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2009.03.09

ロジャースとグロリア、そして娘のパミー

みなさま、サヴァ? 美人秘書です。
このブログでも2回取り上げたビデオ「グロリアと3人のセラピスト」ですが、あのセッションのあと、グロリアに何が起こったのか、彼女のカウンセリングの影響、彼女を取り巻く環境、そしてその後の人生についての「真実」にふれる機会に恵まれたので、取り急ぎ、紹介しますわ。

セッションの中で、グロリアがお嬢さんとの関係について語っている部分、みなさま、覚えておいでかしら。
昨年7月、イギリスで開かれた、ロジャース派の学会に、グロリアの娘、パミー(パメラ)さんがスピーカーとして参加し、「あのフィルムを通してのみ母のことを語る人たちのことが許せなかった。自分や家族も好奇の目や中傷に晒された」と体験を語りました。2004年には「グロリアと3人のセラピスト」の見直しと再評価を行なう「グロリア・プロジェクト」が発足。パミーさんは去年7月、著書『Living with 'The Gloria Films'』(グロリア・フィルムと生きて)を出版しました。ちなみに「グロリアと3人のセラピスト」は現在、アメリカでは上映禁止になっています。

この学会に参加した末武康弘教授(法政大)が、昨日(3/8)行なわれた朝日カウンセリング研究会設立30周年記念シンポジウムで、パミーさんの講演について報告してくださいました。その資料を取り急ぎアップします。

シンポジウム「ロジャーズとグロリアの出会い〜臨床の現場ではいま…」資料(10ページ)
内容:学会誌に掲載されたグロリアのコメント/パメラの著書からの抜粋/グロリア、ロジャースへの最後の手紙/グロリア亡き後のロジャースのコメント/グロリア関連年表
ウェッブ上のフォトアルバムを利用しています。ファイルはjpg形式です。

■youtubeで観られる「グロリアと3人のセラピスト」紹介エントリー
カール、見ぃつけたっ!
『グロリアと3人のセラピスト』をyoutubeで

資料を読んだあとだと、グロリア、ロジャース、パールズへの印象が変わると思いますわ。もし、希望者がいれば「グロリアと3人のセラピスト」鑑賞勉強会でもやろうかしら?
アタクシの雑感と議論の参考になる資料・リンクは「続きを読む」で。

■シンポジウムでアタクシが注目した発言と、おもにアタクシのための参考リンクと資料※あなたにとって参考になるとは限りません。
・前述「現在、アメリカでは上映禁止になっています」について。「教育現場でのみ使用」と勝手に理解していたが、アメリカでのカウンセリング普及の過程で、不特定多数に対して劇場で「上映されていた」ばかりでなく、テレビ放映もされた。グロリアとのコントラクトはなかった。ビデオ撮影はたった一日で行なわれ、ビデオを撮影されることに対しての事前の説明も契約もなかった。またグロリア本人は、悩みを抱えていたものの、カウンセリングを必要としていなかった。しかし、包み隠さず、自分のことを語った。後日、グロリアには体験談を求める依頼が殺到する。

・企画者ショストロムに対して、グロリアらは訴訟を起こした。これによって上映には配慮が必要になった。また、グロリア自身、自叙伝を書く準備をしていた。しかし、1979年に病気で(交通事故でも自殺でもなく)死去した。パミーがその遺志を継いだ。

・そこから大きく分けて2つの不幸が起きた。
1. カウンセラー、セラピスト: グロリアに「人格障害、神経症、依存症」などの部分を探し、症状を当てはめていった。
2. 一般大衆: 1を元に、「自殺、交通事故、セックス依存、レズビアン」など事実と異なる噂と誹謗・中傷を拡大させていった。
中傷はパミー(グロリアの子ども)、さらにパミーの二人の娘(グロリアの孫)にまで及ぶ。
・ロジャースとのセッションが見直される動き。従来、多くの人が「違和感」を感じていたロジャースの発言「私には、あなたはとてもよい娘のように思えますよ」の意味とは?
 →光元和憲氏は著書『内省心理療法入門』でロジャースを批判している。クライエントにセラピストを誘惑させ、その結果、見捨てられたとの感を抱かせた。重篤なケースではクライエントを自殺に追い込む危険性を指摘している。本書でも「グロリアは自殺」したことにされている。ただ、これは、光元氏が偏見を持ったわけでなく、あたかも事実として事実でない情報が伝わった結果による。
 →現在も、たとえば、このような疑問視がカウンセリング学習の現場で取りあげられている。
 →この発表のあと、違和感が共感に変わった(末武教授)。ロジャースの内的なコンセントレーションによる渾身の見立てだった。
 →逆転移であるとすれば、慈母転移的だったのではないか。

・この面接で、セラピスト(ロジャース)がやろうとしていたことは何か?
 →デモンストレーションでもアセスメントでも自分の理論の整合性を見出すことでもなく、「クライエントによって真実が語られるとき、ここで何かが起こる」その現場。
 →ロジャースはグロリアを"病気"にしなかった。
・パールズへの批判とゲシュタルト療法の変遷: グロリアは面接直後、パールズをいちばん高く評価していた。そのため、パールズの弟子のRobert H. Dolliverらはグロリアにコメントを依頼した。ところが、この中で開かされたのは、パールズの批判と「灰皿にされた」エピソードだった(資料参照)。Dolliverはグロリアのコメントをそのまま、無修正で学会論文に使用。こののち、パールズの手法や人柄を批判に転じ、アプローチに修正を加えている。
→エスリン研究所(「エサレン研究所」の表記のほうがおなじみかも)に集ったセラピストたちからもパールズの人格やスタイルは批判されている。『エスリンとアメリカの覚醒—人間の可能性への挑戦』(amazonへのリンクは参考のため。定価は3999円。こんなバカみたいな値段じゃなく、他のオンライン書店で適正価格で購入できる)には、彼が扱いにくい人物だったエピソードが紹介されている。




■美人秘書の雑感※好奇心から読まれることは止めませんが、おそらく時間の無駄になるだけです。
・日精研の会長もパネリストの一人。ちなみに「グロリアと3人のセラピスト」は現在も売り上げが持続する同社のロングセラー。その制作時、全国展開できる商材を探していて「出会いへの道〜Journey into Self」を出したら当たったので、気をよくしてグロリアも「面白そうって軽いノリで」だそうだ。youtubeを紹介する手前、居心地が悪かったが、まあ、別にいいか。

・グロリアに対して「勇気あるなあ」という感想は半減。これって、グロリアがだまし討ちに遭ったようなものじゃない? で、よく深く考えると、ロジャースもその片棒を担いだってわけだよね? ただ、グロリアに対して、ある意味、生涯とおして関わった責任を果たしたのは、3人のセラピスト+ショストロム(グロリアの最初のカウンセラー/企画者)のうち、ロジャース一人だった。

・グロリア問題そのものが、巨大な統合のプロセスのように思う。悪の行為=ビデオ企画vsメリット=今や世界規模のカウンセリング技術養成素材、組織(企業など)=ビジネスvs個(グロリアの家族)=プライベート。これをどう統合させていくのか? 今後に関心。

・たいへん稚拙な表現をさせていただくと「してやったり」だった。やはり、「"気づき"は"傷つき"」だということ。
たとえどんなに「未完の行為-怒り」に焦点を当てることが重要だとしても、セッションでそれを「煽る」ことは、ときに、そのデメリット(副作用)がメリット(作用)を上回りうる。その影響は、受ける側・行なう側双方の個人に、さらにその関係性にも及びうる。そのことを、心的援助を行なう、サービスを提供する側はよく踏まえている必要がある。
以前、わたしが体験したこれに近いことで、長く陰性感情を引きずることになった「妄想かもしれない」という不安、あるいはこういう想念が発生する原因が「歪んだ信念があるからだ」という自己批判を、すんなりと自己受容に変えることができた。だから「してやったり」。
とはいえ、「してやったり」と表現することについては、「歪んだ信念」があることは否定しない。

・まあ、もっとハッキリ言えば、「パールズ、イヤなジジィ」。そう思たのは、わたしだけではないらしい。

・ユージン・ジェンドリンの『プロセスモデル』難しそう。とりあえず「モナド=真実が語られるスペース(それをつくること)、そこから何かが起こる」を覚えておこう。感想を述べてた大学の先生がふれていた「実と虚の問題」が気になる。

・「グロリアと3人のセラピスト」において、エリスは扱いが軽いか取り沙汰されないか、あるいは無視されている。このシンポでもとうとう最後までその名前が出ることはなかった。

・かなりどうでもいいことだが「ロジャー"ズ"」って言うのも書くのもなんか抵抗がある(表記はこっちが正しいらしいが)。

まあ、こんなところで。それではまた
ぼんじょるねー♪

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