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戦場で明らかになる「男女平等」の限界

2010.01.08(Fri) 石 紀美子

USA

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妊娠したら軍法廷で裁かれる!?

 しかし、全米の親たちはハッチンソンの味方だった。ハッチンソンの件で軍は大顰蹙を買ったが、その直後に再び地雷原に踏み込むような話題でお茶の間を賑わした。

 イラク北部の激戦区で2万2000人の兵士を率いるアンソニー・クコロ少将が、部下を引き締めるため、武器売買の禁止、麻薬使用の禁止など20項目からなるガイドラインを作った。その中で、自分の指揮下にある兵士の妊娠を禁止し、妊娠した場合は軍法廷にかけるという規則を設けたのである。

 この規則によれば、妊娠した女性兵士だけでなく、妊娠させた男性兵士側も同じように罪に問われる。また、結婚して夫婦でイラクに派遣されている兵士たちにも適用されるという。さらに、クコロ少将の下で働く民間人に対しても同じように妊娠を禁じ、妊娠した場合は刑事告発するという厳しいものだ。

 だが、前線に立って戦う指揮官の視点からすれば、これは極めて合理的な決定である。なぜならば、兵士が妊娠すれば、2週間以内の本国送還となるからだ。

 すでに兵士が足りない状況で戦い続けてきた少将からすれば、1人でも兵士を失うことは戦力低下につながる。妊娠は、本人の心がけで防げることだ。だから任期中の12カ月の間は必ず避妊するように、ということなのだ(レイプなど、犯罪に巻き込まれて妊娠した場合は規則に該当しない)。

 彼が指揮する2万2000人のうち、1682人が女性兵士である。今年の夏に向けて、大幅な兵力削減が実行され、来年のイラク撤退まで現場はますます厳しい状況になる。今回の決定は、視点を変えれば、女性兵士が軍にとってかけがえのない戦力となったことを示し、クコロ少将が彼女たちに大きな期待をかけていることの表れと捉えることもできる。

 しかし、遠く平和な米国の自宅でこのニュースを聞いた女性たちの反応は違った。「妊娠した女性兵士は軍法廷で裁かれ、監獄行きになる」という部分だけ一人歩きし、いきり立った人権保護団体や議員らが激しい批判を始めた。「妊娠した女性を政府が罰するなんて、まるで19世紀のような話だ」など、ヒステリックに軍を罵倒する声がメディアで数多く紹介された。

 反対に、米軍、軍法の専門家や弁護士、軍関係者らは男女問わずこの決定の支持をしたが、その声は遠慮がちだった。

 その後、あまりに激しい個人攻撃にあったクコロ少将は、「あくまで兵隊の引き締めのために作った規則であり、もし兵士が妊娠しても、本当に軍法廷にかけようとは思っていなかった」とトーンダウンした。

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