石井弱かった 吉田に惨敗/Dynamite!!
<Dynamite!!>◇12月31日◇さいたまスーパーアリーナ
柔道の08年北京五輪100キロ超級金メダリストの石井慧(23=アイダッシュ)が、総合格闘家デビュー戦で完敗した。92年バルセロナ五輪金メダルの吉田秀彦(40=吉田道場)との対決。繰り出したパンチは当たらず、タックルも決まらず、逆に吉田のパンチを浴びてマットに手を突き、流血もした。「60億分の1の男」を目指すと豪語してプロ転向を表明してから約1年。海外武者修行を繰り返してデビュー戦に臨んだが、まったくいいところなく0-3の判定負け。精神的ショックから試合後の会見を欠席した。
石井のパンチはほとんど当たらなかった。タックルから吉田をリングに倒すこともできなかった。初回には右フックを浴び、両手をついた。さらにパンチやひざ蹴りを浴び、鼻付近から出血。2回にはロープに追いつめて放った左ひざが吉田の股間(こかん)に入って減点1。ハイキックをつかんで倒す場面はあったが、最後まで攻撃の糸口をつかめなかった。腰は引け、背筋をピンと伸ばして攻めてきた吉田とは対照的。「ここで負けたら終わりですわ」と、豪語して挑んだ一戦は完敗に終わった。
落胆して控室に戻ると、試合前日の公開記者会見に続いて、公式会見を欠席した。代わって出席した所属事務所のマネジャーは「ちょっと精神的なダメージが大きくノーコメント。負傷もあり病院に行っている」と話した。控室では一言も話さず、黙ってイスに座っているだけだったという。
準備は万全に整えた。転向表明後の1年間で、海外修行に5度出向き、世界のトップファイターと肌を合わせた。ブラジルではUFC世界ライトヘビー級王者リョート・マチダと、米ラスベガスでは元UFCヘビー級王者ランディ・クートゥアらとスパーリング。だが、総合格闘技の経験豊富な吉田には通じなかった。
柔道で世界の頂点を極めた。12年ロンドン五輪でも連覇を狙える実力があった。今でも日本柔道界には「重量級に慧がいれば」という声はある。だが、石井は「ロンドンで連覇しても、それは現状維持でしかない」と、もっとも強い格闘技と信じる総合格闘技での頂点を目指して新天地へ飛び出した。
柔道時代から「勝ちにこだわる」が信条だ。試合前には、柔道の前五輪監督で国士舘大柔道部監督の斉藤仁氏に「試合を見にきてほしい」とのメールを送った。斉藤氏からは「プロの世界は勝ってなんぼ。自信を持って戦え」との返信が届き、石井は「ありがとうございます。勝負にこだわります」と返したという。恩師の助言通りに勝ちに徹しようとしたが、プロの世界は甘くはなかった。
もちろん、このままでは終われない。強さを求めて大阪・清風高から国士舘高に編入した柔道の「公式戦デビュー戦」でも石井は負けている。高2の1月、国士舘高編入後、初の公式戦となった全国高校柔道選手権東京都大会。石井は個人戦で吉田の出身校で、ライバルの世田谷学園の選手に敗れると泣いて悔しがった。だが、翌日の団体戦で岩渕監督に「先鋒(せんぽう)で」と出場を直訴。決勝の世田谷学園戦で3人抜きの活躍で優勝に貢献した。
柔道界のだれもが、石井はセンスはないと言った。それを猛練習で克服し、柔道の頂点を極めた。総合格闘技の第1歩は苦いものとなったが、乗り越えられないはずはない。石井と試合の複数契約を結ぶ戦極サイドは「次戦は本人、関係者と話をしてから」と話した。自らのえと「寅(とら)年」の夜明けを迎える直前、苦杯を喫した石井が悔しさをバネに「60億分の1の男」への再挑戦を続ける。【塩谷正人】
[2010年1月1日9時14分 紙面から]
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