統合失調症における民間療法について
健康食品がともなう社会的・医学的な問題
2002.11.23
Q.精神医学がよりどころにしている現代科学とは? |
A.科学的な理論は、多くのグループ、学派、様々の理論的立場に属する大勢の人々による、慎重な記録、統計学的調査、批判的検証、開かれた議論などを通じて、じっくり時間をかけたアプローチの結果に基づいているものです。精神医学における特定の治療法が正しいとされるためには、その治療が人々に対して有効に作用するならば、病気の同じ条件下にある他の人々にも同じように有効に作用するということを、上のアプローチによって証明されたものでなければなりません。他の分野にくらべて発展途上といわれる精神医学においても、厳格な統計学的な根拠あるいは明確な病理学的な証拠が求められることは言うまでもありません。
Q.民間療法とは何ですか? |
A.頻繁にみかけるものに、ハーブ、ビタミンの大量摂取(メガビタミン療法)、栄養療法、自然療法、キノコ類、漢方薬、新興宗教などががあげられます。どれも、上述の厳格な検証・評価を受けておりません。大学などの研究機関に籍をもつ学者個人、まれに特定の学会(そもそもは任意団体にすぎません)が賛同していると主張するものがありますが、皮肉を込めていえば、民主主義国家日本には言論の自由があるので驚くにはあたりません。アメリカはもっとカオス状態です。そのほとんどが、一見専門的であるような文献を示したとしても、科学的とは呼ぶにたえないものばかりです。
よくある宣伝文句に、以下のものが見受けられますが、これは間違いでありむしろ危険な考えです。
・薬物はどんなものでも副作用があるが、この療法は天然成分で安全であり副作用は一切ない
・薬物は人間にとって異物で有害であり、必須栄養分であるビタミン剤だけの摂取が望ましい。
Q.民間療法は本当に対価を支払うに足るべきか? |
A.科学的観点からは心もとないものです。医学的になんら効能が証明されたものではありません。それを自覚した上で、さほど高価ではなく「まあいいか」と思うならあくまで個人の責任です。ただしそれは、悪徳な新興宗教によるさらなる深い闇への入り口かもしれません。
Q.民間療法にはどんなリスクがありますか? |
A.実際に効用がないのに高額。臨床上の検証がなされていないため、有害物質を含んでいてもわからない。新興宗教とりわけカルト勧誘の窓口となっているなどがあります。
最近中国から輸入されたダイエット商品での死亡事故があったことは比較的知られていると思います。漢方についても必ずしも安全とはいいきれません。96年3月には、厚生省は医療用漢方薬「小柴胡湯」の副作用で10人が死亡したと発表しました。ちなみに、「小柴胡湯」は、統合失調症(精神分裂病)に対しても出されることがある漢方の一つのようです。
Q.自分には効果があったと主張する人がありますが? |
A.偽薬でも治ると信じれば、リラックスして、気分が良くなる感じなら得られるかもしれません。統合失調症は脳の病気であると同時に心の病という側面があるので、なおさら難しい問題を抱えています。プラセポ効果もあります。
余談ですが、昔、飲尿健康法なんてのがありました。しかも週刊誌やテレビ番組でどこかの大学教授がお墨付きを与えたりしてました。今でも実践している人がいるかもしれません。文化的な生活や偉大な宗教を生み出した崇高な高等生物=人間とは、信じてしまえば、おしっこさえ飲んでしまう奇怪な生き物なのです。
Q.インターネットの掲示板やメーリングリストで、積極的に宣伝したりする人がいるのは何故ですか? |
A.二通り考えられます。
1.商業目的:単に商売目的のもの。金銭的利益が目的のもの。
2.カルト:新興宗教が勧誘を目的としたもの。組織ではないが個人的な思い込みで妄信してしまっているカルト的性格をもった個人。
単なる商売目的も決してほめられたものではありません。しかし、もっと悪質なのは、新興宗教の勧誘を目的としたものです。とりわけ近年のカルトと呼ばれる宗教などが、科学の顔をした教義体系を主張しながら、既存の医療や科学理論を否定していることなどは、比較的知られつつあると思います。その勧誘を目的として、民間療法のサービス提供を窓口としている場合が多いので、気をつけてください。いわゆる宗教組織であることを隠した個人の場合も多く存在します。また組織ではありませんが、民間療法を妄信するちょっと変わった人が、インターネット上で宣伝していることがあるのも事実です。便宜上この両者をカルトとしました。
カルト的宗教あるいはなにかを妄信している個人がインターネット上で主張や宣伝を行う場合、その特徴として以下の点があげられます。もし、ネット上や私生活における会話のなかで、以下の項目のどれか一つでも入っていれば、カルトの可能性を考慮にいれてあらかじめ用心したほうが安全です。
・いかに医療事故が多いかを必要以上に過度に強調する
・精神医療が、患者に対していかに非人道的な行為をおこなってきたかを、過度に強調する
・精神医学による主流の治療方法は、全くか、あるいは、ほとんど効果がないと主張する。
・薬が脳内の神経伝達のアンパランスを是正するというのは、根拠がないのだと主張する。
・精神病の症状は、心の警告信号であるから、そのランプを薬で無理矢理消すのは逆効果だと主張する。
・薬物療法は、化学物質を用いて行うロボトミーであり脳障害を引き起こすと主張する。
・精神科による治療はすべて、非人道的で、患者の心を傷つけ、悪しき烙印をおすだけだと主張する。
・社会のなかで人間関係が損なわれていることが、精神病の唯一の原因なのだと主張し、それを修復、改善することだけが必要であり、医師の治療はいっさい要らないと主張する。
また近年では、いっそう手の込んだ手法もでてきているので、以下の点にも注意してください。
・科学的・専門的であるかのような文章を証拠だと称し、膨大な量を繰り返し繰り返し提示します。
・英語や外国語の文献を好んで紹介します。
・語り口は、むしろ温厚さや慈悲深さを感じさせることがあります。
・批判されると、個別の批判点には答えず論点をずらします。
・批判されると、その批判内容には返答せずに、文献をさらに羅列してきます。
・相手からの批判的なコメントを、自分の妄信に都合がいいように解釈してしまうことがあります。
・具体的に矛盾点を指摘されると、「木を見て森を見ず」といった台詞や有名な故事、熟語を頻発させます。
・指摘された矛盾に答えられなくなると、「それぞれの考えですから」と開き直り逃げの姿勢になります。一旦、逃げたにもかかわらず、後になって突然復活し議論が延々ループします。
・はじめの温厚さをとってかえしたように、急に感情的になり言いがかりだと怒りだすこともあります。
・さらには、学会や医師会、壮大になると国家から不当な排斥を受けていると主張することがあります。
*迫害を受けるという被害妄想は、とりわけカルト的な宗教にも共通するのでとくに要注意です。
*前世紀前半におけるペラグラといった疾病への記憶が影響となっているためか、精神病の場合も、健康食品のなかでとくに栄養素などを補給するサプリメントが水面下で人気のある民間療法のようです。
*ネットの掲示板などでみかける怪しい主張に、「精神病は脳アレルギー」といったものがあります。過渡的な取り組みが公共的に知られていないことをいいことに、臨床環境医学などの新しい領域の学問を都合良く曲解する主張の中には、いかがわしいものが含まれます。
*カナダの精神科医エイブラハム・ホッファーが精神病の治療に大量のナイアシンやビタミンを投与し有効であったとする報告などについて、科学的見地からこれを支持する報告はまだ存在しないようです。
*年末のMLの投稿にもありましたが、精神科による社会風刺的エッセイのページに、天才と分裂病の進化論、魚・魚・魚、魚を食べると分裂病が治る…か?という報告があるようです。
精神症状そのものには効果がないが、薬の副作用である遅発性ジスキネジアの改善が見られたということ。逆に、4割の人に向精神病薬の副作用が強くあらわれるようになったという相反する結果です。Webサイトの肩書の信憑性はともかく、全体的に「と」系、トンデモ系と呼ばれる主張に否定的なWebサイトでの発言なので、精神医療の利用側としては、楽観的に今後の医学的見地でのエビデンスを期待したいころです。一方、同様に精神科によるQ&Aには、投薬中のサプリメント摂取についてというかなり否定的な見解もあります。いずれにしても、健康食品等には主要成分には表記されていない未知の成分が含まれていたり、薬との飲み合せの問題があるがあるので必ず主治医に相談するべきです。一見、体調がよくなったように感じられる場合も、それは健康食品が単に薬の作用を弱めているがゆえに体が軽く感じられるといっただけの場合があります。)
Q.民間療法が有害物質を含んでいず、あるいは実行する時に危険を伴わないとすれば?それとも、民間療法は全くだめなんでしょうか?肯定的には全く評価できないのですか? |
A.治療効果という点では心もとないものですが、治療生活に「潤い」をもたらす効果はあるかもしれません。医師から一方的に処方される薬物療法では、どこか受身で人間味がなくて、それが長年続くとなると、ゆううつな印象を抱きたくなる人もいると思います。
自分のお気に入りのサプリメントを探し出して平行して飲むことは、自分から積極的に選択して、「病気と闘っているんだぞ」という自覚とメリハリが得られる点では、評価できるかもしれません。また、健康的とされる活動や運動を、家族と一緒に取り組んだり決まった日課とすることは、闘病生活の共有や安定した生活といった観点から評価可能だと思います。
しかし、実行する前には、念の為に医師に必ず相談してください。服薬や通院はきちんと続けてください。サプリメントなどの栄養が一般的な体質改善に繋がったりはするかもしれませんが、日常の食生活をしっかりさせ、睡眠をよくとることが先決です。他の趣味やレジャーに費やしたほうが、満足がえられると思います。また、募金に注いだほうが、世の中のためになるように思われます。
★補足:治療に一生懸命取り組んでいるご家族やご本人であるほど、民間療法への否定的なコメントに気分を害される方がおられると思います。お気持ちはわかるのですが、しかし、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患や癌などを見れば、すでに巷に民間療法の宣伝広告が横行し、消費者に対する実害までも生じていることは周知のとおりです。次の時代には精神病(鬱病なども含む)がその舞台になるのではないでしょうか。
参考リンク
Yahoo!トピックス−健康食品
「民間療法」トピックはないがニュース記事はたまに検索できると思います。
ガン治療の決め手は1日2回のコーヒー浣腸?:アメリカの「カオス状況」
ダイエットをうたった健康食品で重大な健康被害
ビタミンCにも違法添加物(古い記事のためようやく探した富山新聞の記事)
健康食品のイチョウ葉からアレルギー物質検出(読売新聞最新記事、ログは2週間程度で消えます)