精神科診療 Q&A



女性アルコール症と女性断酒会
[目  次]

  1. 女性アルコール症の悲哀
  2. 女性アルコール症の増加
  3. 女性アルコール症者の特徴
  4. 現代女性の精神的葛藤
  5. サルビア会(女性断酒会)の誕生
  6. 女性アルコール症に関心を
  7. 女性のア症のタイプ


女性アルコール症の増加
太田耕平著:幼児から高齢者までの心の発達 十段階心理療法 第7版
〜自信の回復と幸せな人生のために〜、207、1998

 年、女性アルコール症(以下ア症)が増えています。男性ア症に比べ、まだ数は少ないが確実に増えています。当院では、戦後初の男性ア症は昭和24年に2例経験し、その後急増し昭和57年度1年間で新、再入院合わせて250名の男性ア症を経験しました。 女性ア症は男性ア症に22年遅れて昭和46年に初の2例が入院しました。その後急増し、昭和56、57年では各13例、14例を経験し、この12年間で65例の女性ア症を経験しました。男女比は、昭和56年までは15:1でしたが昭和57年では13:1と女性の比率は高まりました。昭和60年では当院の経験では9:1と女性の比率がさらに高まりました。




女性アルコール症者の特徴
太田耕平著:幼児から高齢者までの心の発達 十段階心理療法第7版
〜自信の回復と幸せな人生のために〜、207〜208、1998

 酒開始年齢は男に比べて遅く、男に比べ短期間で発症する傾向があり、発見および医療機関への受診も比較的早いようです。
 大量飲酒の契機がはっきりとしていることが多い。失恋、同棲生活の破たん、離婚、夫の死亡、家庭生活や夫婦生活の不満、生理前のイライラ感、出産や育児に関する不安、姑との葛藤、夫の女性関係、夫の酒乱や乱暴、更年期の抑うつ気分、などが契機となっている。
 結婚生活については、内縁関係、離別、死別など不遇なものが6割を超える。夫のいる者でも、夫の酒乱、大酒、女性関係などに悩み、夫婦関係の不安定なものが多い。
 生育期環境では15歳以前に父又は母と死別、離別又は養子に出された者が36%を占め、さらに父(母)がア症又は酒乱の者が34%もありました。安定した親子関係を経験していないものが多かったようです。
 教育歴中卒程度が63%高卒程度37%と一般的に低い。


現代女性の精神的葛藤
太田耕平著:幼児から高齢者までの心の発達 十段階心理療法第7版
〜自信の回復と幸せな人生のために〜、208〜209、1998

 年、我が国でも女性は、男女平等思想の普及、核家族化、姑からの解放、家事労働の軽減、出産数の減少、育児労働の減少、女性の社会進出、共稼ぎの増加、などに見られるように、過去のどんな時代よりも、人間関係でも、時間的、経済的にも著しく自由になってきています。女性をとりまく環境は大変に恵まれてきているなかで、なぜ女性ア症が増加するのでしょうか?
 先に挙げたいくつかの環境の変化は、半面、家庭機能を弱め、親子や夫婦間のきずなを弱め、離婚率の増加を招いていることも事実です。この家庭機能の崩壊傾向が進む中で、従来、家庭の中でのみ安定し、生きがいをもって生きてきた伝統的な“良妻賢母”であるだけでは精神的に充足されない時代となってきています。家庭の中で疎外感と生きがいの喪失をきたし、抑うつ的となりやすいのです。
 一方、社会進出している女性達は、仕事上の競争社会にまき込まれ、さらに家庭との両立で新たな葛藤に陥りやすい。女性は、男女平等、経済的自立、余暇などをかち得て自由を謳歌しつつある半面、男性と共に競争社会に投げ出され、従来の保護されていた家庭内の安定した立場を失いつつあります。妻の権利意識の目覚めと、妻の経済力の向上は、ややもすると従来の伝統的な夫の立場を弱め、夫婦間に無意識の競争心をまき起こし、夫婦関係をもろいものとしつつあります。まさしく、女性の生き方の混乱時代であり、多くの女性ア症者に、このような女性としての自己同一視に混乱を認めるのです。