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民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体が、5年余り前に、東京都世田谷区の土地を購入した際の不自然な資金の流れが問題になっている。
東京地検特捜部は、購入代金に充てた約4億円の収入を政治資金収支報告書に記載していなかったとして、当時の資金管理団体の事務担当者で現在は民主党衆院議員の石川知裕氏を、政治資金規正法違反の罪で在宅起訴する方向で検討しているという。
小沢氏をめぐっては、西松建設からの違法献金事件で規正法違反に問われた公設第1秘書の裁判が始まったばかりだ。秘書は無罪を主張しているが、その決着がつかないうちに、新たな政治資金問題が持ち上がってしまった。
問題の本質は単なる不記載ではない。4億円の原資の出どころだ。問題のない資金であるなら、そのことをきちんと説明さえできれば、これ以上、疑惑をもたれることはあるまい。
小沢氏はできるだけ早く、土地購入や資金手当ての経緯を丁寧に国民に明らかにすべきだ。
4億円は土地購入の数日前から、複数の関連政治団体を経由するなどして資金管理団体に集められていたというが、その大もとの出どころもはっきりしない。この不自然な資金の流れについて、納得できる説明を聞きたい。
検察当局には捜査を尽くすよう求めたい。必要なら、小沢氏本人から事情を聴くことも避けるべきではない。
小沢氏は再三にわたり、自らの政治資金は収入も支出もすべて収支報告書に記載して公開している、と透明性を強調してきた。西松建設側からの献金も、資金の動き自体は収支報告書に記載されていて、適法に処理したとの主張の根拠としている。それだけに今回、収支報告書に記載されていない資金の流れが浮かんだ意味は重い。
小沢氏は民主党政権の最高実力者と目され、政府の運営にも大きな影響力を持つ。夏の参院選挙を仕切る責任者でもある。それだけに、より高度な説明責任が求められる。
鳩山由紀夫首相の資金管理団体の偽装献金事件で、年末に首相の元秘書ら2人が規正法違反で起訴された。首相と与党幹事長という政権のツートップが、同時に「金庫番」の政治資金問題を抱える姿は異常である。
政治に変化を求めて政権交代を選んだ有権者は、自民党政権時代に繰り返された「政治とカネ」の問題を、新政権でも立て続けに見せられ、がっかりしているに違いない。
18日に召集される予定の通常国会で、自民党など野党は2人の政治資金問題を厳しく追及する方針だ。補正予算案と新年度予算案の早期成立を最優先する政府与党の国会運営にも、足かせとなりかねない。
疑惑の払拭(ふっしょく)は急務である。
旅立つ友を見送る李白の詩に登場する楼閣「黄鶴楼」で有名な武漢(湖北省)から広州(広東省)まで、高速鉄道が開通した。約千キロを3時間で走る。営業時の最高速度350キロは世界最速という。
中国の高速鉄道網の整備は景気刺激策の一つで、自動車に偏る輸送手段を変える環境対策としても重視されている。車両などの技術を日本やドイツから取り入れ、中国で生産する。輸出の計画もある。30年来の改革・開放政策を象徴する成果だ。
日本の新幹線の開業は1964年。東京五輪の年だ。世界銀行の融資で建設、時速約200キロで東京―大阪を結んだ。4年後、経済規模は当時の西独を抜いた。その後、日本は米国に次ぐ「世界第2の経済大国」の地位を固めてきた。
しかし、その看板が日本から中国に渡る日が近づいている。中国が08年の名目国内総生産(GDP)の総額を上方修正し、約4兆5千億ドルだったと発表した。日本との差は約4千億ドルに縮まった。
円高が進んだため、去年の実績で日本が抜かれるかどうかは微妙だが、今年の「日中逆転」は確実だ。高成長が続く中国は20年代後半に米国を抜いて世界一になる、との試算もある。
いまや中国は自動車の生産、販売台数ともに世界一。伸び盛りの市場は、各国の企業を引きつける。輸出でため込んだ外貨で、国有企業による資源買収やアフリカ援助などに乗り出している。米国債の最大の保有国でもある。「中国マネー」の勢いは増すばかりだ。20年で20倍になった経済力を背景に、国際社会での発言力の高まりも著しい。
一方、一人あたりの名目GDPは世界で100位以下。日本の10分の1ほどだ。そんな中で、富める者がさらに富む傾向が強まり、国内の格差は広がっている。
貿易不均衡の是正を求めて人民元の切り上げを求めている欧米などの声には、耳を貸そうとしない。世界最大の温室効果ガス排出国であるにもかかわらず、抑制のための外国による検証すら拒んでいる。
こうしたゆがみや自国本位の姿勢は、そのツケがいずれ中国自身に跳ね返ってくることばかりだ。
高速鉄道に象徴されるように、外国から技術や資金を取り込む開放政策こそが中国の成長の原動力だったはずだ。国際社会の中で自由闊達(かったつ)に交流しあう関係を築き、「世界第2位」にふさわしい責任感ある新しい経済大国になってほしい。
そして日本は古い看板をどう書き換えるか、考えてゆこう。中国などアジアの成長力を自らの新戦略に生かす。そのために知恵をしぼりたい。