セッション一覧 - シンポジウム -

S06 神経因性疼痛をめぐるアップデイト 6月1日(木)14:40〜17:10 第2会場

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[S06-01]
Symposium:Neuropahic pain-update

小川節郎1 ( 駿河台日本大学病院麻酔科1)

 神経因性疼痛は現在でも最も治療に難渋する疼痛性疾患である。本シンポジウムではこの病態に関する臨床面での最新の情報を提供していただきデイスカッションすることを目的として企画した。その概要は以下の通りである。
1)脳神経外科的治療
2)生体内再生治療
3)本邦におけるCRPS の診断基準作成の状況
4)現在の薬物療法について
 脳神経外科的治療ではその適応と効果についての現況のほか、神経因性疼痛の発生機序との関係についても興味ある情報が提供される。
 CRPStype-II に対するPGA-collagen tube を用いた生体内神経再生治療が注目を浴びている。その有効率の高さも驚異的であるが、手術中の肉眼的、電気生理的また組織的検討からもこの病態の発生機序に迫る興味ある報告がなされている。
 CRPSの本邦における診断基準を作成しようと、大阪大学を中心とした全国23施設によるCRPS研究会が立ち上がっている。文部科学省の科学研究費の財源として1)本邦におけるCRPSの特徴的所見、2)タイプ分けの必要性、3)罹病期間によるstagingの問題、4)診断に必要な検査は何か、について検討が行われている。皆様の意見も拝聴できれば幸いである。
 薬物療法は最もよく用いられる治療法である。本症に対する第1選択薬は何か、またその効果はどうかについて、薬物の効果判定に最近注目を浴びているNNT(numbers needed to treat)やNNH(numbers needed to harm)などの概念から考えてみたい。
 各シンポジストのご発表前に、司会として神経因性疼痛の診断と治療面の概況を述べる予定である。

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[S06-02]
神経因性疼痛の機序・アップデイト

住谷昌彦1宮内哲2柴田政彦1阪上学1井上隆弥1真下節1 ( 大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学麻酔集中治療医学講座1独立行政法人情報通信研究機構関西先端研究センター脳情報グループ2)

1980年代にラット神経結紮モデルが考案されて以来、神経因性疼痛の研究は動物実験が中心的な役割を占めてきた。その結果、末梢神経・脊髄での形態学的、電気生理学的、薬理行動学的研究が進みその病態はかなり明らかになってきている。しかしながら、動物では急性の痛みは逃避行動で評価することが可能であるが、意思疎通を図れないので持続性の慢性疼痛を評価することはできなかった。90年代に入り、神経因性疼痛患者を対象にした脳機能画像研究や心理物理学的手法を用いた脳研究が盛んに行われ、末梢神経障害によっても中枢神経レベルでの機能異常が起こっていることが示されてきている。特に本シンポジウムでは、神経因性疼痛(幻肢痛、腕神経叢引き抜き損傷後疼痛、complex regional pain syndrome)患者の中枢神経機能異常として、患肢の認知が低下していることや我々の研究である空間認知(視覚を介した外的空間認知、数列表象を利用した内的空間認知)の異常を中心に述べ、これらから中枢神経機能異常と神経因性疼痛の関係を示し、知覚-運動協応(身体イメージ)の破綻によって病的痛みが発症するという最近の仮説を紹介する。
この他、1994年に提唱されたCRPSの診断基準は感度が高いが特異度が非常に低いという問題点があった。そこで、アメリカでCRPSの感度・特異度を効率よく引き上げる研究がなされ、その研究を元に2005年にIASPの診断基準が改訂された。本邦でも、アメリカと同様のプロトコールでCRPSの診断精度向上(本邦におけるCRPS診断基準作成)の試みを行っており、これも一部紹介する。

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[S06-03]
脳神経外科からみた神経因性疼痛とその治療・アップデイト

Neuropathic pain and its treatment from the view of neurosurgery: Update

平孝臣1 ( 東京女子医科大学脳神経外科学講座1)

神経因性疼痛は神経系の障害の結果として生じる中枢での痛覚機構の機能的異常によるものであり、臨床的には機能的慢性神経疾患として考える必要がある。薬物治療でも外科的治療でも常に疼痛の異常神経機構のどこにどのように治療操作を加えているのかを念頭に置きながら、経験論的かつ理論的なアプローチが不可欠である。外科的治療に関しては、脊髄後角やそれに隣接する活性グリア組織に対する手術、神経系の電気刺激、髄腔内薬物投与治療に大別できる。また治療方針を決定する場合には、同じような疼痛であってもその解剖学的障害部位によって治療方法が異なる。このことは疼痛の表現型とその背景に存在する疼痛機構の異常の内容が必ずしも一致していないことを示している。したがって神経学的診察、神経生理学的・神経放射線学的手法などを駆使して、神経因性疼痛の原因となっている神経障害の部位や内容を明確にすることが正しい外科的治療の第一歩である。一見過激かつ際物的に見える治療の背景にも、長年の知識や技術の集積とそれに基づいた一連の流れが存在することを認識して、表層的知識や観察のみで判断することは慎まねばならない。神経因性疼痛の治療は非常に困難であり、ある患者を目の前にした場合、最良の治療を古典から最新の知識まで網羅的かつEBM的に調べ上げて、それに対するハードルを克服していく努力を惜しんではならない。本発表では、これらの重要性を実例を挙げながら説明し、従来の外科的治療について概説した上で、最近見出された活性グリアへの手術、末梢電気刺激の役割、髄腔内薬物治療の進歩、CRPSの中枢機構などについて紹介したい。また、慢性神経因性疼痛の臨床において神経学・神経科学の知識や臨床トレーニングと、それに基づいた(外科医が常に心がけていると同様の)治療手技の洗練化が極めて重要であり、今後のペインクリニシャンに課せられた大きな課題であることを強調したい。

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[S06-04]
CRPSに対する生体内神経再生治療

Treatment of complex regional pain syndrome by in situ tissue engineering with a polyglycolic acid- collagen tube

橋爪圭司1 ( 奈良県立医科大学麻酔科学教室1)

 Polyglycolic acid - collagen tube(以下、PGA-C tube)は、京都大学再生医科学研究所臓器再建応用分野の清水、中村らが開発した人工材料である。自家神経移植の代用として、電気生理学的、組織学的な末梢神経再生をもたらすことが証明されている(Brain Res;2000、J Biomed Mater Res;2001、Ann Otol Rhinl Laryngol;2003、Brain Res;2004)。
 稲田病院整形外科の稲田らが、末梢神経欠損に対して、PGA-C tubeを用いた生体内神経再生治療を2002年4月に開始した。その後、Complex Regional Pain Syndrome(以下、CRPS)に臨床応用され、有効性が報告された(第25回日本疼痛学会;2003、Neurosurg;2004、Pain;2005)。後日の腱剥離手術時に、直視下にPGA-C tube架橋部の両端から活動電位が証明された(第26回日本疼痛学会;2004)。
 2003年より奈良医科大学麻酔科では、稲田、中村らによる本治療前・後の患者評価(疼痛、機能、心理要因)や、各種鎮痛法や心理的アプローチなどに関して診療協力を行ってきた。
 IASP1994年criteriaを満たすCRPSは100症例を超えた。発症契機、症状、治療歴が問診され、詳細な知覚、筋力、可動域テストにより罹患神経とその損傷範囲が推定される。日常生活動作や運動機能が記録され、皮膚温の評価(Thermography、Laser Dopplar Perfusion Imager:LDPI)、電気生理学的検査(Compound Nerve Action Potential:CNAP)、電流知覚閾値(Current Perception Threshold:CPT)、血管造影などが行われる。現時点では、80mmを超える神経欠損や、再建不能なほど高度な軟部組織の瘢痕例は適応外である。
 詳細なInformed Consentの後、全身麻酔下に施行される。罹患部を広く展開し、充分な神経剥離の後、直視下に電気生理学検査を行う。活動電位が導出されないことを証明して神経損傷部(神経腫)を同定し、切除する。断端を新鮮化し、PGA-C tubeにより架橋する。活動電位が得られた場合は、神経剥離と周辺血行再建にとどめる。
 術直後は、神経腫切除により劇的に疼痛、allodyniaが改善するが、その後、知覚テスト、CPTが正常化し、活動電位が導出されるまでの数〜十数ヶ月にわたり、術前と異なる様々な痛みが出現する。この不安定な時期の疼痛コントロールが、目下の最大の臨床的課題であり、精神的要因を抱えた症例ではとくに難渋する。
 横断的解析は未発表であるので、現時点で注目すべき知見を述べる。1.罹患神経の多くは強い瘢痕・癒着内にあり、これを剥離すると血流の改善が観察される、すなわちCRPSの罹患神経の多くは虚血状態にある。2.既往手術の金属ビスと神経の接触や、屈筋腱のみに選択的に癒着する神経や、手掌動脈弓の欠損など、手術展開してはじめて判明する個々の局所所見が散見される。3.術中の直視下電気生理学検査の所見は、神経の外見と一致しない、すなわち外見上正常でも、通電性が損なわれている神経がある。4. 罹患神経周囲の皮下、腱、筋、関節などへ病的な神経発芽がみられ、その分布がしばしば術前のallodyniaの範囲に一致する。5.再生術直後(神経が未再生の時期)からみられる知覚回復現象があり、稲田らは隣接神経の機能的代償を想定している。

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[S06-05]
神経ブロックと薬物療法・アップデイト

Pharmacotherapy for neuropathic pain

加藤実1後閑 大1小川 節郎1 ( 日本大学医学部附属板橋病院麻酔科1)

われわれ臨床医が神経因性疼痛患者に薬物療法を行う際に知りたいことは、神経因性疼痛のどの疾患に対して、少ない副作用で最大の鎮痛効果を患者に提供するためには、何を基準にどの薬を選び、どのように処方すべきかである。
神経因性疼痛の薬物療法に関して、個々の薬物の鎮痛効果と副作用を表す指標として、初めてNNT(numbers needed to treat:1つの薬物が何人に1人有効かを示す数値、例えば2であれば2人に1人有効)やNNH(numbers needed to harm:何人に1人副作用が生じるかを示す数値、例えば5であれば5人に1人副作用)が紹介され約10年が経過した。
この間、主として帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパチーなどを対象に、新しい薬物も加わり、抗うつ薬、抗痙攣薬、オピオイド、ケタミン、リドカインなどの鎮痛効果と副作用に関して、無作為2重盲検の偽薬を対象とした研究が多く実施され、神経因性疼痛の各種疾患に対する鎮痛効果と副作用についての新しいNNT値とNNH値がFinnerupらにより報告された(Pain 118:289-305,2005)ので紹介する。
抗うつ薬では、三環系抗うつ薬が、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパシー、非糖尿病性多発性ニューロパシー、乳房切除後の慢性疼痛、脳卒中後の痛みに有効で、NNTは2-3 であった。一方、外傷性の脊髄損傷、幻肢痛、HIV性ニューロパシーには無効であった。三環系抗うつ薬の投薬が中止となるようなNNHは14.7であった。 SSRIは、多発性のニューロパシーに有効で、NNTは約7であった。
抗けいれん薬では、カルバマゼピンのNNTは、三叉神経痛1.7、 糖尿病性ニューロパシー2.3、脳卒中後の痛み3.4で、NNHは21.7であった。
ガバペンチンは、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパシー、外傷性脊髄損傷に有効で、ガバペンチンのNNTは3.8、NNHは26.1であった。
オピオイドでは、モルヒネが、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパシー、幻肢痛に有効で、モルヒネのNNTは2.5であった。オキシコドンは、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパシーで有効で、オキシコドンのNNTは2.6、NNHは17.1であった。
NMDA拮抗薬では、高用量のデキストロメトルファンは、糖尿病性ニューロパシーに有効で、NNTは2.5、NNHは8.8であった。リドカインパッチは、帯状疱疹後神経痛に有効で、NNT 4.4であった。カプサイシンのNNTは6.7、NNHは11.5であった。
 各薬剤のNNT値とNNH値を用いての薬物療法のアルゴリズム作りでは、鎮痛効果だけに主眼を当てるか、鎮痛効果と副作用の両者に当てるか、あるいは日常生活の改善度に当てるかにより異なったアルゴリズムができあがることになる。作成の際に考慮すべき因子には第1に無作為、二重盲検のコントロール研究での結果の一致性、第2に高い鎮痛効果、第3に持続性疼痛の軽減効果、第4に少ない副作用、第5に日常生活の改善効果、第6に安価などがある。
Finnerupらは、これらの条件に個々の薬物のクロスオーバーテストの結果なども加味して、末梢性の神経因性疼痛に対する薬物療法のアルゴリズム(第1選択薬として、リドカインパッチまたは三環系抗うつ薬、第2選択薬としてガバペンチン・プレガバリン、第3選択薬としてトラマドール・オキシコドン)を作成し報告している。
 発表時には、日本で利用可能な薬物に限定して、Finnerupらのアルゴリズムを一部修正加筆したアルゴリズムを紹介し、今われわれができる薬物療法の手順、また個々の薬物をどのように投与すべきかについてなどの現場での運用上の問題点を含めて報告したい。

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