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続・児童虐待

柳美里

私は、とても動揺しました。私が殺したんではないんですけど、私が殺したような気がしたんです。夢と現実が?がってしまったというか、私が夢の中で父親を殺したことによって、二羽の小鳥が巻き添えを食ったというか……とにかく、私のせいで鳥が死んだ、と思ったんです。今思うと、ちょっと異常というか、非常識の範疇にはいる行為だったと思うんですけど、とにかく、鳥籠を目にするのも、見えないところに隠すのも、ゴミとして棄てるのも堪えられなかったので、鳥籠とか餌入れとか止まり木とかブランコとか全部きれいに洗って、タオルで拭いて、自転車の前籠に載せて、大きくて載らなかったから片手で押さえながら、文鳥の雛を買ったペットショップに返しに行ったんですよ。「すみません、死んじゃって、籠を見ると、思い出して悲しくなるし、棄てるのも悲しいから、使っていただけますか?」って店の主人に手渡して、「鳥は、犬猫と違って、難しいからね」と同情してもらったんですが、轢き逃げをした車を中古車屋に売るような心境だったと言えば、解っていただけるでしょうか?

長谷川 夢の中での父親の死と、現実の鳥の死が関係あると思いますか?

 私は、因果関係がある、と思ったんです。

長谷川 普通だったら、朝、鳥の声がするのに、しない。鳥の声は、寝ていても聴覚刺激としてはいってきますよね。鳥の声がしない、ということが、夢の中に取り入れられた。文鳥を死なせてしまったという罪悪感が、夢の中で父親を殺させた、というような因果関係?

 いや、違いますね。窓を開けないと、鳥の声は聞こえませんから。

長谷川 で、その夢で、父親を殺したその方法は、今までと違っていたわけですか?

 ええ。腹を何度も何度も、手に弾みがついて止められなくなるほど刺しまくって、内臓がもうなんていうんでしょうか、血といっしょに溢れて、アメーバみたいになって畳の下にはいり込んで、自分の体に押し寄せてくるって感じですかね。

長谷川 興味深いですね、そういう夢は、初めてですか?

 初めてです。

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COURRiER Japon
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    柳美里柳美里
    (ゆう・みり)
    1968年生まれ、神奈川県出身。劇作家、小説家。1993年に『魚の祭』で岸田戯曲賞を、1997年には『家族シネマ』(講談社)で芥川賞をそれぞれ受賞。『ゴールドラッシュ』(新潮社)、『命』(小学館)、『柳美里不幸全記録』(新潮社)など、小説、エッセイ、戯曲の作品多数。

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