【松井秀喜世界一までの2486日(2)】 松井秀喜は、めったに感情を表に出さない。
取材前、「こう答えてくれたら…」と私が勝手に想像しているものと、口にする言葉が同じになることはほとんどない。4年前の11月、雪のぱらついたブロードウェーの路上でも「いや、そんなことないよ」とかわされると思っていたのだが…。
「主張することはしないといけない、とは思っています。なめられちゃいけないし、足もとを見られてもいけない。何も主張しなかったら安い契約をされるだけ。(球団とは)常に対等な立場でいなくてはならない。チームが選手を評価するのはお金でしかできないでしょう」
ヤ軍との3年契約が終了した2005年のオフ、松井は現在と同様に渦中の人となっていた。「ヤ軍との再契約できたら一番いい」と言いながらも、代理人のアーン・テレム氏を通じた交渉は思うように進展しなかった。ヤ軍との独占交渉期間終了まで残り7日間に迫っていた。
「何が大事なのか? お金なのか?」と尋ねたときに返ってきたのが、この答えだった。
巨人時代の契約更改交渉では、常に一発サインをしていた。もめた前例はなく、お金には無頓着という印象があった。否定されることも想定していただけに意外だった。
「なめられたくない、という気持ちは巨人の時からあった。何年か、ずっと(年俸が)上だったし、あまりそういうことは考えなかった」
大リーグ3年間の経験が松井を変えたわけではなかった。“年俸には無頓着なゴジラ”と、こちらが勝手にイメージしていただけだった。
まだ31歳で、ひざ痛も表面化していなかった4年前とは状況が異なるが、「プロとして年俸も大事」という考えに変化が生じたとは思えない。今回の最優先は守備機会の保証だが、金額にもこだわるだろう。FA交渉は、プロとしての誇りをかけた、グラウンドとは違う場所で繰り広げられる“戦い”なのだから。