<リプレイ>
● その音が聞こえたら、何も知らない一般人の耳にはどんな音に聞こえるのだろうか。風が吹き付ける海岸沿いの道を、10体の妖獣の群れが駆けている。その群れから生まれる断末魔のうめきにも似たうなり声を、冬の海からくる風が運んでいた。 「よくも物騒なものを送ってくれた……」 舌打ちをしながら犀遠寺・限(黄泉津の楔・b26238)は前方から迫ってくる妖獣戦車の一団を見据えた。上陸を許してしまったシャンプレーン戦車揚陸艦から上陸した妖獣戦車の群れの一つ。討ちもらせばその先にあるのは、妖獣たちによる死の宴だ。 「俺ら勝ったんでしょ? あのおばさんどっか行ったんだし。だったらなんで負けたってのにまだ来るかね……めんどくっさ」 「あれらが上陸した時には、まだオーさんと戦ってございましたからねぇ」 「……それ、誰?」 「ほら原初の吸血鬼の……オー……? オク……?」 「あのおばさんのこと?」 「はいはい、そのお人でございますよぉ」 『赤と黒の淑女』と呼ばれるオクタンスをおばさん呼ばわりするリヒテンシュタイン・ヴォルケルト(鱗ある羊・b33373)と、名前を正確に覚えていない隼人司・衣都(西風の娘・bn0213)のどちらが失礼かと言う問題はさておき、とりあえず2人とも妖獣たちを前に臆していないことは確かのようだ。 「いない敵のことは考えないとして、ここで食い止めないと戦った意味がないわ!」 どことなくのん気に見えないでもない衣都の隣で、サラ・ブライト(バーニングガール・b46470)はきっぱりと言った。その目は限と同じように真っ直ぐに前方を見据えている。近くなってきたうめき声と波打つような長い毛並みがぐんぐん大きくなってくる。 「もうすぐ、来るですよ」 宝条・志帆(首輪と奈落の霊獣・b64301)の言葉を合図にレン・ホーリー(白き勇者・b23785)、限、サラの3人が能力者たちの1番前にでた。白い蟲たちがレンの2本の長剣に、そして限の鬼面と2本の宝剣に集まり淡く白い光を放ち始めた。サラの褐色の肌に虎紋が浮かび、一本に結わえられた長い黒髪が風に空き上げられたように揺らめき始めている。 「非常に強敵ですが、がんばって打ち倒しますよ」 神楽・透(蒼き静かな炎・b03220)の言葉を背中に聞きながら、レンは頷いた。 「この二つ名に懸けて、人々に禍なす者は赦さないよ!」 張り詰めた空気の中で、妹尾・縁(笑顔懸命に思い出す子猫・b54041)は静かに目を閉じて大切な人から貰った赤いマフラーにそっと触れた。 (「大丈夫……」) 柔らかい感触が、高ぶっていた縁の心を鎮めていく。大丈夫。きっと、負けない。 「では、始めましょうか」 その言葉の直後、露払いのように先陣を切っていた猫科の妖獣と3人の前衛が接敵した。
● 「数が多いな……ならば、暗き深淵の檻に捕らわれて、大人しくしいてくれ」 橡・刻遥(闇檻・b61837)の言葉と共に5体の猫科の妖獣の後ろにいた妖獣戦車の1体、それと2体の青い鰐を巻き込んで爆発が起きた。その爆発の直後に現われた茨が3体の妖獣たちを覆っていく。その茨が現われるのとほぼ同じタイミングで、蜘蛛の糸が白燐蟲の光を白く反射させながら、戦場全体の敵に纏わりつき縛り上げていく。 「隼人司さん、動ける鰐を眠らせて下さい!」 「はいな!」 志帆の指示で衣都が動ける青い鰐に導眠符を投げつける。この戦いでは修理の呼びかけで集められた能力者の数より、妖獣の数の方が多い。レンのサポートで来たアリアンを入れて数の上ではやっと五分。妖獣が能力者の動きを阻害する攻撃を仕掛けてくる以上、こちらも妖獣たちの動きを止めることができるならそれにこしたことはないのだ。能力者たちのアビリティの効果が破られるかどうかの刹那の時間に、志帆と刻遥の2人の瞳をこらしている。
「1番後ろの青鰐が一匹、それから左側の妖獣戦車が動けます!」 叫ぶような志帆の指示を聞きながら、サラは動ける青鰐に向って地を蹴った。そのサラを狙って、猫科の妖獣の針のような長毛が飛ぶ。すんでの所で追撃の効果を持つ攻撃を避けると、サラは動ける青鰐に獣爪を振るった。衣都の導眠符の効果を打ち破った青鰐は、サラの攻撃をまともに喰らったが、あまりダメージを受けていないようだ。そして拳を受けたことで、サラを敵と認識すると、大きな口を開けてサラに襲い掛かってくる。
「……喰らい尽くしやがれ!」 リヒテンシュタインの言葉と共に撃ち込まれた黒い弾丸が弾けた。飛び散った黒燐蟲たちは、4体の鮫歯の大猫に群がり、貪っていく。4体の妖獣たちはあるものはすぐ近くにいる、レンや限、そしてサラを噛み付き、あるものは長い毛を中衛、そして後衛に飛ばしてくる。幸いなことに、最初に茨に覆われた青鰐2体が、刻遥の茨の領域の効果から脱せないでいる。ついていないことがあるとすれば、妖獣戦車の一体が刻遥の、そしてアリアンの茨の領域の効果からやすやすと脱してしまっていることだ。結果としてサラが妖獣戦車と対峙するような形になってしまっていた。そのサラの周囲で、志帆の真ケルベロスベビーのコペルがサラを回復させている。 「時間はかけられねーな」 小さな声で呟くと、リヒテンシュタインは再び黒燐蟲の弾丸を妖獣の群れに叩き込んだ。
● 「犀遠寺さん、後ろの妖獣戦車が動きそうです!」 志帆の叫びに、限は自分が土蜘蛛の檻に閉じ込めた妖獣戦車に向き直った。運良く檻に閉じ込めた猫科の妖獣は、見えない蜘蛛の糸がまだ縛り上げているらしく、動くことはできない。だが妖獣戦車の方はじりじりと腕を動かし始めている。その向こうでレンがサラをはさみ討ちにしている鰐を攻撃しているのが見える。 「……逃がすものか!」 前衛にいる限から生まれた蜘蛛の糸が、20メートルの範囲内にいる全ての敵に巻きつけ締め上げていく。僅かなきらめきを見せて蜘蛛の糸が消えた後、敵の何体かが動きを止めた。だが妖獣戦車の動きを止めるに至らない。後ろに、行かせるわけにはいかない。志帆の赦しの舞が封術を解くと限は妖獣戦車の進路上に立ち、もう一度土蜘蛛の檻を放った。
「動けなければ、ただの的ですね」 そう言いながら透はフレイムキャノンを放つ。早く倒すために、透は精度の高いフレイムキャノンから先に使用していっていた。土蜘蛛の檻と茨の領域。2つのアビリティが敵の動きを止める。土蜘蛛の檻のマヒは茨の領域の締め付けに比べると解除されやすいが、戦場全体のゴーストに効果を及ぼすことが可能だ。問題があるとすれば、妖獣戦車が先ほどから何度も動きを取り戻していることだが、戦車の攻撃に対しては、仲間同士が距離を取り被害を最小限に食い止めている。 「さあ、さっさと燃え尽きて下さい!」 何度目かのフレイムキャノンが命中すると、猫科の妖獣の一体がその姿を消した。
強い意志を宿した瞳が、妖獣を見据えるとその体に無数の傷が浮かび上がる。縁は動きを封じ切れなかった妖獣たちを中心に呪いの魔眼を使用していた。妖獣の動きを阻害する2つのアビリティが、能力者たちをずっと有利な方向に導いている。それに加えて志帆が妖獣の動きを明確に伝えてくる。動ける妖獣から中衛と後衛にいる能力者たちの集中砲火を浴びて姿を消していっている。結果、思ったよりも早く鮫歯の大猫と青鰐の妖獣を殲滅できそうなのだ。 「妖獣戦車にアビリティがつかえるなら、この優位は突き崩せません」 微かな笑みが、縁の顔に浮かんでいた。
● 「大掃除の完了は近そうです」 戦場全体を見回しながら、志帆は呟いた。今、残っている敵は青鰐が1体と2体の妖獣戦車のみ。 「茨の領域はあとどれくらい残ってますか?」 「いや、後少し残ってはいるが……必要ないだろう」 志帆の問いかけに答える刻遥の視線の先で、レンの攻撃を受けた青鰐が姿を消す。残っているのは妖獣戦車が2体。 「これなら私も攻撃に回れそうです」 志帆は持っていた薙刀の柄でとんっと地を叩き、意識を集中した。生み出された破魔矢は吸い込まれるように妖獣戦車に向っていく。
「きゃぁぁっ!」 「サラさんっ!」 サラの悲鳴と衣都の叫び声に、リヒテンシュタインは考えるより先に反応していた。妖獣戦車に吹き飛ばされたサラをすんでの所で受け止める。 「セーフ……女の子で良かった……」 飛ばされたのが男子だったら支えるのはきつい。そのサラに衣都の治癒符が飛ぶ。 「リヒテン、ありがと」 お礼を言って立ち上がるとサラは自分を吹き飛ばした妖獣戦車を睨みつけた。 「さっさと片付けて佐世保バーガー食べに行くのよ!」 そう言い放つと同時に放たれたフレイムキャノンが命中すると、妖獣戦車を魔炎が包み込んだ。、だが妖獣戦車が咆哮をあげると、魔炎は瞬時に消えていく。 「もうっ! 腹が立つの!」
「他はともかく、妖獣戦車は一筋縄ではいかないか」 妖獣戦車のキャタピラの攻撃を紙一重で避けながら、レンは呟いた。だがバッドステータスはともかく、ダメージは確実に入っている。それなら……。 「この剣、受けてみろ!」 黒い軌跡を残しながら、レンは2本の長剣を妖獣戦車に振り下ろす。 「戦車の足が弱いことは知ってますから」 レンが攻撃している妖獣戦車を、縁は側面から紅蓮撃で攻撃していた。始めは通常の攻撃を行っていたのだが、他のメンバーに比べて経験の浅い縁の攻撃は、当たりはするがダメージを与えるには至らない。倒すためには、アビリティを使用する他なかった。
「バッドステータスがかかりにくいのは、想像してましたけどね」 苦笑いしながら、透はフレイムキャノンをリヒテンシュタインが攻撃している妖獣戦車に放った。それに志帆の破魔矢が重なる。魔炎に包まれた妖獣戦車が咆哮をあげた。だがその咆哮が終わる前に、再びリヒテンシュタインが暗がりの災禍と名づけられた鬼棍棒を叩きつけた。 「燃えつきやがれ、この外道!」 強い衝撃と共に、土蜘蛛の妖気から生まれた炎が妖獣戦車を包み込む。鬼棍棒の力で吹き飛ばされた妖獣戦車の咆哮が断末魔の叫びへと変わる。そしてその姿が消えた。 残った妖獣戦車が咆哮をあげる。だが固められた守りを打ち砕くように、レンの黒影剣が大きなダメージを与えていく。そして妖獣戦車の体が不意に揺れたと思うと、茨が覆い始めた。刻遥が最後の茨の領域を使ったのだ。茨に覆われていく妖獣戦車に、黒い軌跡を描くレンの長剣が振り下ろされる。 「正義の光は、いつだって闇を照らすんだ!」 断末魔のうめきのようなうなり声が途切れ、妖獣戦車の姿が揺らめいた。そしてかき消すように、見えなくなった。 「厄介なみやげ物、返品終了」 刻遥の声が、海沿いの道の静けさの中に消えていった。
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参加者:8人
作成日:2010/01/05
得票数:カッコいい7
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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