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ガバナンス・国を動かす:第1部・政と官/3(その1) 日医退けた「病院族」

 ◇審議会崩しを官僚警戒

 「密会」の場所は、東京都文京区のJR御茶ノ水駅に近い日本救急医学会の事務所が主に指定された。昨年11月初めから月末まで計5回、厚生労働省の足立信也政務官(52)は通称「検討チーム」の医師6人と人目を避けて会合を重ねた。

 チームは、診療報酬のあり方を議論するため、足立氏の肝いりで作られた。医師不足が深刻な周産期医療の再生策を提言している海野信也・北里大教授ら大学病院系の医師が中心だ。6人は足立氏の非公式アドバイザーとして、診療報酬の改定に深く関与した。

 診療報酬の配分を決める正式な機関は「中央社会保険医療協議会」(中医協)だ。健康保険組合など支払い側と医師ら診療側、学者ら公益委員をメンバーとする審議会だが、複雑な利害調整は厚生官僚が担ってきた。

 医師で元筑波大助教授の足立氏は、長妻昭厚労相と連携しながら、中医協主導の配分方式を見直したかった。ひそかに検討チームとの会合を重ねたのは、動きを知られたくなかったからだ。

 足立氏らの最終目標は、診療報酬の配分を医師不足の病院に手厚くすることだった。そのためには開業医の利益を代表し、自民党厚労族と結びついている日本医師会(日医)を、中医協メンバーから排除する必要があった。

 ただ、中医協の新メンバーはすんなりとは決まらなかった。

 「長妻さん、本当にしっかりしてほしいところです」。昨年10月12日夜、足立氏や仙谷由人行政刷新担当相に後任選びを催促する携帯メールが送られた。送り主は、東京大医科学研究所の上(かみ)昌広特任准教授。長妻厚労相が日医の排除をためらっているのではないか、との危機感がにじみ出ていた。

 上氏は全国の勤務医と幅広いネットワークを持ち、足立氏らと医療改革に取り組むグループを作っている。日医に代わる中医協人事についても相談を受けてきた。

 10月26日、長妻氏は足立氏らの意向に沿って、日医の代表3人全員を排除する人事を発表した。

 「病院族」。厚労省内には、検討チームのメンバーや上氏らをこう呼ぶ官僚がいる。自民党の族議員や日医に代わり、自分たちの知らないところで政策に影響力を及ぼしつつあることに対する官僚の警戒感がそこに表れている。

 10年度の診療報酬は昨年12月23日、プラス0・19%と10年ぶりの引き上げで決着した。予算案には「急性期入院医療におおむね4000億円程度を配分」と異例のただし書きがあった。中医協で決まるはずの配分を、先取りしたものだ。これにより救急患者を受け入れた病院の報酬が手厚くなる。病院族の勝利だった。

 「彼らはこんなに世の中を動かせるんだと分かってしまったから、今は楽しいだろう。ただ下手をすると、火遊びになる」。厚労省の幹部官僚はいまいましそうに語った。

毎日新聞 2010年1月4日 東京朝刊

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