異境の軍靴


<オープニング>


「集まってくれてありがとう。どうやら、緊急事態みたいだね」
 水槻・魁(高校生運命予報士・bn0289)は、そう言うと集まった能力者達を見渡す。
「キミたちの活躍のお陰で、影の城は海底に沈めることが出来た……作戦は、成功したんだ。本来なら、それで良かった」
 そう言って、拡大した地図のコピーを広げてホワイトボードに貼り付け、説明を続ける。
「だけど、その際に率いていた『イワン・ロゴフ級揚陸艦』と『シャンプレーン級戦車揚陸艦』、その二隻に搭載されていたゴースト達が海岸から上陸して、市街地に向かっているらしい」
 この数のゴーストが一斉に市街地に入れば、小さな町の1つや2つは全滅してしまうのは間違いない。
「疲れているところ、すまないけど…行ってくれないかな」
 魁は肩でひとつ、息をつくと座るように促した。

「キミたちに頼みたいのは、イワン・ロゴフ級揚陸艦から上陸したリビングデッドとサキュバスの撃退だ。リビングデッド達はここに上陸して、小隊を組んで南下しているらしい」
 マジックの背で叩かれた場所は、長崎県西海市寄船鼻。そこに上陸したリビングデッドが小部隊を組み、指揮官リビングデッドの指揮の下『遭遇した一般人を射殺』しながら、市街地へ進軍しているという。そのまま野放しにしておけば、被害が今より広がることは確実だろう。その前に倒してほしいのだ、と魁は言う。
「現場付近は自然が多いけど、全くの無人っていうわけじゃない。近くに雑木林があるから、そこまで誘き出せば戦闘に持ち込めるだろう」
 そう言うと、民家より少々離れた場所に赤い×印を付ける。
「リビングデッド達は、陽の落ちる前の夕方から夜間にかけて、行動を起こすつもりらしい。次に狙われるのは、恐らくこの付近の民家だ。一般人がリビングデッド達に遭遇する前に接触して、なんとか被害を防いでほしいんだ」
 戦場となる雑木林の辺りに付けた印を軽く睨むと、敵の詳細を話し始めた。
「部隊の構成だけど、指揮官の軍人リビングデッドが一人と、部下の軍人リビングデッドが十五。加えてサキュバスが二体、戦闘が始まればリビングデッド達を守るように現れるよ。このサキュバスは、原初の吸血鬼勢力のサキュバスだから、説得は通じないからね」
 必ず倒してきてほしい、と付け加える。
 この小隊が基本とする攻撃は、主にライフル銃による遠距離射撃だという。近接に持ち込まれれば、刃渡りは三十センチほどのファイティングナイフを使用して攻撃してくるだろうと言って、大体の大きさをホワイトボードに描いて見せた。
「一体ずつは強くないけど、数が多いから気をつけて。それと、夜にもなれば視界が悪くなってしまうだろうから。……急いで向かって」
 一通りの説明を終えたのだろう、ペンの蓋を閉めると、もう一度集まった能力者達を見渡す。

「西海市の人々を守るためにも、必ず勝ってほしい。危険な任務だと思うけど、無事に帰ってきてくれることを信じてるよ」
 待ってるから、そう言って魁はいつもの笑みを浮かべると、能力者達を見送ったのだった。

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参加者
瀬崎・直人(朝焼けの冬空・b03547)
木村・小夜(内気な眠り姫・b10537)
紗白・すいひ(幻日の紡ぎ手・b27716)
神威・焔(屋上のカレーメイド・b38798)
須賀・義衛郎(天を取る者・b44515)
白衣・観音(鳥の巣箱の建築士・b53558)
乃々木・栗花落(木花之開耶の戦神子・b56122)
フィーナ・レッドスプライト(最古のまじゅちゅし見習い・b61192)



<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

瀬崎・直人(朝焼けの冬空・b03547)
これ以上好き勝手させてたまるかよ。
…全部、ブッ倒してやる。

■誘き出し
囮役として行動
仲間の死人嗅ぎ等で方向を見極めつつ敵を捜索
なるべく夕方、明るいうちに見つけてぇ。

発見次第囮の皆に知らせて誘導開始
ゴーストにわざと姿を見せ
武器を隠して一般人を装いつつ雑木林へ
極力相手の攻撃が届かないギリギリの距離を保つ
交戦は避け、万一攻撃を食らっても耐える

■戦闘
雑木林で仲間と合流したら武器を取り出し交戦開始
前衛役として行動
もし暗くなったら装備品の懐中電灯を使用
後衛班とも離れすぎねぇ様に注意し
指揮官役の指示には出来るだけ従っている様に見せる

皆が敵指揮官を攻撃している間
『ショッキングビート』を使って雑魚の足止めを狙う
遠距離攻撃を使うリビングデッドを優先
出来るだけ多くの敵を範囲内に巻き込む様に心がける

ショッキングを使い切ったり、敵が近接して来た場合は攻撃参加
気魄の通常攻撃でブッ飛ばす

仲間が集中攻撃された場合は
ショッキングで敵の攻撃を妨害
効果が無い場合は、間に割り込む形で壁役になり
手近な敵を直接攻撃

負傷者は背に庇い、回復するまでフォローする
重傷者はとにかく後ろに下がらせる

体力が防具以下になったら
『ライカンスロープ』で回復

てめぇらが従う原初どもは、もうココには居ねーんだ。
何時までもあんな連中に操られてんじゃねぇッ。

てめぇら全部、終わらせてやるよ。

■他
リビングデッドの死体や装備が残っていた場合
雑木林に埋めて処理する

木村・小夜(内気な眠り姫・b10537)
「これ以上は、犠牲は、出させない、です。…絶対に」
人々の、平和な暮らしこそが、私たちの、戦う理由、ですよね。

夜間視界が失われた場合白燐光を使用。
ただし攻撃の集中を避けるため可能な限り不使用。
右腕に腕章。用意できなければ黒いガムテープ。



指揮官役2人の傍に位置。最初に自分に白燐奏甲。
以降、祖霊降臨(遠)・白燐奏甲(近)での回復を最優先する。

回復順は限界が近い(残HP少)人から。多少の差なら指揮官役を優先。
できるだけ早く指揮官役2人に白燐奏甲。
防具を抜く大怪我がおらず、複数が浅く傷つくかバッドステータス発生の場合、赦しの舞を使用。

回復の手が空き、範囲内に複数の敵がいる場合、白燐拡散弾を使用。

「癒し続けることが、私の戦い、ですから」



指揮官役にある程度攻撃を集めつつ極端に偏らないように、位置調整。

指揮官役2人への攻撃が極端に偏っておらず、前衛が突破された場合、自分も前衛に加わる。
この場合、木の間に立ち、できるだけ広い幅をカバー。牽制の攻撃をしながら合間に回復。

指揮官役の片方に攻撃が集中した場合は、その人の前に立つなどして守りに入る。
「大丈夫、ですよ。何度でも、支えて、見せます」
回復役であることを隠さず、自分も攻撃をもらうようアピール。
自分に攻撃が集中した場合は、指揮官役が突出しないように留意しながら後退する。



「まだ、戦いは、続いている、でしょうか」
悔しくて、辛くても。守れたという誇りを胸に。

紗白・すいひ(幻日の紡ぎ手・b27716)
●心情
敵を上陸させたせいで被害も多く出たことは悔しい。それに許せない。
けど、感情的になる前にまずは目の前のことをやらないとね。

他の場所でも仲間達が頑張ってる。だから…。
ここのゴースト部隊は、私達で必ず全員倒す。

●誘導
まずは雑木林に誘き寄せだね。
仲間の前衛組がやってくれるから、身を隠して待つよ。
タイミング合わせて不意打ちを狙う。先手を取るのは重要。

●戦闘
作戦はこちらにも形だけの指揮官を2人を設定し2班に分ける。
指揮官役は青の腕章(に見える物)を付け、戦闘指示を出す。
まあ敵指揮官を騙せれば儲けもの程度だけど、やれることはやらないと。

指揮官役:すいひ、フィーナ
前衛:直人、義衛郎、栗花落、焔
後衛:観音、小夜

立ち位置は前衛より約10m後ろ。後衛より少し前。
フィーナちゃんとは数歩横に離れる。

攻撃対象順:指揮官→サキュバス→軍人
但し指揮官を狙えない場合は他を狙う。最優先は攻撃対象を合わせること。
集中攻撃指示やアビ指示を状況に合わせて出す。偉そうに。
「前衛!××(敵名)を攻撃せよ!」と同時に私がその対象に攻撃。
「前衛!○○(※前衛で一番早く敵を攻撃した者)の攻撃対象に合わせ、集中攻撃!」と同時に私も同じく攻撃。


攻撃は全てFキャノン奥義、改、無印の順に使用。
軍人が気魄に強いと判断したらJウインド奥義から。
全アビ消費後は通常攻撃。

敵の集中攻撃が来てHPが2割切るか、危険を感じた場合後方に下がる。
回復をもらい次第復帰。

神威・焔(屋上のカレーメイド・b38798)
ヴァンパイアの後始末をつけるのもクルースニクの務めじゃな。
殲滅させるぞ。

【作戦】
空が明るいうちにまず囮役として直人、義衛郎、栗花落と供に敵側を雑木林まで誘導する。誘導の際は一般人を装うために普通に逃げる。逃げながら黒の腕章をつける。
誘い込んだところで陣形を即座に整え迎え撃つ。敵を誘い込み戦闘開始する少し前に虎紋覚醒を使っておく。暗くなった時のために懐中電灯所持。

【陣形】
前衛;直人、義衛郎、栗花落、自分
後衛:小夜、観音、すいひ、フィーナ

【戦闘】
倒す敵の優先順位は敵指揮官→サキュバス→兵士(基本は指揮官役の指示に従う)。
敵指揮官が狙いづらい場合はそれ以外を攻撃(ここでも基本は指揮官役の指示に従う)。攻撃はクロストリガー、使用できなくなった場合は通常攻撃(射撃攻撃を含む)に切り替える。敵接近時は震脚で吹き飛ばし連携からクロストリガーで攻撃。
HP残り6割で虎紋覚醒で回復。アンチヒールで回復できない場合は使わないで通常攻撃。

【戦後】
ライフルを下げてから「こうも敵が多いと苦労させられるのぅ。助けられなんだ者たちにせめて祈ろうか」

須賀・義衛郎(天を取る者・b44515)
『ゲーム』で失敗しちゃった分、後始末をがんばります。

【用意するもの】
黒い腕章。
それから一応、懐中電灯を。

【配置】
オレちゃんは前衛を担当。

【誘導】
敵部隊を雑木林に誘導するため、直人さん、焔ちゃん、栗花落ちゃんと、日のある内に周囲を索敵。
死人嗅ぎを使って、大体どっちにいるか目星をつけてみる。
上手く遭遇できたら、敵を雑木林まで誘導。警戒されないよう、一般人っぽく振舞ってみるよ。
「あの連中、明らかに目つきおかしいよ。ヤバいって、逃げよう!」
すいひさん、フィーナちゃん、観音ちゃん、小夜さんと合流したら、戦闘開始。

【戦闘】
雑木林の中が暗くて見通しが悪いときは、懐中電灯を点灯。
攻撃優先順は指揮官→サキュバス→部下の順で。
戦闘が始まったらバレットレイン奥義を連射。
指揮官役のすいひさんから指示があれば、それに従う。部下っぽく見えるよう返事付きで。
「ラジャー、サー」

防具HPを下回ったら、森羅呼吸法で回復。
中衛、後衛の誰かに攻撃が集中し過ぎているときは、敵と狙われている人の間に入って、射線を遮る。

白兵戦に突入したときは、ロケットスマッシュ改で応戦する。
それまでにHP回復してるから大丈夫だとは思うけど、気魄攻撃力が上がってなければ、森羅呼吸法を使ってから白兵戦スタート。
このときも、みんなとターゲットの統一を図るよ。

【事後処理】
万一、敵の装備なんかが残ったら、埋めて隠しとかないとね。

【一人称】
オレちゃん

白衣・観音(鳥の巣箱の建築士・b53558)
※使役ゴースト⇒マンゴー表記

◆心情
故郷から遠く離れた場所で、ゾンビになって人殺しをするなんて…
生きてるときの兵隊さんたちは思ってもみなかったんでございましょうね。
海上で止めてあげることは出来ませんでしたが、今度こそ止めて差し上げるんでございますよ。

◆準備
後衛組(自分、小夜さん、すいひさん、フィーナさん)とマンゴーは雑木林で待機
黒の腕章をつけておきます

◆戦闘
前衛組がリビングデッドとサキュバスを誘い出してきたら戦闘を開始
攻撃優先順は『指揮官→サキュバス→兵士』

基本的には敵の前衛から10m程度の距離を取り、不浄泥濁陣奥義を使用して全体に攻撃
ただし範囲内の敵が少なかった場合は、少なくとも敵を10人くらいは範囲内に収められるくらいは前に出る

※マンゴー
前衛と後衛の間から、火を噴く改で攻撃
後衛に接近してくる敵がいたら、その敵の相手をする
敵の数が味方の同数以下になったら前衛に出て攻撃に参加
アビリティの使用は惜しまない

(フィーナさんの号令に対して)「了解でございます、閣下」
(敵接近)「マンゴーさん、お願いしますっ」
(敵を倒した)「黄泉の国へお帰りください…そして安らかにお眠りを」

◆戦後
「間に合わなくてごめんなさい… ご家族のもとに帰してあげられなくて…ごめんなさい」
犠牲になった方に、そしてリビングデッドになった兵士さんに向かって手を合わせます。
これ以上のことは出来ませんから…

乃々木・栗花落(木花之開耶の戦神子・b56122)
撤退したなら手下も回収してって欲しいよ、
要らない置き土産残してくなんて…。

わたしたちが守り抜けなかった責任だしね…。
これ以上被害を増やさないように、全部倒すよっ!

【作戦】
囮役として前衛がゴーストの前に姿を見せて、林の方に誘導。
警戒されないように、一般人を装うよ。
「いやぁぁぁ、怖いよ〜!」と、か弱い子供のフリして嘘泣きしたりと演技つきで。
もし見失われでもしたら困るしね。
予め後衛に指揮官マーク(腕章)を付けた人を二人配置して
2小隊に見せかける。
他の人も黒い腕章で兵士っぽく装う。
指揮官役の人には、それっぽく演じてもらう。

【陣形】
前衛:瀬崎、須賀、乃々木、神威
後衛:紗白(指揮官役)、フィーナ(指揮官役)、白衣、木村

【戦闘】
優先順位は、指揮官→サキュバス→兵士。
指揮官が前に居なかったらダークハンドで攻撃。
攻撃出来なさそうなら、最終的に指揮官役の人に従って攻撃するよっ。
近接戦になったら黒影剣で攻撃。
攻撃アビが切れたら通常攻撃に切り替える。
HPの6割切りそうなら旋剣で回復。

悪いけど、これ以上先に行かせないよっ!
もう十分戦ったでしょ、だからゆっくり休んでくれないかなっ!
(指揮官役から命令されたら)了解だよ、隊長っ!

【戦闘後】
ゴーストの残骸(装備とか)がもし残ってたら、
雑木林の土の中に埋めて後片付け。

なんとか全部倒しきったかな?
間に合わずに犠牲になった人には黙祷…。
守りきれずにごめんね…。

フィーナ・レッドスプライト(最古のまじゅちゅし見習い・b61192)
まったく、あの吸血鬼たちはどこまで外道なのかしらね…?
『ゲーム』のヴァンパイアといい、どこまでもワタクシ達を苦しめるわね。
確かに守れなかったワタクシ達も悪いけど、一般人を巻き込むなんて最低ですわ!
元同族だと思うとぞっとしますわね…。

とにかく、これ以上被害を出さないためにも
ここで確実にコイツら行軍を止めて見せますわ!

【戦闘】
敵の指揮官の方針は『頭から潰せ』らしいですわね
頭って言うとやっぱり指揮官のことかしら…?
ここは体力を大幅に回復できるワタクシが
指揮官役を務めてみんなを守るべきですわね!
敵の指揮官は青の腕章をつけてるから…ワタクシも付けるべきですわね
あとは指揮官らしくふんぞり返ってれば……嘘ですわよ?

指示っぽいもの、例えば
「栗花落!かかりなさいっ」
「誰誰は前へ!誰誰は後方から射撃!かかれー!」
「もう少し右へ!(立ち位置の指示)」など
を出しながらワタクシも積極的に攻撃に参加しますわ

立ち位置は攻撃を受けにくい位置でありつつ
なおかつ範囲攻撃で多くの敵を巻き込める、
中リスク中リターンな位置に立ちますわ。

攻撃方法はバットストームをアビの続く限り連射
もし、敵が減って十分な回復か望めなくなった場合は
魔弾の射手で回復しつつ下がりますわ。

【戦闘終了後】
みなさんお疲れ様ですわ!
これで西海市の人々の安全を守ることができましたわね♪
次の戦争ではこうなる前に一般人を守れるといいですわね…。




<リプレイ>

●誘く者たち
 冷たい空気の中に潮が紛れ込んだ匂いがする。陽は傾き始め、夕闇が空を覆いつくさんばかりに手を広げる。微かな潮の匂いは、風に乗って、後衛組である能力者たちの待機する雑木林にも流れ込む。
「故郷から遠く離れた場所で、ゾンビになって人殺しをするなんて……」
 黒い腕章に腕を通した白衣・観音(鳥の巣箱の建築士・b53558)が、呟く。生きている間の彼らからは、思いも及ばなかったのだろう、と。その声に同調するでもなく、呆れた溜息が返ってきた。
「まったく、あの吸血鬼たちはどこまで外道なのかしらね……?」
 一般人を巻き込むなんて最低ですわ!と憤慨したのは、フィーナ・レッドスプライト(最古のまじゅちゅし見習い・b61192)だ。そんなフィーナを見て、紗白・すいひ(幻日の紡ぎ手・b27716)が、ざり、と雑木林の土を踏みしめた。敵艦隊を上陸させたせいで多くの被害が出たことは悔しかった。そして許せないことでもあった。
「これ以上は、犠牲は、出させない、です。……絶対に」
 黒い腕章を腕に通して、静かに宣言したのは、木村・小夜(内気な眠り姫・b10537)だ。声音こそは静かなものだが、その表情は凛としたもので、揺るぎない。『イワン・ロゴフ級揚陸艦』と『シャンプレーン級戦車揚陸艦』に搭載されていたゴーストたちを、今この場所以外でも、同じ能力者たちが戦っている、頑張っていると思えば、ここのゴースト部隊を食い止めるのは自分たちの役割なのだ。
「(……私達で必ず全員倒す)」
 強い意志が四人の表情に走った。銃弾の弾ける音がしたのは、その時だった。

 一方、死人嗅ぎを使って、ゴースト達の行方を追っていた須賀・義衛郎(天を取る者・b44515)達は、民家の近くまで来ていた。ゴーストとの距離が近いらしいことまでは分かるのだが、詳しい方向までは分からずに往生していたのだ。そこへ一際大きな銃声が走った。苦鳴が掻き混ざる。
「あっちだ、走れ!」
 瀬崎・直人(朝焼けの冬空・b03547)の掛け声で、前衛組の四人が走り出す。音が近かったことから、かなり近づいていることは確かだ。そんな直人達の前を横切ったのは、死者の行軍だった。上から下までを迷彩服に、その身を包み、手にはライフルを携えている。土の匂いにゴースト特有の腐敗した悪臭が漂う。何よりおぞましいのは、いっそ冷酷とも言えるその殺気だ。それに負けじと直人が眼光を光らせる。
「(これ以上好き勝手させてたまるかよ……!)」
 声には出さずとも、苛立っている雰囲気が伝わる。そんな直人の腕を肘で突いて、
「あの連中、明らかに目つきおかしいよ。ヤバいって、逃げよう!」
 警戒されないよう、一般人のように振舞ったのは義衛郎だった。黒の腕章を既に手に持っている、神威・焔(屋上のカレーメイド・b38798)にも目を配らせる。死者の銃口がゆっくりとこちらを向く。
「いやぁぁぁ、怖いよ〜!」
 それを確認した、乃々木・栗花落(木花之開耶の戦神子・b56122)が、リビングデッド達に聞こえるように声を発したのを切欠に、四人は仲間達の待つ雑木林へと走り出した。弾が顔の脇を掠め、足元に火花が散った。

●異境の軍靴
 陽はまだ明るい。視界は十分な明るさを保っていたが、雑木林の奥へ進めば進むほど、鬱蒼とした木々がそれを遮るように枝を伸ばしている。獣道を使ったわけでも、目印を残したわけでもない能力者達は、仲間との合流に手間取っていた。銃声と軍靴の音は、すぐ後ろから迫ってきている。ひとり、遅れをとっているのは焔だ。
「何やってんだ!」
 走りながらも直人は叫ぶ。
「木の枝を手折っておるのじゃ。あやつらが踏めば、枝葉がしなり声を上げるじゃろうて」
 焔は雑木林という自然を利用して、後衛組に合図を送っていたのだ。ゴースト達はそれに気づくこともなく、標的へと着実に歩を進める。枯葉の音に混じって、パキパキと耳障りな音が響いた。

「観音は中央へ!義衛郎は前方から射撃!かかれー!」
「了解でございます、閣下」
「ラジャー、サー」
 フィーナと観音、後衛組の声がした。なんとか合流出来たことに栗花落は内心で安堵をしながら、二つの小隊に偽装するべく陣形に加わる。フィーナの号令に従う声と同時に、リビングデッド達の足元には不浄の気によって作られた泥の沼が出来上がり、続けざまに銃弾の雨が降り注ぐ。不意打ちを食らった軍人リビングデッドがその雨に飲まれたかと思えば、範囲から漏れた方からライフルを構える音と同時に、能力者たちへ弾が発砲された。直人のすぐ脇にある木が、葉を散らせ削がれるように皮が飛んだ。威嚇射撃でも何でもない、リビングデッドたちの本気が窺える。彼らは戦闘に忠実な動く屍なのだ。
「……全部、ブッ倒してやる」
 体勢を立て直した直人が、自身の得物である『慟哭のフィリオ』を構える。
「前衛!軍人リビングデッドを攻撃せよ!」
 すいひの号令と共に長剣から現れたエネルギーの弦を巧みに操り、滅び行く世界の救世主の如き超絶技巧の演奏を披露すると、目前の数体の動きが鈍くなる。すいひの得物である『銀操刃・火華』から放った炎の弾も、重なるように軍人リビングデッドの一体を包み込むと、隊列を崩すように軍人リビングデッドが元の屍に戻っていく。直人の横では焔が虎紋覚醒で自己強化を済ませたばかりだった。髪の毛は逆立ち、皮膚の至る所に虎の縞模様が浮かび上がるその姿は、獅子を彷彿させる。そんな焔と、指揮官役を務めるすいひとの間に位置調整を測りながら立ったのは小夜だ。肩越しに受けた傷を自らの得物『琥珀剣≪黎明≫』に白燐蟲を纏わせ、回復役であることを隠そうともせず癒して見せる。自分も攻撃をもらうように、軍人リビングデッドたちの距離を詰めるさまは、さながら挑発をしているようにも見える。その傍らに、観音のシャーマンズゴースト・シャドウが、主と列を成すように控えた。

『――、―』
 指揮官のリビングデッドが全体に指令を飛ばしたらしく、能力者とは三角の形で対峙していた軍人リビングデッドが、隊列の崩れた部分から大きく左右に分かれた。その数は前後に三体ずつ。中央に指揮官が進み出で、それを守るようにサキュバスが布陣し、魔力を秘めた口付けを飛ばしてくる。
「てめぇらが従う原初どもは、もうココには居ねーんだ。何時までもあんな連中に操られてんじゃねぇッ」
「悪いけど、これ以上先に行かせないよっ!」
 直人が、栗花落が、抗うように叫ぶ。屍達が構えたその銃口が、前衛の能力者に照準を合わせ、火を噴いた。
「(なるほど、頭から……突出した者から排除するのが、やり方か)」
 敵指揮官を騙せれば儲けもの程度と思っていたすいひにとっては、容易に想像できる事態ではあった。その為にやれることはやらなければならないとも思っていたが、仲間が傷ついていく所を目の当たりにすれば、偽装が成功出来たとも言い難い。ゆらりと指揮官の屍が、動く。
「危ない…!」
 咄嗟に観音が前衛に危急を呼びかける。重い銃撃音と共に膝をつきかけたのは義衛郎だった。まだ、耐えている。すかさず小夜が白燐蟲を、義衛郎に向けて宿せば、幾分か痛みは和らいだ。
「大丈夫、ですよ。何度でも、支えて、見せます」
 頼もしい仲間の言葉に頷いて、再び向かい挑むように屍達に視線を戻す。
「前衛!敵指揮官を攻撃せよ!」
「了解だよ、隊長っ!」
 栗花落の足元から黒い腕を模る影が、ずるりと伸びれば、指揮官の屍を捕らえる。その影が引き裂こうとしたタイミングを見計らって、焔が十字架の紋様を放てば、次々と弾丸を叩き込まれた屍は、どうっと地に伏した。その間にも、残る歩兵とサキュバスの頭上を、無数の吸血コウモリが覆いつくす。あと数歩、という距離に居た、もう一方のサキュバスが、巻き込まれたサキュバスの腕を引く。
「待ちやがれ!」
 いいざま、直人が放つショッキングビートを掻い潜り、吸血コウモリを手で握り潰して逃走する。その背に、すいひが炎の弾を撃ち放てば、吸血コウモリに噛まれたサキュバスが炎に包まれ消滅した。動く屍はそれでも尚、殺気を漲らせたまま、能力者達に銃口を差し向け狙撃する。
「マンゴーさん、お願いしますっ」
 観音の呼びかけに応えて、シャーマンズゴーストが、ごうっと屍に炎を吹きかけた。それに合わせて義衛郎が、雨あられのような銃弾を降らせ、銃声と混ざり合ったのも束の間、幾重にも身を穿つ弾に、折り重なるように歩兵の屍が打ち倒された。焔が連撃の反動で負った傷も、小夜が神聖な舞を踊り、惜しみない清らかな祈りで癒していく。焔が短く礼を言えば、
「癒し続けることが、私の戦い、ですから」
 と、気丈な返事が返ってきた。栗花落が残る歩兵に接近戦を持ち込むが、屍達の動きは目に見えて鈍い。闇のオーラを纏う得物で切り裂けば、直人も足止めだけでは済まない。一気に間合いを詰め、間髪入れずに動く死者達を討ち伏した。屍が十と六、積み上がった。

●亡き御魂達へ
「こうも敵が多いと苦労させられるのぅ」
 焔が構えていたライフルを降ろしながら、呟いた。全員が軽く傷を追っていたが、二手に分かれたのが功を奏したのか、幸いにして深手ではない。
「……助けられなんだ者たちに、せめて祈ろうか」
 あるべき姿に戻った軍人達と武装を、手分けして埋葬する。人目につかぬように速やかに、けれど死者を労わるように丁寧に、それは行われた。各々、黙祷を捧げると、雑木林を後にする。懐中電灯で照らせば、焔が手折った辺りが丁度良い目印になり、迷うことなく夕暮れの雑木林を抜けられた。
 観音が一度、雑木林を振り返る。
「間に合わなくてごめんなさい……ご家族のもとに帰してあげられなくて……ごめんなさい」
 犠牲になった者達へ、そしてリビングデッドになった兵士に向かって、両の手を合わせる。観音に出来る、精一杯だった。これ以上のことは、自分には出来ないのだ、と。 栗花落もまた、似たような心持ちで、同じように手を合わせる。
「(守りきれずに、ごめんね……)」
 ゴーストを上陸させなければ、散ることの無かった尊い犠牲者の御魂達へ、謝罪をしながら静かに祈る。

「まだ、戦いは、続いている、でしょうか」
 不意に小夜が呟いた。サキュバスに一体、逃げられてしまったことが気にかかる。ただ、潮の匂いを胸いっぱいに吸い込むと、リビングデッドの行軍を一部とは言え、止められたことだけでも、この西海市を守れたということに繋がるのではないだろうか。悔しくて辛くても。守れたという誇りを胸に抱くことは、間違えたことではないような気がするのだ。
「……かえろう」
 仲間達の促す声が聞こえる。遠くから、どこか物悲しげな汽笛の音が耳を過ぎった。


マスター:希月千穂 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知 的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/01/09
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