年頭所感

(「創造とやさしさの国造り」のビジョン)

(はじめに)

国民の皆さん、明けましておめでとうございます。御家庭の皆さんと一緒 に、健やかに新しい年をお迎えになられたことと思います。 さて、本年は、いよいよ戦後50周年という節目の年であります。そして、 あと5年で2000年を迎えます。年頭に当たりまして、これから皆さんと一緒 に目指していく国造りの基本的な方向について、私の考えをお話したいと思 います。 振り返ってみますと、昨年6月に、村山内閣が誕生いたしました。この村 山内閣を構成する連立与党三党は、自己変革と互いの切磋琢磨に努めながら、 大胆な改革の推進、透明で民主的な政治、そして安心できる安定した政治を 目指してまいりました。その結果、長い間懸案となっておりました、政治改 革、税制改革、年金改革、被爆者援護法、本日発足した世界貿易機関への参 加、日米包括協議など、どれをとっても困難な課題に一つの大きな区切りを つけることができたと自負しております。 ここで、私は、戦後50周年を機会に、これまでの50年間を謙虚に振り返り、 今日の繁栄の礎を築いた先輩の方々の御努力に改めて感謝するとともに、な お残された課題をきっちりと解決してまいりたいと思います。さらに、来る べき50年を展望して、「改革から創造へ」と新たな飛躍を図りたいと思いま す。その際にも、かねてから申し上げておりますような「人にやさしい政治」、 庶民の気持ちを中心とする「より高度な民主主義」の実現を目指してまいり たいと思います。 このような観点から、私は、これから申し上げる4つの課題を柱とした、 「創造とやさしさの国造り」に取り組んでまいります。 (自由で活力ある経済社会の創造) まず第一は、「自由で活力ある経済社会の創造」であります。 戦後50年間、我が国の成長を支えてきた政治と行政、官と民、国と地方 の関係には、今や様々なひずみが生じております。私は、より自由で豊かな 国民生活を求めて、今日ほど行政改革に対する国民の皆様の期待が高まって いる時はないと痛感しております。 今こそ、私は、規制緩和、特殊法人の見直し、地方分権の推進、情報公開 などの行政改革を思い切って実行し、官から民へ、国から地方へ、また民間 の活力を生かした新しいフロンティアの拡大に向けて、大きな流れをつくっ ていく決意であります。そして、自由で活力ある経済社会が創り出されてい くものと確信しております。このような意味で、行政改革は、開かれた社会 を目指す新たな飛躍のための基盤づくりと言ってよいと思います。 また、我が国経済は、いわゆるバブルの崩壊とともに成長への信頼にかげ りが見えはじめ、産業の空洞化や雇用不安など、先行きに対する不透明感が 広がっております。こうした状況から一刻も早く抜け出し、将来への展望を 確かなものとするためには、内閣が一丸となって経済構造改革に取り組んで いかなければならないと思います。 このため、具体的には、まず、内外価格差を大幅に縮小することを目指し て、規制の緩和や取引慣行の是正を積極的に進めるこよが必要であります。 また、創意と意欲のある人々がより自由活発に活動できる環境を整え、経済 の新しい分野の開拓・拡大を図りたいと思います。さらに、失業の痛みを伴 うことなく円滑に労働移動が行われるような、柔軟な労働市場を創っていき たいと思います。このような考えに立って、昨年末に、産業構造転換・雇用 対策本部を内閣に設けて、思い切った取り組みに着手いたしました。 (次の世代に引き継いでいける知的資産の創造) 第二に、「次の世代に引き継いでいける知的資産の創造」であります。 天然資源に恵まれない我が国にとって、人的・知的資産こそが最大の資源 であります。 これからの我が国には、基礎的な研究や独創的な技術開発を充実させるこ とによって、新たな産業分野を創り出し、さらに、環境保全、エイズ、エネ ルギー対策など地球的規模の課題の解決にも積極的に貢献していくことが求 められております。このためには、ハード、ソフト両面にわたる研究開発に 必要な基盤を整備し、研究者からみても魅力的な環境を作っていかなければ なりません。 また、情報通信技術の発達のお蔭で、簡単な操作によって、世界のあらゆ る情報が指先一つで得られる時代となりつつあります。私も自ら端末操作を 体験しましたが、高度情報化が進むことによって、例えば、家庭にいながら 画面を通して、お医者さんの診察や様々な教育が受けられたり、好みの買物 ができるなど、これまでには考えられなかったやり方で生活がより便利で豊 かになっていくことが期待されます。このため、私は、利用者の立場に立っ て、官公庁、学校、病院、図書館などの情報化を推進するとともに、世界的 な情報ネットワークの整備などに積極的に参加してまいりたいと思います。 知的資産の創造は、文化の創造に他なりません。昨年大江健三郎さんがノ ーベル文学賞を受賞されたことは、まことに喜ばしい限りでありますが、そ の一方で、最近のいくつかの殺伐とした事件にもみられるように、人々の心 からうるおいが失われつつあることは、現在、最も深刻な問題の一つであり ます。物の豊かさから心の豊かさを目指して世界に誇れるような文化や芸術 を創り、それを国民の暮らしや地域の街づくりに生かし、そして国際的な交 流へと広めていく、そのための幅広い文化の振興に力を注いでまいります。 (安心して暮らせるやさしい社会の創造) 第三は、「安心して暮らせるやさしい社会の創造」であります。 21世紀の我が国は、子供が少なく、お年寄りが多い、小子・高齢化社会と なります。そういう中で、安心して暮らせるやさしい社会を実現するために は、国民の一人一人が家族や他人に対して、やさしさと思いやりの心を持ち、 社会全体として、お互いに助け合う仕組みを作って行かなければなりません。 例えば、お年寄りが安心して老後を送れるように介護の制度を充実したり、 高齢になっても希望すれば働けるような仕組みをつくっていく必要がありま す。同時に、障害者が自立し、社会参加ができるようにすることも重要であ ります。 また、このごろ痛感いたしますのは、心の通う教育の大切さであります。 21世紀を担う子供たちがお互いを思いやりながら心健やかに育つように、家 庭や学校での生活、教育について、今こそ真剣に考えていかなければなりま せん。 今や、銃や麻薬の問題も、決してゆるがせにはできません。銃や麻薬のな い社会を実現するためには、取締を強化するだけではなく、私たち一人一人 が、世界に誇ることのできるこの安全な社会を、強い決意で守って行かなけ ればならないと思います。 さらに、先頃環境基本法に基づいて環境基本計画を作ったところでありま すが、私たちが祖先から受け継いだ美しく恵み豊かな自然と環境を守り、リ サイクルを進めるなど、全ての人々が参加して自然と共生できる社会を作っ ていくことも必要であります。 (我が国にふさわしい国際貢献による世界平和の創造) 最期に第四は、「我が国にふさわしい国際貢献による世界平和の創造」で あります。 戦後50周年という節目の年を迎えるに当たって、私はまず、過去の一時期 におけるわが国の行為に対する深い反省に立ちながら、日本自身のけじめの 問題として戦後処理の個別の問題にきちんと対応し、平和友好交流計画を着 実に実行に移していきたいと思います。同時に、私がかねてより申し上げて おります「人にやさしい政治」を国際社会にも広げて、貧困と飢餓、人口と 食糧、環境と資源、エイズなどの問題に積極的に取り組み、世界平和の創造 に向かって全力を尽くして行かなければならないと思います。 また、昨年私は、多くのアジアの国々を訪れ、その旺盛な活力に深い感銘 を受けました。そして、これらの国々と共に繁栄の途を歩んでいくうえで、 わが国に対する期待の大きさを痛感いたしました。本年は、わが国がAPE Cの議長国であります。秋に開催される会議に向けて、貿易と投資の自由化 や開発の問題に積極的に取り組み、アジア太平洋地域の長期的な安定と繁栄 のために大きな役割を果してまいりたいと思います。 さらに、国際的に軍縮を進めることは、わが国としても取り組まなければ ならない重要な課題であります。本年春に開催される核不拡散条約の会議に おいてこの条約の無期限延長を達成するとともに、全面核実験禁止条約交渉 の早期妥結に向けて更に努力してまいる決意であります。 本年はまた、国連創立50周年に当たる年であります。わが国としては、安 全保証理事会の改革をはじめとする国連改革に積極的に取り組みたいと思い ます。加えて、本年は北京で世界女性会議が開かれる年でもあり、特に開発 の重要な担い手としての女性の役割に注目して、経済協力の分野において、 途上国の女性に対する支援事業を進めていきたいと思います。 来週、私は米国を訪れ、クリントン大統領と会談する予定であります。戦 後50周年を迎えるに当たって、これからの日米関係の長期的な方向について 突っ込んだ話合いを行い、両国の信頼関係をより確かなものにすることは、 世界の平和と安定にとっても重要なことであると考えております。 (むすび) 以上述べてまいりました「4つの創造」が現実のものとなり、新しい世紀 が輝かしいものになるかどうかは、私たち一人一人の肩にかかっております。 今後とも国民各層の方々の御意見をいただきながら、21世紀に向けて皆さ んと力を合わせ、自信と勇気と希望を持って進めば、必ずや「創造とやさし さの国造り」への途が開かれると確信いたします。 本年が国民の皆さん一人一人にとって実り多い素晴らしい一年となります よう、心から祈念いたしまして、私の念頭のごあいさつとさせていただきま す。