【映画ジャーナリスト・大高宏雄インタビュー】"ゼロ年代映画"ベスト作品はどれ? 邦画活況がもたらした10年を検証
2009年12月31日22時06分 / 提供:日刊サイゾー
時代を映す鏡である映画は、2000年代の日本社会をどのように活写したのか? 『日本映画のヒット力』(ランダムハウス講談社)などの著書を上梓している映画ジャーナリストの大高宏雄氏は、18年の歴史を持つ「日本映画プロフェッショナル大賞」(略称、日プロ大賞)の主宰者としても知られる。日プロ大賞とは興行的に恵まれず、メジャーな映画賞からもスルーされたものの、評価すべき作品や監督、俳優たちを顕彰し続けている独立系の映画賞だ。邦画冬の時代から日プロ大賞を自腹で主宰してきた大高氏は、多様化した日本映画のこの10年をどう見ているのか。"ゼロ年代"を代表する日本映画ベスト5を挙げてもらいつつ、日本映画界の現状、そして今後について語ってもらった。
●大高宏雄氏が選んだ"ゼロ年代"日本映画ベスト5
1.三池崇史監督『殺し屋1』(01)
2.万田邦敏監督『UNloved』(02)
3.黒沢清監督『アカルイミライ』(03)
4.山下敦弘監督『リアリズムの宿』(04)
5.松本人志監督『大日本人』(07)
──ゼロ年代を代表する日本映画を5本挙げていただいたわけですが、『大日本人』以外は日プロ大賞でおなじみの監督たちのインディペンデント系作品が並びましたね。
大高 ゼロ年代を代表する監督となると、やはり三池監督、万田監督、黒沢監督、山下監督は外せないでしょう。それに『ユリイカ』(01)、『サッド ヴァケイション』(07)の青山真治監督を加えてもいいかもしれません。中でも三池監督は90年代から走り続け、その表現スタイルがゼロ年代に入って開花した印象がありますね。『殺し屋1』は、間違いなく三池監督の数多い作品群の中でひとつのピークに達した作品と言えます。バイオレンスを扱った内容のため、女性客や映画賞からは無視された作品ですが、コミックを原作にしている点でもゼロ年代的ですし、エンターテイメント映画として表現の限界を極めた作品として特筆されるべきでしょう。
──松本人志の監督デビュー作を挙げている点が、異色であり、また大高氏らしいセレクションです。
大高 2作目となった『しんぼる』(09)はひとりよがりに走り過ぎた感があり残念でしたが、『大日本人』は一般的なマーケティングや企画開発、プロデューサー的な発想などを全て取っ払ったなか、個人的なレベルで何が映画でできるのかを問うた作品として、とくに挙げたいですね。
このデビュー作において、松本人志は自分の思い通りのことをやってしまったわけです。これは今、なかなかできることではありませんし、面白いんですよ。世界そのものをバカバカしさで塗り込んでやろうという、彼の欲望とその実現は、今のこの時代に有効性があると感じます。その熱情は、あきれ果てるほどでしたが、やり方があまりに突拍子なため、その特異な世界に入れる人、入れない人の両極端を生んでしまうわけです。一種の個人映画と言ってしまってもいいですね。
ゼロ年代を振り返った際、人間社会における"個"の存在というものをどう捉えているかという重要なテーマがあるのではないでしょうか。だから、"個"と"個"の距離感を描いた映画に秀作が多く生まれているのも見逃せませんね。
万田監督『UNloved』は男と女の距離感を新しい視点で描いたものだし、黒沢監督の『アカルイミライ』は浅野忠信とオダギリジョー演じる兄弟分の共生観を描き、山下監督の『リアリズムの宿』はつげ義春が60年代に発表した漫画の中の旅人と旅先の人や風景との距離感を現代的に捉え直した作品。ゼロ年代映画のキーワードとして、"個"と"個"の関係性をどう描くのかという重要なテーマがある一方で、"個"の爆発そのものを描いたのが『大日本人』だと考えることができると思います。
●大高宏雄氏が選んだ"ゼロ年代"日本映画ベスト5
1.三池崇史監督『殺し屋1』(01)
2.万田邦敏監督『UNloved』(02)
3.黒沢清監督『アカルイミライ』(03)
4.山下敦弘監督『リアリズムの宿』(04)
5.松本人志監督『大日本人』(07)
──ゼロ年代を代表する日本映画を5本挙げていただいたわけですが、『大日本人』以外は日プロ大賞でおなじみの監督たちのインディペンデント系作品が並びましたね。
大高 ゼロ年代を代表する監督となると、やはり三池監督、万田監督、黒沢監督、山下監督は外せないでしょう。それに『ユリイカ』(01)、『サッド ヴァケイション』(07)の青山真治監督を加えてもいいかもしれません。中でも三池監督は90年代から走り続け、その表現スタイルがゼロ年代に入って開花した印象がありますね。『殺し屋1』は、間違いなく三池監督の数多い作品群の中でひとつのピークに達した作品と言えます。バイオレンスを扱った内容のため、女性客や映画賞からは無視された作品ですが、コミックを原作にしている点でもゼロ年代的ですし、エンターテイメント映画として表現の限界を極めた作品として特筆されるべきでしょう。
──松本人志の監督デビュー作を挙げている点が、異色であり、また大高氏らしいセレクションです。
大高 2作目となった『しんぼる』(09)はひとりよがりに走り過ぎた感があり残念でしたが、『大日本人』は一般的なマーケティングや企画開発、プロデューサー的な発想などを全て取っ払ったなか、個人的なレベルで何が映画でできるのかを問うた作品として、とくに挙げたいですね。
このデビュー作において、松本人志は自分の思い通りのことをやってしまったわけです。これは今、なかなかできることではありませんし、面白いんですよ。世界そのものをバカバカしさで塗り込んでやろうという、彼の欲望とその実現は、今のこの時代に有効性があると感じます。その熱情は、あきれ果てるほどでしたが、やり方があまりに突拍子なため、その特異な世界に入れる人、入れない人の両極端を生んでしまうわけです。一種の個人映画と言ってしまってもいいですね。
ゼロ年代を振り返った際、人間社会における"個"の存在というものをどう捉えているかという重要なテーマがあるのではないでしょうか。だから、"個"と"個"の距離感を描いた映画に秀作が多く生まれているのも見逃せませんね。
万田監督『UNloved』は男と女の距離感を新しい視点で描いたものだし、黒沢監督の『アカルイミライ』は浅野忠信とオダギリジョー演じる兄弟分の共生観を描き、山下監督の『リアリズムの宿』はつげ義春が60年代に発表した漫画の中の旅人と旅先の人や風景との距離感を現代的に捉え直した作品。ゼロ年代映画のキーワードとして、"個"と"個"の関係性をどう描くのかという重要なテーマがある一方で、"個"の爆発そのものを描いたのが『大日本人』だと考えることができると思います。
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