2008,04,04, Friday
冬の味覚の王者として君臨している「フグ」。
もう4月になり、桜も満開のこの時期、残念なことにフグのシーズンも終わりとなりました。 しかし「フグ中毒」のシーズンが終わったわけではありません。 昨年(平成19年)は1年間で23件(患者数36名;死亡者2名)のフグ中毒が発生しましたが、フグのシーズンオフだと思われている4月から9月の6ヶ月間でフグ中毒が7件(患者数10名)発生しています。事件数にして年間の30%(患者数では28%)がこのシーズンオフの半年間に発生しています。さらにこの間の8月には長崎県で1名の方が亡くなっています。この10件のフグ中毒事件は全て家庭で起こっています。 フグ中毒が発生する原因は①知識不足、②食い意地でしょう。 ①知識不足 ・時にふぐ調理師免許を持たない調理師がフグを調理して事故を起こすことがある。 ・釣り人が自分で釣ったふぐを自分で料理して中毒する。 ★皆さんはフグは筋肉と皮と精巣(白子)は食べることが出来ると信じているではありませんか。実はそれは「トラフグ」の毒の分布であって、フグ類全部にあてはまるものではありません。例えば、防波堤の小物釣りや投げ釣りでよく釣れる「クサフグ」は皮や精巣にも毒があります。コモンフグ、ヒガンフグも同様です。このようにフグは種類によって毒の分布が異なるので要注意なのです。 フグは「フグ調理師免許」を持った人以外は絶対に調理してはならない。 「素人料理は禁物」です。 ②食い意地 ・特に釣り師は妙な自信を持っていることが多いようです。 「瀬戸内海のフグは無毒」 「釣れるフグは喰える」 「フグの肝でも親指の爪程度の大きさなら食べても大丈夫」 さらには 「オレはあたらない!」 これらは全て根拠のないウソです。フグの肝などの有毒部位を食べ続ければ、その内必ずあたります。 バブルの時代にはフグの肝をスライスして穴をたくさんあけて水にさらすことで減毒し、客に提供しようとした店もあったが、残念ながら元の肝にどれだけの毒が存在するか不明なので、少々の減毒処理を行っても安全性の確保は出来ない。 中毒症状 20分から8時間以内に症状が表れることが多い。症状は舌、口唇のしびれから始まり、四肢先端から四肢全体のしびれ。さらに吐き気、運動障害から完全な運動麻痺、呼吸困難から呼吸麻痺に至って死亡する。ただし、意識は最後まで澄明で、周りでしゃべっていることは全て聞こえて理解できると言われている。しかし運動神経麻痺のために指先一つ、目玉さえも動かせないので傍目には意識不明のように見える。 フグ毒はなせ毒なのか フグ毒・テトロドトキシンは神経を麻痺させることが知られている。 神経伝達とは電気的な刺激が伝わっていくことだが、その電気的刺激は細胞外のナトリウムイオンが神経細胞表面のナトリウム・チャネルを通って細胞内へ流入することによって、局所的な電気的脱分極(刺激)が次々と起こることによって伝わる。 さてテトロドトキシンはナトリウムチャネルの入り口に結合することによって、ナトリウムイオンの細胞内への流入を妨げることで神経伝達を妨害し、麻痺を起こさせる。 すなわち、テトロドトキシンは特異的に神経線維のナトリウム・チャネルを阻害する。 フグ毒の起源 テトロドトキシンは海洋細菌によって産生される。食物連鎖による生物濃縮としては海洋細菌→プランクトン→底生生物(ヒラムシなど)→肉食性巻貝など→フグといった経路が考えられている(1)。このルートがフグの毒化メカニズム仮説の主流だが、その他に、フグの腸管内細菌がテトロドトキシンを産生し、その毒をフグが吸収して毒化する可能性を指摘する研究者もいる(2)。 無毒化の試み---養殖フグ フグの毒化機構として上記(1)のような経路が主と考えられているので、無毒のエサでフグを養殖することによって無毒フグを作ることが出来ると考えられた。そこで長崎大学と佐賀県嬉野町はフグの孵化時から一貫して無毒エサで養殖して無毒フグを作製することによって、嬉野温泉でお客にフグ肝を提供する「フグ特区」を厚生労働省に申請したが、残念ながら100%の安全性が保証できないとして却下された。 1983年までは大分県のフグ料理専門店では、フグ肝を除毒した伝統食品「キモ料理」を提供していたが、現在では禁止されている。 現在フグの有毒部位を食べることが出来るのは、石川県の郷土料理である「フグ卵巣の糠漬け」だけである。卵巣の除毒のためには約3年という時間がかかる。数年前に手抜き除毒卵巣を販売し、中毒事故が発生したことは記憶に新しい。 フグはフグ毒をどのように利用しているのか 以下のような仮説が考えられている。 ①ヒガンフグなど、皮に毒のあるフグは外敵に対する防御のために皮から毒を放出する。(危険を感じると皮から毒を放出して外敵を撃退する) ②雌が雄を引き付けるためのフェロモン様物質として利用している。 ③産卵した卵を外敵から守る。 栄養士・栄養教諭・中学校家庭科教諭になろう
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| 毒のはなし | 10:17 PM | comments (x) | trackback (x) | |