日本のネット業界に君臨する王者、ヤフー。2009年4〜9月期も前年同期比で増収増益を達成し、売上高営業利益率は50%を超える。深刻な不況に悩む日本においては、数少ない「勝ち組企業」だ。
だが一皮めくると、内実は厳しい。ヤフーが主力とする広告事業は前年同期比で減収。有料会員の月会費の値上げやコスト削減で収益を確保している状況だ。景気回復によりネット広告市場が復活しなければ、抜本的に収益を回復させるのは難しい。井上雅博社長に、今後の成長戦略を聞いた。
―― 新聞広告やテレビ広告に比べれば、国内のインターネット広告は堅調です。しかし不況により、当面は厳しい状況が続きそうです。ヤフーが成長スピードを加速するなら、これまで通り国内市場にとどまるのではなく、海外に展開する必要があるのではないでしょうか。
井上 まずは整理しておきたい。我々は「ヤフージャパン」というくらいなので、基本的には日本というテリトリーでビジネスをすることになっている。ヤフーというブランドを、日本国内に限って利用できるとも言える。
(こうした会社が)海外に出て行く必要性や余裕が本当にあるのか。僕はまだ、日本のマーケットはずいぶんと伸びると考えている。実は皆さんが思っているほど心配していない。
大切なのは、シェアよりも絶対額を伸ばすこと
ヤフー社長
1957年2月生まれ。東京都出身。79年東京理科大学理学部数学科卒、ソード電算機システム入社。87年ソフトバンク総合研究所に入社。92年ソフトバンク入社、94年社長室・秘書室長。96年1月のヤフー日本法人設立と同時に取締役に就任、同年7月に代表取締役社長に就任し、現在に至る。2001年からソフトバンク取締役を兼任
井上 (今の枠組みでは)海外に横展開するのか、日本市場を深く掘るのかどちらかを選ばなければならない。「ヤフージャパン」としては、国内の伸びの方に賭けていきたい。
ヤフージャパンがうまくいったのは、日本人が運営したからだと思っている。アメリカ人が日本に来てうまくいかないのと同じように、日本人が中国や韓国に行ってもうまくいかない可能性がある。
我々が海外市場を取り込むことを、過去、米ヤフーが打診してきたことがなかったわけではない。しかしそういう判断で、これまで海外展開はやっていない。
―― 国内での広告シェアをどう見ていますか。ヤフーが市場の成長率を超えられなくなったことが、株価低迷に反映していると指摘するアナリストもいます。
井上 株価に関してはコメントするのが難しいが、もともとシェアが高過ぎることも影響しているのではないか。ただ、ヤフーの広告シェアが落ちているという認識はない。むしろ上がっていると見ている。
大切なのは、シェアよりも絶対額を伸ばすことだ。ヤフーは(2007年から)「オープン化」に踏み切り、広告や課金のプラットフォームを他社に開放し始めた。これは、最初からシェアを落としに行く戦略でもある。
技術優位を持つヤフーだけが日本で儲けるのではなく、他社にもそういう技術を提供して、パートナーにも売り上げや利益で貢献したい。現在はそういう戦略を取っている。
「合格点ぎりぎり」のサービスをできるだけ集める戦略
―― ヤフーの強みは、一定水準を超えたサービスを取りそろえた「百貨店」的な魅力にあると思います。今後も、「ポータル」戦略は続けていくのでしょうか。
井上 以前は、ヤフーが持つ全部のサービスが1番になれば、全体として1番になれると考えていたが、それはもう諦めた。ユーザーの属性がどんどん多様化し、ニーズも多様化している。単一のサービスで万人を満足させることはできない時代になってしまった。
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