」が打ち上げられる。秋には米スペースシャトルが退役予定で、世界の宇宙開発も転換期を迎える。
向井千秋さん(57)に次ぐ日本人2人目の女性宇宙飛行士として、山崎直子さん(39)が3月、米スペースシャトルでISSに向かう。ISSには野口聡一宇宙飛行士(44)が長期滞在中で、初めてISSで日本人同士の対面が実現する。
山崎さんは千葉県松戸市生まれ。宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構=JAXA)勤務を経て、99年に宇宙飛行士候補となった。初飛行決定は9年後の08年。宇宙への旅に向け、訓練を重ねている。【奥野敦史】
09年1月、東大阪宇宙開発協同組合(東大阪市)が開発した小型人工衛星「まいど1号」=写真・東大阪宇宙開発協同組合提供=の打ち上げに沸いた大阪。「次に続け」とばかりにエジプト人の学生が開発を担い、大阪の町工場が協力する新たな人工衛星構想が進んでいる。「大阪では、おもろい話はなんでも『それえーな』で始まる。せやから衛星の名前も『えーな1号』や」
まいど1号開発の呼びかけ人で、有限責任事業組合「航空宇宙開発まいど」の青木豊彦会長(64)らが進めている。計画では、日本政府が全面協力しエジプトに開校した「エジプト日本科学技術大学」(アレクサンドリア市)で、今年2月から関連の講義をスタートさせる。日本の大学教員も教壇に立つ。その後、学生らが人工衛星作りに着手し、14~15年ごろの打ち上げを目指す。
技術アドバイザーには、まいど1号に搭載した雷センサーを開発した大阪大大学院の河崎善一郎教授(60)も名を連ねる。河崎教授は「エジプトの学生に東大阪の技術を学んでほしい」。青木会長も「大阪の中小企業の技術力は日本の誇り。世界にもっとアピールしていきたい」と自らが経営する航空機部品会社での技術研修にも前向きだ。
このほかにも、全国の大学高専が参加する「大学宇宙工学コンソーシアム」や早稲田大、鹿児島大、創価大でミニ衛星打ち上げ計画が進行中だ。【曽根田和久】
幾多の危機を乗り越え、不死鳥のように宇宙の大海原を旅する小惑星探査機「はやぶさ」が、6月に地球へ帰ってくる。03年の旅立ちから7年、総航行距離は約30億キロ。世界で初めて小惑星に着陸、離陸した探査機のゴールは間近だ。
はやぶさの旅は、トラブルの連続だった。小惑星イトカワへ着陸直前の05年、機体の姿勢制御装置3台のうち2台が相次いで故障。同年11月に2度着陸した後、やはり機体制御に欠かせない補助エンジンの燃料が漏れ、音信不通になったが、約7週間後の06年1月、微弱な電波が届いた。「生きていた!」。これだけ長期間、通信が途絶した探査機が通信を回復した例はない。関係者も半ばあきらめていたという奇跡的な復活だった。このトラブルを受け、地球帰還を07年から3年延期。姿勢制御の手段を失ったため、太陽光の圧力によって機体の姿勢を保つなど、奇想天外なアイデアで運用を続けた。
昨年11月、再びトラブルに見舞われた。4基ある機体推進のイオンエンジンの1基が故障。稼働するエンジンは1基だけになり、地球帰還が困難になった。だが、故障したエンジン2基のまだ使える部品を組み合わせたところ再起動に成功、夢をつないだ。
今、はやぶさは地球の引力圏(約150万キロ)の近く、地球と月の距離の約4倍の地点まで帰ってきている。着陸時に岩石採取の装置が働かず、カプセルにイトカワの砂などが入っているかどうかは不明だ。川口淳一郎・はやぶさプロジェクトマネジャーは「運の良さもあったが、皆があきらめずに頑張った。何かカプセルに入っていてほしい、と願っている」と話す。
大きなトラブルがなければ、はやぶさは6月、地球と月の距離の約4分の1の地点でカプセルを切り離す。カプセルはオーストラリアの砂漠へ落下し、はやぶさ本体はカプセルを追いかけるように大気圏へ突入、燃え尽きる。はやぶさの旅は、最終段階を迎えた。【永山悦子】
太陽系で最も地球に近く、大きさもほぼ同じ惑星、金星。「地球の双子星」とも呼ばれながら、これまで詳しく分からなかった実態を探る探査機「あかつき」が今年初夏、打ち上げられる。
目的は金星の大気の物理的な動きを探ること。金星の大気は96・5%が二酸化炭素で、地表での大気圧は約90気圧に達する。その温室効果で地表は約460度の高温にさらされている。
分厚い大気は、東から西へ時速約400キロの猛スピードで常時流れている。金星の自転は人が歩く速度程度の時速6キロ弱。なのにその速度をはるかに超える大気の動きがなぜ起きるのか。あかつきは、「超回転(スーパーローテーション)」と呼ばれるこの不思議な大気循環の仕組みの解明を目指す。
あかつきは今年末にも金星に到着、金星から300~8万キロという長い楕円(だえん)軌道を1周約30時間で周回し、異なる波長をとらえる5種類のカメラで大気の物理的な動きを撮影する。金星では欧州宇宙機関が05年に打ち上げた「ビーナス・エクスプレス」が探査中。大気の化学組成探査が専門で、異なった能力を持つ2機の連携で金星の実像を浮かび上がらせる。【奥野敦史】
98年から日本、米国、ロシア、欧州、カナダの世界15カ国で建設を進めてきたISSが今年秋以降に完成する。それとともに、ISS建設を主に担ってきた米航空宇宙局(NASA)の有人宇宙船「スペースシャトル」が退役する予定だ。
ISSは84年のレーガン元米大統領の宇宙基地構想が原点。冷戦終結後の93年からはロシアも加わった。地上400キロを1周約90分で地球を周回。サッカー場ほどの大きさで、最大6人が常時滞在し、さまざまな科学実験ができる。日本は実験棟「きぼう」の建設・提供や、無人輸送機「HTV」での物資輸送で貢献している。
スペースシャトルは81年に初めて打ち上げられた。翼を持ち、滑空して地球に帰還できる再利用型だ。134回目となる最後の飛行(ディスカバリー号)は、9月に予定されている。NASAはシャトルの後継として、月や火星への飛行をにらんだ新有人宇宙船「オリオン」を開発中だが、予算難などから遅れている。【西川拓】
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■日本の宇宙開発の主な予定■
<09年>
12月 野口聡一宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)で長期滞在開始
<10年>
1月 小惑星探査機「はやぶさ」が地球の引力圏に突入
3月 山崎直子宇宙飛行士が米スペースシャトルでISSへ
5月 野口飛行士がソユーズで地球帰還
6月 はやぶさが地球帰還
初夏 金星探査機「あかつき」打ち上げ
9月 米スペースシャトルが最後の飛行、退役予定
秋以降 ISSが完成
12月 あかつきが金星到着
毎日新聞 2010年1月5日 東京朝刊