実際、規則実施後に妊娠、もしくは妊娠させた兵士7人は「文書による叱責」のみで終わっている(うち1人は特殊な事情により、やや重い罰が加えられた)。しかし、その中の1人の女性兵士は、相手を守るために男性兵士の名前を明かさなかった。それがまた新たな問題を生み出すなど、尽きない話題を提供し続けた。
結局、年末が押し迫った頃、米軍はこの決定を撤回した。
「男女平等」という言葉に潜む不平等
米陸軍における女性の比率は、全体の14% (2006年9月現在)。イラクとアフガニスタンを合わせ、1万5000人以上の女性兵士が戦ってきた。戦死者も多く出ている。
海軍特殊部隊や潜水艦の任務は、依然として女性が就くことはできない。他にも様々な制約があるが、目覚ましいスピードで撤廃されつつある。
「女性蔑視」「差別」「性犯罪に巻き込まれる確率が高い」という深刻な問題から、「本国に帰還しても前線で戦っていたことを信じてもらえない」など、まだまだ問題は多いが、「男女平等」を目標に女性兵士たちは戦場以外でも戦い続けている。
しかし、ハッチンソンの逮捕や妊娠禁止という今回話題になった問題は、ある疑問を投げかけているように思える。
女性はこれまで、「差別撤廃」と「男女平等」を求めて戦ってきた。しかし、この2つの言葉が同じように使われてきたことに、矛盾が出始めているのではないか。
女性に対してのみならず、いかなる制度的差別も撤廃されるべきであり、この点については分かりやすい。
しかし、「男女平等」という言葉は、「女性が男性と同じように、なんでもできるようになる」という発想につながりやすい。この出発点がすでに「不平等」なのだ。つまり、なぜ女性が男性に合わせ、同じようにしなくてはならないのか。男性が女性に合わせてはいけないのか。そもそも全く同じようにすることが本当に平等なのか・・・、と疑問は尽きない。
今回の問題はいずれも、うわべのみの男女平等を進めてきたが、そこに無理が生じてきたことの表れにも思える。さらに言うと、その無理を追及しようにも「差別者」扱いされることを恐れて触れられない、という関係者の怯えのようなものを感じる。
戦時の軍隊は、究極のジェンダー実験場だ。機会均等が進んだ現在、戦場から漏れ聞こえてくるこれらのニュースは、男女平等とは一体何なのかという問いを投げかけている。
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