関門海峡衝突事故 「海の難所を甘く見るな」

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit2より、
朝日新聞 社説 2009年11月1日(日)付
関門海峡事故―海の難所を甘く見るな

 海峡や瀬戸、水道と呼ばれる海難の多発海域で、安全・安心な海上交通をいかに確保するのか。
 本州と九州の境にある関門海峡で、海上自衛隊の護衛艦「くらま」と韓国船籍のコンテナ貨物船が衝突した事故はその課題を改めて突きつけている。
 関門海峡でも、現場の関門橋付近は航路幅が約600メートルと最も狭い。潮流も速く、国内有数の難所として知られる。おまけに海峡を往来する船舶は1日約600隻にのぼる過密ぶりだ。
 海上保安庁の第7管区海上保安本部によると、管制などをする関門海峡海上交通センターにコンテナ船の前を航行する貨物船から、コンテナ船が接近したため「左を追い抜いて」と連絡が入った。センターはコンテナ船に貨物船の左側を追い越すよう助言し、貨物船には右に寄るよう伝えた。
 貨物船が助言に従い、減速すると、コンテナ船は追突寸前まで急接近し、左に急旋回した。センターは「くらま」に「異常に接近した船がいます。避けてください」と連絡したが、直後に衝突が起きた。「くらま」は乗組員全員が見張りなどにつく態勢だった。
 コンテナ船は向かい潮にかじを取られ、船体がほぼ横向きになった。このため、衝突せずとも航路脇に座礁した可能性が高い、と海保はみている。
 なぜ事故は起きたのか。海保と国土交通省の運輸安全委員会には事故原因を徹底究明してもらいたい。
 海保の直属機関である海上交通センターの情報提供のあり方も問われている。海保は「指示や命令ではなく援助措置で、従うかどうかは船長の判断」と説明する。一方「事故の原因につながった可能性は否定しない」とも述べている。
 来年7月の改正港則法などの施行に伴い、管制官の助言は一定の強制力のある「勧告」に格上げされる。これを契機に管制のあり方を再検討することも必要だろう。
 海上交通の難所とされる東京湾など全国11カ所の港、水域は、航路を熟知する地元の水先人を乗船させる「強制水先区」に指定されている。関門海峡もその一つで、護衛艦などを除き、通過する1万トン以上の船には水先人の同乗が義務付けられている。
 コンテナ船は1万トン未満で水先人は同乗していなかった。海保によると、昨年までの5年間、関門海峡では年に平均34隻が関係する衝突事故が起き、このうち9割以上が1万トン未満の船舶だった。だが、今回のような事故が起きない限り、注目を浴びにくい。
 関門海峡を通る船舶には現場に不慣れな外国船も多い。この際、夜間通航に限り「強制水先」の範囲を広げるなど、基準の見直しも検討すべきではないか。同様の問題が他の海域にもないか、国交省による総点検も必要だ。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2009103002000072.htmlより、
東京新聞【社説】『くらま』衝突 難所の安全 再点検を
2009年10月30日

 護衛艦「くらま」と韓国籍コンテナ船の衝突は、海の難所・関門海峡で起きた。狭い航路の中で船はどう誘導されたのか。事故原因の究明とともに、国内の数ある難所での安全対策を再点検したい。
 関門海峡は狭い海域が二十七キロも続く。潮の流れも速いことで知られる、国内有数の海の難所だ。事故が起こった「早鞆(はやとも)の瀬戸」は、航行可能な航路幅はわずか五百メートルにすぎない。
 ここでは港則法という船舶の法律に基づいて、右側通行が義務づけられている。コンテナ船がこの狭い海域で、前を行く貨物船を追い越す時に事故は起きた。
 海上保安本部の海上交通センターと貨物船やコンテナ船との無線交信は、衝突の四分前から始まり、管制官が左側から追い越すよう誘導していたもようだ。二分前には「くらま」の接近をコンテナ船に伝え、注意を促したものの、間に合わなかった。
 門司海上保安部などが関係者らから事情聴取しているが、まずはどういう経緯で事故が起こったか、速やかに詳細な事実関係を把握し、事故原因の解明に尽くしてほしい。管制官の誘導が適切であったか、コンテナ船の操船に問題はなかったか、細かなチェックが求められる。「後進いっぱいをかけた」という「くらま」側の衝突回避の行動にも調査が必要だ。
 とくに、追い越す海域として適当だったかは疑問だ。しかも、護衛艦が対向航行している時だ。「くらま」に異常接近を伝えたのは衝突の数十秒前というだけに、管制の在り方が問われそうだ。
 だが、航空管制と異なり、港則法では航路に入る船の順番や時間などの指示には、船舶側が従う義務があるが、操船は船長の判断に委ねられている。潮の流れやレーダーに映らない小船については、同センターでは把握できないためだという。
 しかし、関門海峡では漁船など小船を除いても一日約六百隻もの船が往来し、二〇〇八年には三十五隻の衝突事故が起きている。管制態勢に不備はないか。狭い海域での追い越しなどで新たな航行ルールは必要ないか…。さまざまな安全面の問題をはらんでいるのは、間違いなかろう。
 東京湾や伊勢湾など、大型船舶や日本の海に疎い外国船が行き交う海域では、どんな大規模な事故が起きるか分からない。海の難所の多い島国だけに、安全対策を見直す契機とすべきだ。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091029/plc0910290253003-n1.htmより、
産経新聞【主張】護衛艦衝突 装備や人員は問題ないか
2009.10.29 02:53

 関門海峡で起きた海上自衛隊の護衛艦「くらま」と韓国船籍の貨物船の衝突事故は、鳩山政権に初の危機管理対応を問うだけでなく、日本の防衛の問題点も浮き彫りにした。
 鳩山由紀夫首相は衆院代表質問への答弁の冒頭で「国民の皆さま方にご心配とご迷惑をかけた」と陳謝し、原因究明に努めると強調した。
 数日前に観艦式の旗艦を務めたばかりの護衛艦が炎や白煙に包まれ、原形をとどめないほど船首を損傷している映像は、国民に大きな不安を与えただろう。
 護衛艦の事故が続いている。なぜ繰り返されるのか。原因究明に加え人員や装備面も含めた根本的な再発防止策に着手すべきだ。
 海上保安庁は業務上過失往来危険容疑で事故原因の究明にあたっている。衝突前にほかの船を追い越したという貨物船の行動に問題がなかったか、護衛艦の衝突回避措置が十分だったかなどが焦点になりそうだ。多数の船舶が航行する海峡の実態にも改めて目を向ける必要がある。
 27日午後8時前の事故発生から15分後に首相官邸の内閣情報集約センターに第一報が入り、平野博文官房長官経由で首相に伝えられた。北沢俊美防衛相も官邸とほぼ同時刻に第一報を受けた。
 昨年2月のイージス艦「あたご」と漁船の衝突事故では当時の石破茂防衛相への連絡が大幅に遅れた。その点はひとまず改善されたようだ。
 一方、根本的な問題への取り組みは遅れている。イージス艦の事故や相次ぐ不祥事を受けて海自の「抜本的改革委員会」が昨年末にまとめた「改革の指針」は、法令軽視や道徳欠如などに加え、装備と人員面の問題を挙げていた。
 具体的には「護衛艦乗組員の充足率を80%から90%程度に上げる」ことだ。乗組員の不足は見張り要員の不足や乗組員の負担増大につながる。自衛艦の安全な運航に支障を来すような人員面の問題は「5、6年かけて」ではなく、早急に手を打つべきだ。
 昭和56年就役の「くらま」は旧式の蒸気タービンを使っている。新式のガスタービンなら逆進による回避ができた可能性があるが、これは最新鋭艦にしかない。
 護衛艦の装備近代化は7年連続の防衛費削減で遅々として進んでおらず、こうした問題点も指摘しておきたい。

http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20091029k0000m070120000c.htmlより、
毎日新聞 社説:護衛艦衝突事故 「難所」安全策は万全か

 関門海峡で27日夜、西に向かっていた海上自衛隊の護衛艦「くらま」と、東進中の韓国船籍のコンテナ船「カリナスター」が衝突した。火柱が上がり、両船の船首部分が大破したが、くらまの6人の軽傷にとどまったのは不幸中の幸いだった。第7管区海上保安本部が現場検証しているが、政府と海保に求めたいのは、原因と回避行動の徹底究明、難所とされる海域の航行対策である。
 現場となった関門海峡の「早鞆(はやとも)の瀬戸」は、大きく湾曲して見通しが悪いうえ、可航幅が約500メートルしかなく潮流も強い、国内有数の「航海の難所」である。ここを1日約600隻もの船舶が往来し、年平均19.4隻が関係する事故が起きている。
 今回の事故では、互いに右側を航行するルールとなっている現場で、コンテナ船が前方の船を追い越そうとして左側にふくらみ、くらまの針路に進入した可能性が高い。左側の追い越しは、関門海峡を管轄する海保の管制室の助言だった。海保は、乗組員の聴取や、双方の船舶自動識別装置による航跡・速度の解析などによる究明のほか、管制内容が妥当だったかどうかも調査すべきだ。
 また、双方の回避措置が妥当であったかどうかも焦点だ。北沢俊美防衛相は、くらまは通常、夜間には総員の3分の1で見張りをするが、狭水道であることから全員配置とし、衝突の危険を察知した艦長が停止のための逆進をかけたが間に合わなかったと説明している。
 防衛省は、昨年2月のイージス艦「あたご」と漁船の衝突事故を受けて、報告・通報を含む見張り能力の向上、指揮の徹底をはじめとする再発防止策を打ち出した。防衛相への報告は、あたご事故で1時間半かかったが、鳩山政権発足後初の「有事」となった今回は14分後だった。この点では大幅に改善した。しかし、見張りの実態や、あたご事故で問題となった回避行動の実情については詳しい調査が必要である。
 さらに、難所での航行規則の見直しについて指摘しておきたい。
 「早鞆の瀬戸」では、04年12月、西向きの強い潮流を受けながら東進していた貨物船が、前を行く油送船を追い越そうとして衝突した事故が起きた。また、05年4月には、東向きの潮流のなかで西進していた貨物船が油送船に追い越しをかけた時、東進する船舶を避けようとして油送船に衝突する事故が発生している。
 関門海峡は、中国や韓国など東アジアの海の玄関口であり、外国船の航行も多い。航路拡幅などで安全性は向上しているとはいえ、海上交通の要衝が難所である実態は変わりない。「追い越し」を含め航行規則の再検討も必要ではないだろうか。
毎日新聞 2009年10月29日 0時04分
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