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トーク21

12月27日

生命の輝き伝える舞台に

俳優 仲代達矢さん
“物”を増やすより“人”を育てたい
副会長 中島喜久雄さん
人材は何にもかえられない“宝”


 本年の掉尾を飾る「トーク21」は、日本を代表する俳優の一人、仲代達矢さんの登場です。半世紀にわたって映画・演劇界の第一線で活躍を続ける仲代さんと中島喜久雄副会長(関東長)との情熱トークは、舞台芸術の魅力から人材育成術まで大きく広がりました。

地域の人々と新たな伝統を
 中島 俳優・舞台役者として日本の先頭を走り続ける仲代さん。その力強い生き方は、私たち男性のあこがれです。きょうは、お会いできることを楽しみにしてきました。
 仲代 ありがとうございます。今月、喜寿(77歳)を迎えました。まだまだ若者には負けたくないですね(笑い)。
 中島 来春、公演される「ジョン・ガブリエルと呼ばれた男」の主演にも注目が集まっています。
 仲代 ある強烈な夢を持った男の人間ドラマです。牢獄生活など、あらゆる苦難に負けず、夢を追い続けた、その最終章が一体どうなるのか――。
 中島 魅力的なテーマです。原作は“近代演劇の創始者”と言われる劇作家・イプセンですね。
 仲代 イプセンには特別の思い入れがあります。私が舞台デビューを果たした「幽霊」も、「無名塾」を立ち上げて最初の舞台となった「ソルネス」も、イプセン原作の作品でした。“ジョン・ガブリエル”も、ずっと演じたかったのですが、ある程度の年齢に達していなければできない。今、人生のグランドフィナーレの時を迎え、この作品に挑む時だと実感しています。
 中島 楽しみです! 「能登演劇堂」(石川県七尾市)でも公演されますね。仲代さんが舞台設計を監修された、日本では珍しい「演劇専用ホール」です。石川は私の故郷なのですが、能登半島に住む知人が「能登演劇堂ができて町全体が活気づいた」と喜んでいました。
 仲代 「無名塾」の合宿を旧・中島町(現・七尾市)で行っていたことが縁となって、1995年(平成7年)に町が建設してくれたのです。演劇のワークショップを開催したり、地元高校生も利用するなど、地域との交流を大事にしながら運営されています。
 中島 他県からの来場者も多く、七尾市は“演劇の町”として有名になりつつありますね。仲代さんと地域の人々、そして行政が一体となってつくった新たな伝統が、町を元気にしています。

役者教育は「人間教育」
 中島 「無名塾」には、若い方がたくさんいますね。ご自身の役者としての道を追求されるだけでなく、若い人を育てようとされたきっかけは何でしょうか?
 仲代 42歳の時に「無名塾」を立ち上げたのですが、最初は周囲からずいぶん反対されました。一生懸命に教えるほど“ライバル”に力を与えてしまう。飼い犬に手をかまれるようなものだ、と。
 中島 それでも若手の育成に尽力されたところに、仲代さんの信念を感じます。
 仲代 当時、映画界で成功した人々は、車やヨットを何台も持っているのがステータスでした。しかし、そういう“物”を増やすよりも、お世話になってきた皆さんへの恩返しの思いも込めて、若い人たちを育てた方が良いのではないかと、亡き妻とともに始めたんです。
 中島 人材は、いかなる物にも替え難い宝です。「無名塾」では、どのようなことを教えられているのですか?
 仲代 もちろん、役者としての基礎はアドバイスします。しかし、私たちは“人間”を演じるわけですから、あくまでも「人間教育」が根本です。礼儀作法や時間を守ることなど、人間としての訓練をします。変わったところでは、朝一番の電車で来ることなども義務づけています。
 中島 素晴らしい! 私たちも、池田名誉会長のもと、若き人材の育成に力を注いできました。「創価班」「牙城会」「白蓮グループ」などの青年部の人材育成グループでの訓練を通し、あいさつや振る舞い、スピードある対応などが身についていきます。それが社会生活でも生かされています。
 仲代 まったく同じですね。そのほか、俳優は一人の力ではできないということも教えます。一人の役者が舞台に立っている後ろには、何人もの縁の下の力持ちがいる。そのことへの感謝を忘れてはいけない。それを忘れて、一人で偉くなったつもりでいる俳優は必ず落ちていく、と。
 中島 陰の力を尊ぶことは、人生万般に通じる、大切な哲学ですね。

後輩の成長が挑戦の原動力
 中島 「無名塾」からたくさんの名優が巣立っていきました。多くの役者が仲代さんを師と仰ぎ活躍されていますが、仲代さんにとっての師匠はどのような人だったのですか?
 仲代 劇団「俳優座」時代の先輩である、故・千田是也さんですね。とにかく厳しい人で、何をやっても「ダメだ!」としか言わない。だから何が良いのかを、必死になって考えました。今の自分があるのは、そのおかげです。
 中島 師匠とは厳しいものですね。私たちの人生の師である池田名誉会長が「師匠をもたない人生は、一見、自由自在に見えるが、不幸である。本物の人物は育たない」と語っています。人間の形成において、師匠がいかに大事な存在であるか、この年になってさらに深く実感します。
 仲代 そうですね。「先生」というのは「先に生まれた人」。すぐには分からなくても、10年、20年たってから、師匠の言葉の意味が分かったりする。
 中島 名誉会長もよく“いつか分かる時が来るよ”と言いながら、青年に語ります。
 仲代 私は塾生からも多くを学びます。若い役者が私の背中を見ていると思うと、さらに努力を続ける原動力になるんです。
 中島 若い世代との触発が、仲代さんの力強い演技を生んでいるのですね。特に、仲代さんの「目」と「声」に、ほとばしる情熱を感じます。
 仲代 テレビや映画にはない、生身の人間の輝きを伝えるのが舞台役者の使命です。後ろの方にいる人にも、じっと見つめてもらわなければならないし、声も届けなければならない。そのために、日ごろからの訓練が欠かせません。
 中島 日蓮仏法にも「声仏事(仏の仕事)を為す」という言葉があります。声は仏の仕事をするぐらい重要であると。
 仲代 舞台においても、心情を表し、自身の内面を伝えるのに重要です。何よりも私たちの舞台を通して「人間とは」「自分とは」という、人生の本質の部分を感じてほしい。
 中島 貴重なお話、ありがとうございました。舞台の大成功と、ますますのご活躍を祈っています。

公演情報
 「ジョン・ガブリエルと呼ばれた男」
 期間=明年2月12日(金)〜21日(日)
 場所=東京・世田谷パブリックシアター
 入場料=S席7800円/A席6000円(全席指定)
 問い合わせ先=無名塾
 電話=03(3709)7506(11時〜17時)
プロフィール
 なかだい・たつや 1932年、東京生まれ。俳優として数々の舞台に立ち、日本を代表する映画やテレビドラマにも多数出演。文化功労者、芸術選奨文部大臣賞、毎日芸術賞など数々の受賞を。75年から俳優を育成する「無名塾」を主宰し後進の育成に努める。

 なかじま・きくお 1947年、石川生まれ。副会長。青年部時代は青年部音楽局長、副青年部長等を歴任。総茨城長、副関東長を経て、現在関東長。相手の心を思いやる温厚な人柄と幹部率先の行動に地域からも厚い信頼が寄せられる。学会本部勤務。
仲代さん
中島さん
「壁にぶつかって、“無名”になったとしても、ここに戻って初心を思い出してほしい」――思いを語る仲代さん(左)と、中島さんの心が響きあう(東京・世田谷の「無名塾」で)
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