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きょうの社説 2010年1月9日
◎トキ分散飼育 まず「繁殖地」としての実績を
石川県で始まったトキ分散飼育の目的は、鳥インフルエンザなど感染症による再絶滅の
リスクを避け、個体数を安定的に増やすことにある。本州最後の生息地に40年ぶりに里帰りしたことで将来の放鳥にも期待が膨らんでいるが、当面の課題は「飼育地」から「繁殖地」としての実績を重ね、国の野生化プロジェクトの一翼を担うことである。いしかわ動物園が受け入れた2組のペアは早速、繁殖シーズンを迎え、春にはヒナ誕生 が見込まれる。まず元気なトキを着実に増やす取り組みを軌道に乗せたい。 トキは中国のほか、佐渡でも徐々に増えてきたとはいえ、世界的にはなお絶滅の恐れの 大きな鳥として「国際保護鳥」に指定されている。日本で絶滅した野生のトキを再び復活させる試みは国挙げての大きな事業であり、個体の提供を受けた中国との国際共同プロジェクトでもある。石川県は2004年に分散飼育地に名乗りを上げ、近縁種の飼育・繁殖を通じた人材養成や受け入れ施設の準備を整えてきた。この6年間の取り組みが今から試されることになる。 分散飼育地は多摩動物公園(東京)に続き2カ所目で、生まれたトキはいずれ佐渡へ移 され、放鳥計画の仲間に加わるかもしれない。誕生した命がすくすくと育ち、やがて人の手を離れ、1羽、2羽と野生化に至る過程は興味深く、楽しみでもある。 佐渡での試験放鳥は2回を重ねて一部は本州に渡った。黒部市ではボランティアによる モニターがトキの行動を追い、マナー普及活動に取り組む。餌場づくりなどの環境整備も始まった。今のところトキは過敏なほど大事に扱われているが、人間の思いを超えて勝手に行動するたくましさも見えてきた。野生化を進めるなかで、放鳥や定着地を佐渡に限定したトキ保護増殖計画の妥当性の検証も今後の課題である。 いしかわ動物園でのトキは、大型モニターを通じて映像が公開される。佐渡でも施設内 のトキは公開が限定的になっているが、トキの増加が安定軌道にのれば、関心をさらに広げるためにも、直接公開を含め、見せ方に一層の工夫が求められるだろう。
◎菅財務相発言 「円高否定」の意味あった
菅直人財務相が就任会見で、適度な円安が望ましいとする見方を示したのは、前任者の
「円高容認発言」を完全に払しょくする狙いがあったのだと思いたい。市場参加者の間では、民主党は内需主導型経済を目指す関係で、円高容認の姿勢が強いと受け止められている。そうした見方を否定するために、菅財務相があえて踏み込んだ発言をしたのだとすれば、大いに意味はある。鳩山由紀夫首相は、菅財務相の発言に対して「政府としては基本的に為替に関しては言 及するべきではない」と苦言を呈した。もとより、為替相場は市場が決めるべきもので、首相の発言は正論に違いない。だが、世界経済は金融危機の後遺症が重く、「病み上がり」の状態にある。万一の時、教科書通りの対応では、想定を超える現実に振り回され、対応が後手に回る懸念がある。 前任の藤井裕久氏の円高容認発言を機に円買いが急増し、昨年11月下旬には14年ぶ りに1ドル=84円台への急騰を招いた。米国債の大増発によるドル暴落のリスクがささやかれるなかで、昨年のドバイ・ショックのように、ちょっとしたきっかけで、為替市場が乱高下し、思わぬ高値や安値を付けることがあり得る。 ドル暴落は「超円高」の裏返しであり、万一、そうした事態に陥れば、日本企業への影 響は計り知れない。輸出が主力の北陸の製造業も大打撃を受けるだろう。不用意な発言で、円高に大きく振れるリスクを、実際に高い授業料を払って学習したのだから、この際、「民主党=円高容認」の誤解を完全に解いておくのは、決して悪いことではない。 菅財務相は為替相場への「口先介入」だけでなく、「直接介入」の可能性にまで言及し た。これにも異論はあろうが、市場介入の権限を持つ立場だけに、強い覚悟がうかがえた。為替の乱高下に乗じて利益を上げようとする投機筋への警告になったはずだ。 むろん、こうした直接的な表現はあくまで例外である。普段は市場との対話に不安を感 じさせぬよう慎重に言葉を選ぶ必要がある。
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