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【映画ジャーナリスト・大高宏雄インタビュー】"ゼロ年代映画"ベスト作品はどれ? 邦画活況がもたらした10年を検証

2009年12月31日22時06分 / 提供:日刊サイゾー

日刊サイゾー

──ゼロ年代最後の2009年を振り返るとどうでしょうか? 「キネマ旬報」11月上旬号の"ファイト・シネクラブ"でテレビ局参入によるマーケティング至上主義の弊害を唱えた大高氏の記事はとても印象に残っています。

大高 ボクはテレビ局が参入したことで、映画館に観客が戻ってきたことを評価しています。映画興行を成立させることが、何と言っても大事ですから、マーケティングを重視した映画があってもいいし、当然のことです。ただ、この1〜2年で市場原理主義というようなマーケティング主導の映画製作が、ちょっと度を超してきた気がしてなりません。あまりに人気獲りだけを考えた映画ばかりを連発していると、また邦画は飽きられて冬の時代に戻ってしまう。これを危惧します。ときには通り一辺のマーケティングを無視したような無謀とも言える野心的映画も必要。09年に公開された若松節朗監督の『沈まぬ太陽』は演出に不満があるものの、テレビ局に頼らずに映画会社の意地を見せた企画として木村大作監督の『劔岳 点の記』と並んで評価しています。

──三部作『20世紀少年』の最終章『ぼくらの旗』のラスト10分が試写では伏せられたまま公開されたことも業界内で波紋を呼びました。

大高 映画ジャーナリズムが軽視されているということですよ。作品が評論されることよりも、ネットに情報が流れてネタばれされる危険性を恐れられた。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』も、公開前にネットでネタバレが出て、すったもんだした。背景に、映画ジャーナリズムの軽視があると思います。が、一方ではプロの評論家ではない、一般ブロガーを優先した試写も催されるようになってきており、配給会社はその中身を結構気にするようになっています。

 また、今回挙げたインディペンデント系作品とは別に、85億円の興収を稼ぎ、観客満足度90%超(ぴあ調査)の『ROOKIES 卒業』を映画評論の立場からどう見るかという問題もある。"こんなの映画じゃない"と批判しても、それは不毛なこと。一体その批判をして、そのことを誰に伝えたいのか? 『ROOKIES』に満足した人たちは、そういった批評は読みませんよ。いくら批判記事を書いても、それは自己満足に過ぎないわけです。映画批判に関しては、新たな批評の形が必要な気がしますね。今、映画評論が置かれている意味、映画と活字の関係についての問題は、また改めて考えるべき深いテーマでしょう。

──日プロ大賞は2002年から授賞式が途絶えていましたが、09年度は授賞式を開催するんでしょうか?

大高 3月か4月に、各賞受賞者を招いてのイベントを考えています。今回の受賞候補になりそうな作品は、園子温監督『愛のむきだし』、高橋玄監督『ポチの告白』、鈴木卓爾監督『私は猫ストーカー』、松江監督『あんにょん由美香』などでしょうか。それに加えて、作品賞にどこまで食い込むか注目されるのが細田守監督のヒット作『サマーウォーズ』。今までのアニメの流れとは違った新しさを細田監督は感じさせます。

 日プロ大賞は単館系の作品を中心にこれまで選出してきましたが、単館系は単館拡大になり、さらに今ではシネコンの普及により、上映形態が混沌としてきました。単館系の意味が大きく変わり始めているわけです。メジャー系とインディペンデント系の区分もあいまいになっていますよね。"インディペンデント系"とひと言では括れなくなっている。そうした背景を含め、日プロ大賞も新しい方向性を打ち出していきたいと考えています。

 * * *
 メジャーな映画賞とは一線を画する日プロ大賞は、ゼロ年代最後の賞をどの作品に贈るのか。また、ゼロ年代映画に続く、新しい映画の流れは生まれつつあるのか。時代を映す鏡である映画の変貌をこれからも追っていきたい。
(取材・構成=長野辰次/(C)山本英夫/小学館「殺し屋1」製作委員会2001)

●おおたか・ひろお
1954年浜松生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、映画ジャーナリストとして現在にいたる。「キネマ旬報」で"大高宏雄のファイト・シネクラブ"を好評連載中。映画界の興行に精通し、『日本映画のヒット力 なぜ日本映画は儲かるようになったのか』(ランダムハウス講談社)などの著書がある。また、92年より毎年1回、「日本映画プロフェッショナル大賞」を主宰し、2009年11月には18年にわたる同映画賞の歴史をまとめた『映画賞を1人で作った男 日プロ大賞の18年』(愛育社)を上梓した。




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