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きょうの社説 2010年1月5日
◎温室ガス25%削減 目標引き下げ成長戦略の柱に
2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比25%削減するとした政府の目
標は、産業界への負担が極めて重く排出量取引にばく大な費用がかかる。気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の協定の付属書に記載する目標提出期限が今月末に迫るなか、削減目標を思い切って引き下げ、現実的な数字を示すべきだ。排出量取引にかかる費用を、成長分野の「環境ビジネス」に重点的に振り向け、デフレ不況を乗り切る成長戦略の柱に位置付けたい。政府はこれまで、国内の家庭や企業による省エネで温室効果ガスの排出を抑制し、それ に海外との排出量取引などを組み合わせれば、25%削減は可能としてきた。しかしすべての主要国に同等な努力を求めるという前提条件が付いている上に、削減全体に占める国内抑制と排出量取引の割合を含め、達成への具体的な数値目標が示されておらず、最後の最後は取引頼みという安易さが見え隠れする。COP15で出された各国の削減目標と比べても、突出した目標設定との印象はぬぐえず、達成は極めて困難との見方が出ている。 そうした中で現実的な削減目標の指標として参考になる数字を、国際エネルギー機関( IEA)が昨秋に報告書で提示している。世界に先駆けて、企業がエネルギー効率の向上に取り組んでいる日本では、今後打ち出せる対策は乾いたぞうきんを絞るように限定的であることから、国内の削減目標値は10%程度で十分と試算しているのである。IEAは25%の削減目標を評価しながらも、国内で10%を削減した残りは、技術移転などによって世界各国の削減に貢献すべきだとしている。 実際、国内で排出抑制の厳しい負荷が課せられれば、企業の生産拠点の海外移転が加速 すると危ぐする向きもあり、最後の手段である海外との排出量取引には、5年間に2兆〜4兆円という資金が必要―との試算もある。 政府は昨年末、2020年までの「成長戦略」の基本方針を決定し、環境分野で140 万人の雇用創出目標を掲げたが、そのためにも国内での実現可能な削減の目標値をきっちり提示した上で、排出量取引にかかる費用を、途上国の技術支援とともに、日本のお家芸である電気自動車、太陽光発電、リチウムイオン電池といった先端技術の活性化を刺激する政策に、集中的に投入してもらいたい。 先進国経済のこれからの成長をけん引するのは、エコ製品の開発・普及をおいて他には 見当たらない。著書「グリーン資本主義」の中で、こう強調する佐和隆光立命館大教授は、今世紀の技術革新は、20世紀型の「より速く」「より強く」「より大きく」「より高く」でなく、「低燃費」「低炭素化」「廃棄物最小化」「再生可能」をめざすようになると指摘する。 石油の世紀だった20世紀の終わりを象徴するように、先見の明のある石油会社は、全 国のガソリンスタンド網を利用した水素、バイオ燃料、天然ガスの販売や、電気自動車の高速充電の場を提供する総合エネルギー会社に変身し、「21世紀の花形産業になる」とも予測している。 産業界も、世界が新しい産業構造に移行する過渡期であることを認識し、環境か、経済 かといった二者択一的になりがちな思考回路を転換することが求められよう。 翻って、自然豊かな北陸を見れば、珠洲市が太陽光発電、バイオマス、風力発電など新 エネルギー導入の先進地として「新エネ百選」に選ばれたように、自然を生かして環境ビジネスに参入する頼もしい兆しがあちこちに起きている。 富山市では、市内中心部で始まった路面電車の環状線化をはじめ家庭への太陽光発電導 入に手厚く支援し、今年3月には全国初の自転車市民共同利用システムをスタートさせるなど、環境モデル都市として発信する動きが活発だ。 「環境」を生かすことは、地方であっても、地の利を生かしたビジネスチャンスや特色 ある地域づくりにつながる。それだけに、国は、環境をキーワードにした地方への多方面での支援も拡充してほしい。「25%削減」の呪縛にとらわれていては、環境の世紀を切り開くことはできない。
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