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経済悪化、後継不足…論壇退潮の危機 「諸君!」休刊

2009/05/04 01:23更新

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 文芸春秋の月刊オピニオン誌「諸君!」の最終号となる6月号が店頭に並んだ。40年にわたり保守論壇の拠点のひとつであった同誌はなぜ撤退せざるをえなかったのか-。

■広告減収 とどめの一撃

 「雑誌を取り巻く経済環境の悪化に尽きます」。文芸春秋の松井清人第一編集局長は休刊の理由を説明する。「諸君!」の発行部数は5年前の25%減。オピニオン誌は、新しい水が流れ込まず、徐々に水位が下がる池にたとえられる。これに金融経済恐慌による広告収入の激減がとどめの一撃を加えたといえる。

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記事本文の続き 「創刊から一貫して『健全な保守論壇の構築』という役割を担ってきたと考えています。役割を終えて休刊すると言いたいところですが、役割を終えたとは今も考えておりません」と、自負と口惜しさの滲むコメントを松井氏は寄せるが、環境の厳しさはどのオピニオン誌も同じ。同社が撤退を決断した理由についてはさまざまな見方がある。

 「リベラル保守であった文芸春秋の歴史認識が昨今はリベラル左派が中心になっている」と「WiLL」を発行するワックの鈴木隆一社長は指摘、経営陣のスタンスとずれる「諸君!」は真っ先に切る対象になったのでは、と推測する。

 民俗学者の大月隆寛さんはこんな見方をする。「論壇なんてものを、体を張って引き受けようという若い人が社内にいなくなったのではないか」

 文芸春秋取締役の立林昭彦さんは内情を次のように説明する。「4月以降の営業収益を弾いてみると、著しい減益が予想された。赤字雑誌の整理が求められる中で、文芸雑誌を存続させて『諸君!』の休刊を決めた理由は、文芸の連載は単行本、文庫となって収益につながるから。『諸君!』の連載はうまくいって新書。それも2刷がせいぜい。休刊を決める前に、減ページや隔月刊、季刊なども検討したが、赤字の改善は困難だった」

■大テーマに無関心な若手

 もうひとつある。それは社内の世代交代だ。

 「弊社の若い人たちが歴史認識や憲法改正、日米関係といった大テーマに関心を持たなくなっており、こんな状況で存続させても、とても巻き返しはできそうにないと判断した」

 休刊の影響はどうか。ライバル誌である「新潮45」の宮本太一編集長は「寂しい限り。歴史ある同誌の休刊で、月刊誌全体が活力を失ったと感じられることを懸念する。業界全体にとってのマイナス」と憂慮する。かつての論敵であった元共産党政策委員長の筆坂秀世氏は「論争の場が昨今はテレビやネットに移行しているが、そこはじっくり思考を研ぎ澄まして対決する場とは思えない。『諸君!』の休刊は左右に関係なく危惧(きぐ)すべきこと」と危機感を募らせる。

 立林さんは言う。「保守の時代となり『諸君!』の役割は終わったという人がいるが、とんでもない。日本が本当の独立国として立っていくためには、思想的・現実的課題が山のようにある。もちろん月刊『文芸春秋』でも取り組んでゆくことになるだろうが、『正論』や『Voice』『WiLL』にも踏ん張ってもらわないと」(桑原聡)

                ◇

■「正論」広告でエール交換

 1日発売された「諸君!」6月号に、同日発売でライバル誌である「正論」6月号の広告が掲載された。休刊する「諸君!」の最終号でエールの交換が実現した。

 広告はカラー見開き2ページ。「『諸君!』の40年に深甚なる敬意を表します。惜別の思いを決意にかえ、『正論』は“保守”の松明を掲げ続けます」とのメッセージに加え、「諸君!」を創刊した当時の文芸春秋の社長で名編集者とうたわれた池島信平氏のエッセーから「これからは保守派でゆきましょう」とのくだりを引用した。

 広告のコピーを考えた上島嘉郎正論編集長は「正論」6月号に「『諸君!』休刊に思うこと」と題した一文を載せ、「社の枠を超えての“戦友”でもあった」と休刊を惜しんだ。今後の保守論壇について「勝負としての論争の場をつくることが“仕事”だと思っている」と決意を示した。

 一方、「諸君!」の内田博人編集長は最後の編集後記で「長年の盟友にして、良きライバルだった雑誌『正論』にエールを送ります。一層のご健闘を。上島編集長、後はよろしく頼みました」と記した。正論の広告を掲載したことについては本紙の取材に対して「大変光栄なこと。読者から見れば明確なメッセージとなって心強い。安心した気持ちだ」と述べた。

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