きょうの社説 2010年1月3日

◎北陸新幹線 必要な「コンクリート」だ
 今年は、2014年度の北陸新幹線金沢開業に向けて一気にスパートをかけたい。昨年 の初頭から石川、富山県を悩ませてきた泉田裕彦新潟県知事の「新潟の乱」が一段落し、新年度政府予算案でも北陸新幹線の建設費は「満額回答」となった。ひとまず一難去ったとみてよいだろう。予算案では未着工区間にも目配りがなされ、福井延伸の希望もつながった。

 新潟県に課される北陸新幹線の負担金のうち、泉田知事が支払うと言明したのは今年度 分だけであり、その先はまだはっきりしないものの、仮に、不払いが続いて予定通りの金沢開業が絶望的になっていたとしたら、沿線各県が描いている発展の青写真の実現は遠のき、地域経済に大きな打撃を与えたに違いない。鳩山由紀夫首相がよく用いる「コンクリートから人へ」というフレーズの一部を借りれば、昨年の危機は、北陸新幹線が掛け値なしに必要な「コンクリート」であることを、私たちにあらためて実感させた。

 予算編成で公共事業費を大幅に切り込んだ政府が、北陸新幹線に矛先を向けなかったの も、前原誠司国土交通相が金沢開業を遅らせないという態度を貫いたのも、単なる参院選対策などではなく、無駄な「コンクリート」とそうでないものを仕分けした結果と思いたい。今後も、北陸新幹線が大事な事業であるという認識を政府と沿線各県が共有し、着実に整備を進めたいところだ。

 そんな政府の姿勢を批判的な論調で取り上げている在京メディアも散見されるが、私た ちはそれに強い違和感を覚える。「新幹線=悪玉」という固定観念から抜け出すことができず、「コンクリートから人へ」という言葉の意味を曲解しているとしか思えない。

 政府は、そんな声に流されてはならない。むしろ、新幹線の強みと、北陸に必要とされ る理由をしっかり説明して偏った見方を押し返してほしい。沿線各県にも同様の取り組みが求められよう。

 特に強く発信してもらいたい新幹線の特徴は、環境に優しい点である。新幹線が1人を 1キロ運ぶ際に排出する二酸化炭素の量は、航空機の5分の1、マイカーの7・5分の1とされ、鉄道・運輸機構の推計では、北陸新幹線などの既着工区間がすべて開業して他の交通機関から旅客が移れば、二酸化炭素排出量を年間約36万6千トンも減らせるという。これは、杉の木を約2600万本も植えるのに匹敵する削減効果である。

 地球温暖化が世界的な課題となる中、海外では近年、環境性能に優れた高速鉄道を新た に整備する動きが広がっている。新幹線に関心を寄せている国・地域もあり、台湾に続いて、ベトナムも新幹線を導入したいとの意向を示しているという。政府は、高速鉄道構想を持っている米国やブラジルなどにも積極的に新幹線を売り込んでいく方針であり、いずれは日本発の環境技術の一つとして世界を席巻するかもしれない。

 にもかかわらず、国内では、新幹線と環境対策を結びつける意識が、いまだに薄いよう に感じられてならない。これも、長く喧伝されてきた「悪玉論」の弊害なのだろうが、そろそろ国を挙げて頭の切り替えを進める時ではないか。

 北陸新幹線の場合、着工に先だって国交省や民間シンクタンクが実施した試算などによ って、経済波及効果にも太鼓判が押されている。一例として、鉄道・運輸機構が公共事業再評価の際に実施した試算の結果を挙げると、金沢開業後は沿線各県の消費活動が活発化し、設備投資の活性化やビジネス効率の向上なども見込め、開業後10年目の効果は年間約1600億円に達するという。加えて、建設工事は当面の景気対策としても有効だろう。

 もちろん、▽ストロー現象によって活力が首都圏に吸い取られてしまう▽JRから経営 分離される並行在来線が重荷になる―といった懸念もあるが、こうした負の影響については、これから知恵を絞って最小限にとどめるための手を打っていけばよい。沿線各県が政府やJRなどの協力を得ながら努力を重ね、誰にも後ろ指を差されないくらいの準備を整えて、金沢開業の日を迎えたい。