<リプレイ>
●残滓の中に 崔の話を聞いた10人の能力者達。 彼らの向かうは、九州は佐世保湾の海岸線に連なる佐世保市高後崎周域。 海岸線が美しく煌めく街角は、このような依頼でも無ければのんびりと過ごしたい美しい光景。 しかし……今回はそのような事は言っていられぬ状況である。 この高後崎の海岸線を進むのは妖獣戦車達。 そして彼らが破壊せしは、目の前にある、一般人達の家々……。 「……これが、その爪痕と言うのか……」 半ば呆然気味に呟くのは、羽鳥・達也(人呼んで殲滅剣鬼・b04291)。 妖獣戦車達に壊された家々は、もう既に元の面影などは微塵もなく、徹底的に壊されていた。 そんな光景を見つめなければならないのは……本当に辛く、黒鵡・那儀(少しでもあの人に近づきたい・b43348)も……。 (「……この光景……私の、隠里に似ている……。あの時の、あの襲撃……」) その涙腺からは一筋の涙を流し、言葉を紡ぐ。 「これが……対価なのだ。この惨状こそが、勝利の代償なのだ……」 霜月・神無(氷雪のカメリア・b04161)が、那儀の肩を叩きながら一言。 能力者達が選択した結果は、この妖獣戦車および、リリスとリビングデッドを上陸させる結果となった。 銀製館学園の選択の結果であり、その爪痕は……覚悟はしていたものの、思ったよりも能力者達の心へと傷をつける結果となったのは、言うまでもない。 「あの時選んだ選択肢には後悔していませんが……この無残な光景を見ると、心が痛みますね……コレ以上の被害の拡大は、絶対に止めなければ」 「そうですね。どれだけ後悔しても、時間を戻す事は適わない……ならば、今はその事は忘れて、敵を倒すことに全力を尽くしましょう。今度こそ、後悔しない様、何よりコレ以上嘆く方を増やさない為にも」 胸に手を当てながら言葉を紡ぐ宮代・夏月(黒耀の使徒・b09502)に、乾・蒼耶(蒼の癒手にして黒の葬者・b04792)が頷く。 そして出雲・那美(梓弓の巫女・b24518)と、帆波・聖(曼珠沙華の泪・b00633)も。 「先日の戦争、確実な作戦遂行の為とはいえ、敵の上陸を阻止出来なかったのは私達の責任ですわ。そのせいでこんなにも被害が……もう、コレ以上はやらせませんの!」 「ええ。私達が招いた結果です。だから私達で終わりにさせましょう!!」 と気合いを入れる。 選択した結果を元に戻す事は出来ない。だからこそ……今、能力者達は自分たちで出来る事をしようとするしか、その解決手段は無い。 それこそ……この妖獣戦車達の前に立ち塞がり、打ち砕くことなのだから……。 「……街で暴れる妖獣戦車が相手とはな。原初の吸血鬼どもめ、厄介なものを残していってくれる……」 「そうですね。まぁ……戦後処理と言う奴ですね。尤も、敗残の兵と呼ぶには強大な敵が相手の様ですが……」 四条・禍月(往く先は風の向くままに・b51362)に、奈那生・登真(七生討魔・b02846)が頷く。 そして更に登真は眼鏡を静かに外し。 「勝って兜の緒を締めよ、勝ちきらない内ならば、尚更の事、か……勝ちを収めた先の戦争を、完勝へと導くためにも、今一度、死力を尽くして掛からなければなるまい」 「うん。そうだね。ふふふ……敵・殲・滅☆ だよ、ね」 鳳・流羽(門吏の符呪士・b03012)がにこりと微笑み、禍月、神無は……真摯な顔で。 「ああ……止められなかった自分もふがいないと言えばふがいないが、今はそんな事を言っている暇は無い。早急に撃破して、コレ以上被害を出さないようにせねばな」 「『仕方がない』とは言いたくはない。そんな風に諦めたくは無い。彼らは救えた命なのだから……心に刻もう、忘れるな、と……」 そんな仲間達の言葉に対し、一人……目を閉じ涙を流す那儀。 「……ん、大丈夫か?」 と、達也がその肩を優しく叩くと、那儀は……涙を拭いて。 「……あの時は、『あの人』が助けてくれた。だから今度は……私が街の人達を、助ける……!」 その過去に潜む経験をバネにするべく、気合いを入れる彼女に流羽は。 「うん。頑張ろうね」 と、彼女を包み込むように微笑み、その手を握りしめた。
そして能力者達は、更に急ぎ妖獣戦車の被害跡を追いかける。 程なくして……妖獣戦車の姿が見え、既に妖獣戦車が徹底的に家を破壊している。 「うわぁ……何か凄い音してるね……」 「そうですね……でも、コレ以上被害が出る事は、何としても阻止したいですね……」 流羽に頷く蒼耶。 幸か不幸か、今のところ妖獣戦車達は家の破壊に注視しており、こちらの到着には気づいていないようである。 しかし……周りに隠れるところがあるか、と言われると……。 「奇襲を仕掛けようか、と考えましたが……少々厳しそうですわね……」 「ええ……まぁ、仕方在りませんが……」 那美に夏月が頷く。 勿論この場で待っていれば、その隙は生まれるかもしれない。 しかし……コレ以上の破壊を許してはおけないのも事実……。 「こうなれば……仕方在りません。体勢を整えた後、突撃しましょうか」 「了解です」 聖に頷く登真。 「……八百万の神々よ、我に力を貸し与え給え……」 それぞれイグニッションし、那美を始めとして各自自分自身への強化を掛け、能力を高める。 一回りの強化を施した後、全員は声無く頷き合うと。 「では……行きましょう!」 聖の号令に合わせ、能力者達は一斉に突撃を仕掛けた。
●全てを祓う為 「ターゲットロックオン……これで全部、終わりにします! 冥府へと誘う符!」 かけ声一つ、そして妖獣戦車達を射程距離ぎりぎりに抑えた位置にて、聖は呪殺符を最後尾に居る猪妖獣に投げる。 不意打ちの攻撃をまともに受ける猪……しかし、すぐに能力者達の方に向き直ると共に、威嚇の鳴き声を唸らせる。 敵は妖獣と戦車を合わせて13体……能力者達の数よりも多い。 無論、それで怯むような能力者達ではないが……妖獣戦車の体躯は己達の何倍もの体躯を誇り、大変強力な威圧感を感じざるを得ない。 「いいか……ここが往生際だ。掛かってこい、ガラクタ共」 「コレ以上、貴方方の好き勝手にはさせません。好き勝手にしたいのであれば、僕達を倒してから行く事ですよ」 登真、蒼耶二人の宣言に対し、妖獣戦車は巨体をこちらの方に向けてくる。 丁度13体の敵が範囲内に収まる事を確認すると共に、那儀は。 「術、行きます!」 手を広げ、地面に密着……即座に八掛迷宮陣を展開。 次々と妖獣戦車達に掛かる拘束攻撃……しかし。 『ウゥウウ……!』 大きな巨体を強く振り回し、その拘束を力尽くで逃れる妖獣戦車。そして続けてその口元を大きく開くと……その場所に、力が集中していく。 「……砲撃来そうです!! 気をつけて!!」 聖の叫びに頷き、前衛……登真、達也、蒼耶、夏月、禍月の五人は一つ前に出る。 その次の瞬間、口元から放出されるエネルギーの珠は、夏月の下で大爆発を起こす。 武器を使い、その爆風を受け流そうとするが、強力な威力は爆発。 事前に話し合った結果、ある程度散開した陣形を取ってはいたが、まだこの距離では不足のようで。 「うぐ……っ」 「大丈夫ですか? 高天原の神々よ、彼の者に加護をッ!」 那美が即座に祖霊降臨で、一番のダメージを受けた夏月を回復。 重ねて流羽が左の禍月を治癒符で癒し、聖も右の蒼耶を癒す。 完全回復まででは無いが、一息付ける程度まで回復すると共に。 「妖獣戦車を倒すのにも、体力が多いだろう。まずは周りを早々に片付けましょう。鳳さん、対象指示を頼む」 「私? 了解……まずは手前のクマからよ!」 登真に頷き、流羽が狙いを定める敵を指示。 「消えなさい……霧が晴れる様に、跡形もなく……招かざる客達には、速やかにご退場願いましょう」 夏月と禍月の二人はダークハンド、蒼耶は龍撃砲、そして登真は水刃手裏剣で、多少の距離を取った状態にて攻撃。 「凍えなさい……!」 一方達也は、暴走黒燐弾で全ての敵を巻き込んだ攻撃を繰り出し、加えて神無も吹雪の竜巻で全体の体力を削りとっていく。 それら能力者達の攻撃に続き、敵側妖獣達も素早く動き、攻撃の牙を剥く。 鋭い爪でなぎ払い攻撃を仕掛けるクマと、素早く突進し、ヒットアンドアウェイの攻撃を取る猪の二種の妖獣。 妖獣戦車のダメージを回復したものの、妖獣達の攻撃もまた熾烈であり、その体力はまた削られていく。 「藤、前で戦って、皆を回復して!」 「もきゅ!」 聖の言葉を受けて、彼女の真グレートモーラットの藤は中衛に出て、ぺろぺろなめるでその体力を回復。 まだ危険な状況であるのは変わりはないが……幾分の安心感はある。 そして2ターン目。先手を取るのは妖獣戦車。 再び砲撃体勢を取り……前衛陣の立つエリアに爆発を炸裂させる。 先ほどの攻撃から導き出した回避方法を取る前衛陣。 0とは行かないが、ある程度ダメージの軽減をさせる。 「よし……」 頷く達也。反撃の一撃を逆に仕掛けると共に、後衛に立つ流羽も。 「そこの固まってる連中を狙うねー」 と、森王の槍での攻撃を加える。 能力者達の範囲攻撃の雨に、確実にダメージを与えられていく妖獣達。 勿論能力者達の攻撃の後、妖獣達も攻撃を仕掛けてくる。 猪はその体を震わせながら、厄介な中衛、後衛の能力者達への突破口を開こうとするが。 「通しはしない……絶対に、な」 達也を始め、前衛達は相互に間を通過しようとする妖獣を牽制し、それ以上踏み込ませぬようにする。 そしてその間に神無も。 「その場に留まりなさい」 と、茨の領域で妖獣戦車達の動きを拘束に掛かる。 戦車に対しての効きは悪いが、それ以外の妖獣に対しては、一定以上の効果を与えている。 「ある程度の動きは神無ちゃんのそれで塞いで! 残る皆で、動ける妖獣を一匹ずつ倒していくよ!」 「了解しました」 流羽の言葉に頷く夏月。 妖獣戦車の動きは特に注意が必要ではあるが、それだけに意識をとらわれていては妖獣をも倒す事は不可能な訳で。 能力者達は、持久戦の様相を覚悟しながらも、全力攻撃で以て、妖獣戦車達に立ち向かうのである。
「ふぅ……よし、動ける妖獣らは全て倒したな」 溜息を一つつきながらも、その疲弊した意識を再度奮い立たせる禍月。 茨の領域で足止めされた3体の妖獣と、妖獣戦車を残すのみとなった能力者達。 しかし……全力を以ての攻撃は、残るアビリティの数も心許なく、一瞬でも気を抜けぬ戦況となっていた。 「事態は厳しい……でも、私達は負けるわけにはいきません……そうですよね、皆さん」 聖の言葉に頷く仲間達……皆、まだ希望まで失っている訳ではない。 「妖獣戦車は後回しにして、動けない妖獣を続けて倒そう」 「解った」 前衛陣で頷き合うと共に、残る三匹の妖獣の下へ。 当然すぐ後ろには妖獣戦車の姿……危険度は跳ね上がるが、怯む余裕も無い。 前衛五人の全力攻撃で、一匹、二匹、三匹と妖獣を打ち崩していく中……妖獣戦車はうなり声を上げる。 そして次の瞬間……素早い動きで以て、蒼耶に向けて突撃を仕掛ける妖獣戦車。 吹き飛ぶ体……その体を抑えたのは那儀と那美の二人。 大きなダメージは受けたものの、即座に那美が祖霊降臨での回復を行い、再び蒼耶の前に。 「……そう簡単に倒れる訳にはいかないんですよ。打ち倒す迄は……!」 その目には、何にも負けないという光。 蒼耶だけではない。周りの仲間達も……この戦いに負ける事は出来ない、その意思を纏った光。 「この場で消えろ……!」 前衛達は、妖獣戦車の周囲を完全に取り囲み、身動きを取れないようにその行動範囲を狭める。 そして……。 「行きます。我が一矢に、魔を討ちし草薙の力をッ!!」 那美の破魔矢が空高く舞い上がり、妖獣戦車の体を打ち抜く。 重ねて流羽の森王の槍、聖の呪殺符が動けぬ妖獣戦車に決まると、大きな叫び声を上げる。 「これらの攻撃は効いているようね。ならば……これで凍え死になさい」 神無の吹雪の竜巻、達也の暴走黒燐弾が妖獣戦車を包み込んでいく。 暴れる妖獣戦車……そして、挽き潰しの攻撃を幾重にも仕掛けて来るが、吹き飛ぶ体を中衛、後衛の仲間達は確実に抑え込む事で……その包囲網の隙間を作りはしない。 ほぼ全ての仲間達が、アビリティを使い切り……そして。 「これで終わりだ……!」 禍月の黒影剣の一撃が、妖獣戦車の体を一刀両断にすると……妖獣戦車は断末魔の咆哮を辺りに響き渡らせながら、その場に倒れていった。
●傷跡 「……終わりました……か……」 戦い始めてから、一時間ほどが経過した頃。 能力者達は全力を使い切った状態ではあるが、どうにか妖獣戦車達を倒した。 体もボロボロ、体力も残り少ない……自分たちよりも幾重にも強力な存在と戦い、こうして勝利を収められたのは、皆の一致団結した力があってこそだろう。 「とりあえず、これで終わりですね。今回は……」 「ええ……」 神無、那美の言葉に頷く仲間達。しかし……能力者達の目の前には、まるで竜巻が通り過ぎた跡のような……崩壊した家々。 「……ごめんなさい……」 無意識に呟く聖……その言葉に頷く那儀も。 「本当……もっと早くに来れずに、ごめんなさい……」 と、街の惨状に謝罪の言葉を紡ぐ。 自分達、銀製館学園の選んだ選択。多数の犠牲者を出してしまった選択肢。 「……」 その悲しみを心に秘め、夏月は……そのボロボロの体を気合いで立ち上げ、そして……壊れた家の残骸を除ける。 「……何をしているのですか? 夏月さん」 「……まだ、瓦礫の下に埋まっていて、生きている人がいるかもしれない。だから……探したいんです」 辛そうに言葉を紡ぐ夏月。 妖獣戦車に踏みにじられた命……この瓦礫の下に埋まり、芽を残している可能性は殆ど無いだろう。 しかし、探さずにはいられなかった。 謝罪、贖罪……様々な意識が浮かんでは消えていく。そして……唯一残るは、生存という一筋の光な訳で……。 ……しかし、その光は無残にも閉ざされる。生存者の影は……一つもなく。 「……悔しいですわね」 「そうだね……」 那美、流羽の言葉……そして犠牲者となった街の人の骸に向けて、皆手を合わせ……彼らの冥福を祈る。 空は朱色に輝き始める時刻……そして、空の太陽は、山の稜線に消えて……散り際の一際強い輝きで以て、能力者達を包み込む。 「……帰りましょう。まだ……私達には、やらなければならない事があります」 「そうだな……」 聖の言葉に登真は頷き、再び眼鏡を掛ける。 美しく煌めく太陽の光が、山に隠れて見えなくなるまで……村人達の冥福を祈る。 そして……次なる戦いに向けての意識を心に宿し、海岸線に煌めく帰路を歩くのであった。
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参加者:10人
作成日:2010/01/04
得票数:泣ける1
カッコいい7
せつない3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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