2010年1月8日0時1分
21世紀になって10年目、政治は新風を起こしつつあるが、どういう国づくりを目指すのかはまだ定かでない。
その意味では「成長戦略」をどう位置づけるかも重要である。経済成長の成果が国民の経済生活に還元され、それが更に経済の成長につながる好循環を期待するのは自然なことだが、現実はそう単純ではなくなっている。
特に企業が働く人々をコストととらえ、利益を確保するためにそのコストの最少化をめざす雇用観が広がった結果、所得格差は拡大した。しかし、少し長めの物差しを持てば、企業の利益は働く人々の創意工夫や、人々の痛みに何とか応えようとする意欲、また互いに不足を補い合って成果をあげるという共同の力こそが源泉である。だとすれば政治が格差を是正し、国民がより意欲をもって働くことのできる国づくりをめざすというなら、このような雇用観の転換は政治としても重要な課題だろう。
一方、産業界の立場はどうか。中国などの新興国経済は堅調で、世界経済の構造が大きく変化する中で、海外志向は一段と強まり、その皺(しわ)は雇用に寄せざるを得ないと考える向きが多くなっている。しかし、長い目で見れば、日本の働き手のもつ高いポテンシャルを生かしてこそ世界が必要とする新しい商品やサービスの開発やハイレベルな品質管理も可能となる。これを見誤れば「高付加価値化」という、先進国に不可欠な道が見失われる。
雇用観の転換は必然である。特に今世界が体験している試練の重さを思えば、これまでの常識を転換するには絶好の機会である。政治と産業界が共通の目的のためにもっと力を合わせてこそ、国民重視の時代は始まると思われる。(瞬)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。