1979年に発行された「ムー」創刊号の表紙=学研パブリッシング提供
UFO、超能力、古代文明、都市伝説。今なら、2012年に人類が滅亡するというマヤ暦をめぐる予言か。そんな衰え知らずの「世界の謎と不思議」に挑戦してきたのが月刊誌「ムー」(学研パブリッシング)だ。2009年が創刊30周年。荒唐無稽(こうとうむけい)な見出しが並ぶ雑誌だが、科学への危機感や社会への不安ものぞく。その長寿の“謎”を調べてみた。(竹端直樹)
最新の「ムー」1月号の総力特集は、やはりマヤ暦関連の「2012年大予言」だ。近年の実売は約8万部と健闘。編集長の三上丈晴さんによれば、若い女性の間のスピリチュアルブームや、鳩山首相夫人の幸さんが対談連載していたことなども話題になり、微風ながら追い風が吹く状態という。
そもそもの雑誌の始まりは、学年誌「高2コース」で毎月特集していた“謎”に関する記事がウケたことだった。「ムー」の企画発案者で2代目編集長を務めた太田雅男さん(現・学研ホールディングス顧問)はそう振り返る。「“謎”企画を一冊の雑誌に」と提案した。誌名は、伝説上の大陸とされる「ムー大陸」からとった。
1979年に隔月誌として出発。創刊号の総力特集「異星人は敵か、味方か?」で8万部刷り、実売約5万部だった。81年、月刊誌に。読み物中心に切り替えたことで「毎月1万部ずつ上乗せする勢い」(太田さん)になり、実売は20万部まで伸びた。
宇宙人ネタや、ピラミッドの謎、ヒトラーもの、「○○大予言」という記事が、誌面を飾った。読者の中心は高校生と大学生。アメリカで、近代科学と東洋思想を結びつけようとしたニューサイエンスが盛んになっていた。
部数急伸の背景について、4代目編集長だった土屋俊介教養実用出版事業部長は「幼少期に冷戦や公害を経験した世代は科学万能主義に行き詰まりを感じていた。その風潮にポコッとハマった」。現代文明に対する若者の危機感を上手にすくい取ったのだ。
編集方針の一つが「『不思議』や『謎』に驚くのではなく、仮説を立て推理や解釈を楽しむ雑誌」だった。オカルト文化に詳しい評論家の唐沢俊一さんは「UFOや心霊現象など、世の中の一般常識から外れた“裏の文化”を整理し、オカルトにはオカルトの理論体系があることを教えた初の専門誌だった」と語る。
守ってきた姿勢に「宗教の宣伝はしない」がある。かつて読者参加ページにオウム真理教が売り込みに来た。ヨガの知識が豊富なので一回は取り上げたが、会うと怪しく、以後は遠ざけた。
そのオウム真理教が95年、地下鉄サリン事件を起こした。「ムー」も大打撃を受ける。「たがが外れた集団の暴走で、『神秘』という言葉が汚いものを背負うようになった。推理すら拒絶する人が増え、科学だけでなく『不思議』にも希望がない、という空気になった」(土屋さん)
ネタの種類は創刊時からあまり変わっていない。「謎」「不思議」に対して、仮説を紹介するという姿勢も不変。変わったのは読者の年齢だ。現在の中心読者は30代から40代。初めて雑誌を手に取る世代も20代前半に上がった。