[読谷ひき逃げ]米兵捜査に新たな課題

2010年1月6日 09時04分
(8時間31分前に更新)

 米軍基地内で拘束されている米兵が県警の出頭要請に応じず、捜査が行き詰まっていたかにみえた読谷村楚辺のひき逃げ死亡事件がやっと動きだした。事件発生から2カ月を要したが、県警は自動車運転過失致死容疑で在沖米陸軍トリイ通信施設特殊部隊所属の2等軍曹を書類送検した。

 捜査は、軍曹の出頭拒否という想定外の難所にぶつかった。壁になったのはいうまでもなく日米地位協定だ。17条5項(c)では米側の手中にある米兵の身柄は起訴後に日本側に引き渡されると規定されているからだ。

 それでも、県警がこれまで捜査上問題なし、としてきたのは、容疑者の米兵が事情聴取に応じていたからだ。

 今回、前提が崩れた。出頭拒否されると、県警は手も足も出ない状況に陥った。日米は捜査や証拠収集について相互に援助しなければならないとされているにもかかわらず、そうならなかった。

 容疑者が日本人であれば当然、逮捕して取り調べる事件である。日本人によるひき逃げ死亡事件は、ここ5年間余りで9件発生しているが、すべて逮捕されている。

 軍曹の出頭拒否は日米双方の捜査に多くの課題が存在することを浮き上がらせた。今後、軍曹のように出頭拒否するケースが出てくることは、容易に想像できる。

 県警は、那覇地検が自動車運転過失致死罪で起訴した後に身柄引き渡しを受け、道交法違反(ひき逃げ)容疑で再逮捕するという異例の捜査方針を強いられている。

 書類送検できたのは、物証が多かったからだ。軍曹が自動車整備工場に乗用車を持ち込んだこと、フロントガラスの血痕が被害者のDNAと一致したこと、民間に居住する軍曹の家宅捜索で証拠試料などを押収できたことなどだ。

 物証が少なかったら、立件できたかどうか予断を許さなかったのではないか。

 一方で、日本の司法制度の国際基準から見た遅れも指摘されている。米側が代用監獄や、冤罪(えんざい)を生みやすい取り調べの密室性などに不信感を抱いているのも事実だ。

 起訴前の身柄引き渡しは、県警レベルを超えた政治判断だ。ただ県警は捜査の常道通り、逮捕するだけの証拠が集まったのであれば逮捕状を請求すべきだ。

 軍曹側が要求した取り調べの全面可視化についても、全国の先駆けとして県警は本気で考えてもよかったのではないか。

 事件は地位協定の矛盾を露呈させた。発生から送検まで2カ月間要したことを見ても捜査への支障は明らかだ。自動車運転過失致死罪は7年以下の懲役、ひき逃げは10年以下の懲役だ。村民がひき逃げされ、死亡した事実は重い。読谷村は村民総決起大会を開き、強く抗議した。当然である。県警の黒木慶英本部長は「極めて悪質」と県議会で答弁している。軍曹側の「容疑者なのか参考人なのか県警が明らかにしないから」という出頭拒否の理由も不可解だ。

 事件は地位協定の欠陥とともに、日米双方の捜査の在り方に課題を突きつけている。


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