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年賀放棄

1月3日(日)

 彼女曰く、ボクの母は変わっているという。

 元日。実家のポストを開けると年賀状が届いていた。

 「たくさん届いてるよ〜!」と両親の前に持っていくと、母はなんだか不機嫌そうにしている。

 「まったく…またこんなによこしてきて…」

 母はダンスと体操の先生をやっている。生徒は主に中高年の主婦。その人たちを始め、知人から毎年山のように年賀状が届くのだ。

 「あ〜、またコイツから来てる。しつこいのよね。コイツも、あ、このバカからも…。無視よ、無視」

 うんざりといった表情で、送ってくれた人をバカ呼ばわりである。

 父はといえば部屋の隅で届いた年賀状を一枚一枚数えている。

 「おい、なんでオレより、毎年一枚も出さないお前の方が多いんだ!」悔しそうにしている。

 「なにが『こんどマージャンでもしましょう』よ。この人、昔からキライなんだってのに、ホント鈍いわね〜!」手をヒラヒラさせる母。

 「でも、来たんだから返しなさい。礼儀だろ」と父。

 「じゃあ、あなたがパソコンで作って返しといて!」

 ハガキの束をポンと投げる。作成放棄である。

 目の前のやりとりに彼女はあっけにとられている。「あなたが人をナメてるとこって、明らかにお母さんの血ね…」

 「ボクがここから高円寺に戻るとき、いつもお菓子をたくさん持ってくるじゃない?あれって母ちゃんが生徒から毎回プレゼントされてるものなんだ。でもいらないからってボクがもらってるの…」

 お菓子はみな高級。百貨店の包装紙に包んであったり、有名なブランド店のものだったりする。

 思い出した母が再びイヤそうな顔をした。

 「ああ、アレね。私、お菓子好きじゃないって口を酸っぱくして言ってるのにくれるのよね。後でどうでしたかって聞かれるんだけど、さすがに面と向かっていらないとは言えないでしょ?そうすると調子に乗ってまた持ってきて…」

 彼女が生徒の肩を持つ。「え〜、いい人じゃないですか!この間の和菓子の詰め合わせ、5000円くらいしそうですよ!」

 「そうそう、生徒はみんなバーサンだからお菓子も年寄り臭いのよ。それに、私が草加に住んでるのを知ってるはずなのに毎回草加せんべいをくれる人がいるのよ。あの人たち、人の気持ちを察することができないのよね…」

 お前だよ!

 彼女と二人でツッコミを入れていると、父が「ホラ、コーヒー淹れたから飲もう」とカップを持ってきた。

 香り高いブルーマウンテン。100グラム2000円はする高級豆だ。注文してから豆の焙煎をする店のもので、部屋中にホンワリとした香気がただよう。

 「あ〜、染みる〜、おいしい〜!」目を細める母。

 ちなみにこれも、生徒からのもらいものである。

 「ケン、このコーヒーは持ってっちゃダメだからね!」

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