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新年を迎えた鳩山政権に向けられる視線は、厳しさを増している。当初の期待感は色あせ、いつまで持つのかといぶかる声さえ聞かれる。
鳩山由紀夫首相はきのうの記者会見で、100年に一度の大改革を始める、正念場の1年だと言った。だが予算編成は乗り切ったものの、指導力に疑問符がつき、内閣支持率は低下している。夏には参院選を迎える。
首相は「政治主導を始動させることはできたが、一歩も二歩も先に進めたい」と語ったが、この認識は甘くないか。確かに予算づくりでは自民党政権時代のような官僚依存を排したものの、内閣の方針はなかなか決まらず、小沢一郎民主党幹事長の腕力でなんとかしのいだ格好だった。
政権交代から日が浅く、態勢づくりが追いつかなかった面はあったろう。年明けからはもう言い訳はきかない。民主党政権の大看板である政治主導を、名実ともに実現することが迫られているのだ。
政権交代に託された民意は変革である。これまでの政策を作ってきた当事者であり、前例踏襲に陥りがちな官僚依存を政治主導に切り替えるのは、民意に応えるためにも大切だ。また責任の明確化、透明化のためにも首相を中心とする政権中枢、つまり首相官邸による主導を実現する必要がある。
菅直人副総理兼国家戦略相が内閣としての政策調整を担い、平野博文官房長官が国会との連絡など黒衣役を担当するのが当初の設計だった。しかし、実際は平野氏が政策調整の前面に立ち、菅氏の影は薄かった。本格的に動き出したのは年末になってからだ。役割分担と連携が欠け、司令塔が不明確になっていた。
人間関係は難しいが、この態勢をまず立て直すことだ。政府は18日召集予定の通常国会に、国家戦略室を局に格上げし、権限を付与する法案を提出する。各省の政治家スタッフの増員と併せ、法律整備を急ぐ必要がある。首相の決断を支える「チーム鳩山」を機能させねばならない。
戦略局では、政権の目標と政策の優先順位を明確にすることに力を注ぐべきだ。「コンクリートから人へ」を掲げ、新年度予算案で公共事業を削り、社会保障や子育て支援への配分を増やしたのは高く評価する。ただ事業仕分けを通じた無駄の削減だけでは7千億円しかまかなえず、翌年度以降の財源のめどは立たないままだ。
戦略局での検討をもとに公約を吟味し、優先順位の高いものはその財源を明示し、不可能なものは修正して、実現可能性の高い「進化した政権公約」を掲げ、参院選に臨むべきだろう。
政権の正念場は政治主導の態勢をつくり、それを動かし、国民に新しい政治の姿を見せられるかどうかにある。
パイの分配には熱心だが、増やすための成長戦略がない――。経済界や野党からそう批判されてきた鳩山政権は「新成長戦略」の基本方針を打ち出したが、それが答えになるかどうか。実現へ、大胆に肉付けする力量が問われようとしている。
「輝きのある日本へ」と副題をつけたこの戦略の目標は、10年後の2020年だ。それまでに環境エネルギーや医療介護、観光という高成長が期待できる3分野に集中的に投資して100兆円の需要をつくる。500万人近い新規雇用を生み出し失業率を3%台に下げる。デフレを完全に解消し、国内総生産(GDP)を平均で名目3%、実質2%成長させる。
最近の日本経済の停滞ぶりからすれば、いずれも高い数値目標である。
それでも日本は科学技術に優れ、長寿大国や省エネ先進国として世界から高い評価を受ける国だ。持てる力を生かし切れば、決して不可能な目標ではないだろう。
とはいえ、戦略の方向性や政策項目に新味はない。実は同様の成長戦略は歴代の自公政権でも作られていた。にもかかわらず未達成であることについて、菅直人副総理兼国家戦略相は「政治的なリーダーシップが不足していたから」と指摘する。
目標実現に必要な政策を、さまざまな政治的困難に打ち勝ってやり遂げられるか。省庁の縦割りや既得権益を排して指導力を発揮できるか。カギはそこにある、というのだ。それはそのまま、鳩山由紀夫首相と官邸に突きつけられた課題にほかならない。
残念なのは、その覚悟が、基本方針からは伝わってこないことだ。むしろ、政治的に調整が難しい問題を棚上げしているように見える。
たとえば、政権公約にも盛り込んでいる「日米自由貿易協定」。鳩山首相自身が国際舞台で訴えている「東アジア共同体」に向けたアジア域内の自由貿易圏づくり。それらの通商戦略を進めるカギになる農産物の輸入自由化。難題ではあるが、こうした重要課題への取り組みがない。
人口減少で国内市場が縮小する日本が成長を続けるには「アジア内需」を取り込むことが欠かせない。そのことは新成長戦略も指摘してはいるが、実現への手立てを描ききれず尻込みしているように見える。
政府は6月にも発表する新成長戦略の工程表で、デフレ脱却と成長実現の絵を大きなスケールで描いてほしい。
そこでは、民間の消費と投資を引き出すための政策はもちろん、それを支える財政と税制の中長期戦略を示す必要もある。
それらがなければ、この成長戦略も自公政権下にできたものと同様、絵に描いた餅に終わるしかあるまい。