評論家・八幡和郎のニュース解説「時事解説」


八幡和郎の時事(時事ニュース)解説
掲載日:平成19年01月24日

「地産地消」ほど危ないないものはない 〜 安易なブームに警鐘

地元産の食品を消費しようという「地産地消」(ちさんちしょう)がブームだ。この問題を文化の問題としてとらえ、地元の伝統的な産品やそれを活かした料理や加工食品を食べたり飲んだりして先人の創ってきた地域の文化を大事にしよう、あるいは、新しい食文化を生み出していこうというなら、とりあえずは結構なことだ。

だが、もしそれが安全だということならとんでもない間違いだ。特定の産地の特定の食品を集中的に多く取ることは、危険きわまることだからである。

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水俣病もイタイイタイ病も水俣湾の魚や神通川流域の米ばかり食べるようなことをしなければ深刻さははるかに小さなものだったはずだ。こういった公害病でなくとも、健康に害がある物質で知らないうちに汚染されていたり、未知の危険物質が特定の地域の食品に含まれていることは大いにあり得ることだ。

それで健康被害に遭わないためには、ともかく分散することがいちばんいい対処方法だ。そのためには、地元の産物にこだわることも、新潟のコシヒカリとか、松阪の牛肉とかばかり食べることは決して安全なことではない。特定の国で許されている添加物や農薬が実は危険だったというのもありうるから、輸入食品もできるだけいろんな国のものを使うべきだ。

国産食品が安全などというのは何の根拠もない。むしろ国境でのチェックという関門がない分だけ危険というべきだ。BSEがたしかに日本国内にあるわけだが、海外からなら輸入禁止にできるが、国内では流通禁止にはしないし、消費者団体もなぜそれを主張しないか不思議だ。

日本の農業や水産業が、農薬や化学肥料などを世界的な標準よりはるかに濃密に使っているのだから、この意味でも国産食品は危険なはずだ。私がヨーロッパ駐在のころ、日本の水産食品の防疫態勢がずさんきわまるといって全面輸入禁止になったことがあるが、生産者に甘い仕組みが革命的に変わったと聞いたこともない。

いずれにせよ、我が家ではできるだけ世界各地の食品をまんべんなく取ることにしている。あるいは、牛肉でなら豪州のものとか、国際的に安全と評価されているものを総体的には優先させている。

だが、だからかといって「地産地消」運動を否定するのでない。ただ、あくまでも「地産地消」はたいへん危険なことなのだという前提をしっかり踏まえ、それでも文化を守るとか、地元経済振興の観点から、危険を顧みず地元食品を集中的に食べるのだから、慎重すぎるほど慎重に危険回避策を取らなくてはならないというようにしなくてはなるまい。

そうでないなら、もし健康被害でも出たら、その推進者たちは危険承知で行った運動の責任をとらねばなるまい。

地産地消(ちさん・ちしょう)

「地産地消」とは、地域生産と地域消費(ちいきせいさん・ちいきしょうひ)の略語で、地域で生産された農産物や水産物をその地域で消費することを主な意味とする。

元々は、伝統的な食生活を送る農村地域の住民の栄養不足とそれを補うために他地域から生産物を購入する消費支出を抑えるために、全国各地の農業関係者の間で行われた農産物の計画的生産と自給拡大の活動を指した。

現代では健康志向やスローフード運動などから消費者が新鮮な食材を求める需要が高くなっているで再び注目され、各地域で自治体や民間を中心に積極的な活動が行われている。

消費者は、直売所などから地域の新鮮な食材を手に入れるだけでなく地域の生産物や生産者への理解を深めることができ、生産者側も直接消費者と触れ合うことで消費者のニーズを把握できるという効果から、文化的、経済的な地域活性のための交流活動としての拡がりもみせている。


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八幡和郎に関する紹介文
八幡和郎
やわたかずお
評論家
コーポレートガバナンス協会理事
1951年滋賀県大津市生まれ
1975年東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。
1980年には、当時から行政の最進国であったフランスの国立行政学院(ENA)に留学し、ジュルス県庁、工業省、フランス電力、クレディ・リヨネ銀行にて行政を研究。
以後も留学で得た知識を実際の国内行政に活かし、通商産業省大臣官房情報管理課長をはじめ、数々の役職・任務を果たす。1997年に通商産業省を退官後、実際の行政の実情と経験から問題点を指摘できる数少ない論客員として、テレビの対談番組への出演や本の出版など、幅広く活動。
現在、コーポレートガバナンス協会理事のほか、徳島文理大学教授

[やわた48ドットコム]
http://www.yawata48.com/
[八幡へのメール]
yawata88@mx.biwa.ne.jp
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