長谷川 すごく意味深いものを暗示しているとは思うんですけどね、もちろんそれは夢か幻で、物理的に存在しているわけではないので、はっきりしないとは思うんですが。
柳 記憶の中に、ああいう配置というか、体験があるはずだということですか?
長谷川 事実としての配置体験ではなくて、心理的な体験です。そういう光景を作り出した、場面を作り出したのは、柳さんの心なんですよね。心の奥から、そういう体験をしなさいという指示が出たんでしょう。だから夢幻であっても、その体験を探るということは、闇に葬られながらも闇の中で生きている柳さん自身の心を知る手掛かりになるんです。
別の質問をしましょう。その男性を、柳さんはどう思いましたか。
柳 何しかの思いを抱く余地もなく、訴えていたんです。なんで自分が五ヵ月で死ななきゃいけないのかって。でも、訴えることができるってことは、恐ろしい存在ではなかったということですね。怯えてはいませんでした。必死に訴えていたんです、すがっていたと言ってもいいですね。
長谷川 嫌な感じはしませんでしたか?
柳 ノーという強い感じはないけど、嫌な感じはあるかもしれない……。
長谷川 どんな嫌ですか?
私がすがるように訴える
年老いた男性とは?
柳 一つには、距離的な問題があるかもしれませんね。近過ぎるんですよ、足もととはいえ、ベッドにぴったりくっついて見下ろしてましたからね。もう、あと一歩か二歩下がってもらえれば、嫌じゃなかったかもしれませんね。私は目を覚まして、父か、死神じゃないかと思ったんですけど、怖くない、嫌じゃないってことは……。
長谷川 父か、死神か。柳さんは、どちらだと思います?
柳 う〜ん……でも、あれから二ヵ月、いろんなことを考えたんですけど、私、十年前に伴侶を亡くしてるんですよ。十五歳から三十歳までの十五年間いっしょに暮らした、東由多加というんですけど、癌で亡くして……彼なのかなとも思ったんですけど、彼だったら、もう一度逢いたいと思いつづけてるわけだから、いろんな感情でぐしゃぐしゃになると思うんですよ……。