非常に対照的な職場に在籍した著者の貴重な体験を綴ったエッセー。深くも重くもない、素朴な内容であるが、それだけここに書かれていることが真実らしく響く
カネボウを辞めてキヤノンに入社する経緯が興味深い
カネボウのひどさとキヤノンの素晴らしさ。カネボウの中にも繊維と化粧品とではまた対照的に書かれている
カネボウの持つ文化的な遺産をどうするか心配されている
面白いので一気に読んでしまったけど、それほど多くの気付きはなかったと思う
p4.第二次大戦の前から戦中にかけてのカネボウは、多くの有力企業を合併して一大コンツェルンを形成しており、史上最大の民間企業になっていました
p28.「娘をカネボウに出すんや。分かっとるな」その言葉は有無を言わせない強圧的な、まさに命令でした。覚悟していたかのように母親は我々の方に向き直り、「娘を宜しくお願い申し上げます」と畳に手をついてお辞儀をしました
p44.「慶応閥」が露骨で、私の在職中の5人の社長は全員慶応出身でした。彼らの訓示には福沢諭吉や小泉信三が引用されますが、早稲田を作った大隈重信や同志社の新島襄などは一度も出てきません。慶応「三田会」の理事の選挙シーズンになると、人事部が主導して慶応出の社員の票集めが行われているほどでした
p70.これだけの女性集団に囲まれていれば、「美容部員はどんな男と結婚するのか」が、セールスマン皆の関心事となるのは当然です。統計をとったえわけではありませんが、関係者の話を総合すると、一番多い結婚相手は化粧品のセールスマンです。圧倒的に多数の美容部員に囲まれていますから、これは当然かも知れません
p76.5万円の高級スキンクリームは、消費者にとっては1グラム2000円にもなり金1グラム(約2000円)と等価になります。メーカーにとっては売れると数万円の荒利が得られる勘定です
p106.伊藤淳二元社長のシンボルは、特注の真っ黒なベンツのリムジンとサングラスでした。社内を巡回する時には、役員や女性秘書など多くの取り巻きを従え、辺りを睥睨するような立ち居振る舞いでした
p118.東京地検の特捜部から書類送検された後、週刊誌が帆足氏の悪行をスキャンダルとしてあばきたてました。一通り目を通しましたが、私には到底、帆足氏の行状とは信じられないようなことが書いてありました
p130.中途入社者は恐らく、キヤノン全体で30〜40%になると思います。新規事業がらみで入社するケースが圧倒的に多いようで、こうした人材がこれまでの会社の反映を支えてきたのです
p148.キヤノンには、社員を家族のように考え、大切にする社風があります。日本初の完全週休2日制を導入したのもキヤノンですし、現在でもリストラを行ったりはしません、以前には毎月、誕生日を迎えた社員とその家族を会社に迎えてお誕生会をやっていました。その時に歌う「お誕生会の歌」まであります
p155.もちろん、残業時間も退社時刻がチェックされているので、いい加減な時間を申告できないわけです。「メーカーは時間管理が生命線である」ことをいつも社員に言い聞かせているわけで、キヤノンが製造指向であるということはここにも如実に表れています
p165.キヤノンの社員食堂では、うどんよりもそばに人気があるそうです。どうやら「そばの方がうどんよりコストが高いことを知っているので、同じ値段ならそばのほうを食べる」ということのようです
p165.キヤノンの社員は特別な予定がない限り、2分の2拍子の音楽のように「会社、自宅、会社、自宅」という生活を規則正しく繰り返しています
p169.役員はほとんどが朝7時には下丸子の本社に来ています。7時台に残務を片付け、出張のない限り毎日8時から朝会に出席します。懐疑は、お茶を飲みながら、その時に旬の話題をフリートークするので、資料の準備などは不要ですし、何か結論を出さねばならないこともありません。重要なことだけでなく、取るに足らないことでも。毎日顔を合わせて意見交換していると相手の考え方や性格が分かってきて、自然にコミュニケーションがとれるようになるようです
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