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「こども未来財団」の基金返納という事業仕分けの判定に危機感を抱いたのは、財団の歴代理事兼総務部長の古巣である厚生労働省育成環境課の官僚たちだった。
同課は、基金を全額返納させられると、財団の運営が立ち行かなくなるため、「200億円の返納」で済ませる案と、「基金を取り崩して5年間で使い切る」案を考えた。5年使いきり案は、来年度から新たに始まる総合計画「子ども・子育てビジョン」に財団を組み込んで存続を図るものだ。昨年11月下旬、担当課の「一押し案」として長妻昭厚労相ら政務三役に示された。
「自由な予算が確保できるプラン。大臣も選びやすいはずだ」と厚労省の官僚は期待した。狙い通り、政務三役の了承を受け、使い切り案が採用された。この案だと、財団の事業規模が現在の年間15億円から一気に60億円まで膨らむため、財団は他団体の吸収も視野に入れ始めた。
だが、喜びはつかの間だった。
「基金関係が進んでいない」。昨年12月8日、閣僚懇談会で藤井裕久財務相が基金の返納が進んでいないことに苦言を呈すると事態は一変した。
長妻厚労相は役所に戻ると、急きょ財団担当の局長や課長らを10階の大臣室に集め、淡々と方針変更を告げた。「こども未来財団の基金は返納します」
反論する官僚は一人もいなかった。同席した幹部は「子ども手当や診療報酬アップなどの大玉予算を通すためには、小玉の基金はやむを得ないという判断だったのだろう」と大臣の思惑を推測した。
「基金は返納になりました。決定です」。12月中旬、財団の東泰秀総務部長は、後輩の育成環境課長からの電話に言葉を失った。年間1億円程度の管理費の削減を暗に求められ、天下り理事の廃止が事実上決まった。
休業相談事業などで厚労相の指定を受けてきた「21世紀職業財団」は、仕分けで指定取り消しの判定を受けた。これにより、財団は収入の9割を失うが、厚労省内では復活案さえ持ち上がらなかった。
47都道府県にある21世紀財団の地方事務所は維持できなくなり、300人規模で雇用問題が生じる可能性がある。厚労省は財団に「再就職支援の希望者数を把握するように」と指示を出し、廃止準備を進めている。担当者は「切られたって感じですよ」と力なく語った。
会計検査院によると、国や独立行政法人から国費を受けた公益法人は07年度で1848、総額は8263億円に上る。=つづく
毎日新聞 2010年1月7日 東京朝刊